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ある少女の憂鬱と相棒



佐久間有空のため息をつきたくなる原因は、実のところ、弟の求婚者達だけではない。





『――ふむふむ、ミオの名は、海の真ん中という意味なのか。それはまた壮大な名前じゃのう』

「うん、その位広い心になってほしいって意味が込めてあるんだって」


のほほんと答える弟は、確かに広い心の持ち主になった。

………広すぎる心の持ち主に。危機感が無さ過ぎる程に。


『して、アリスの名はどんな意味があるのかの?』

「あーちゃんはねー、心に空があるってことで、皆を見守ってくれるようにって意味らしいよ」

『ほう、それもまた良い名じゃのう。二人とも良い名前を頂いたことじゃ』


そうでしょー? とにこにこ笑う海央は本当に可愛い。……その両手にクッキーを手にして、頬張り続けていても。

ちなみに海央、あんたそれ二十五枚目……。

弟の底知れない胃袋からは目を逸らし、有空は呆れたような声を発した。


「……見守る役目も疲れるわよ。で、アンタは魔剣のくせに、何でそんなに呑気に神の眷属とおしゃべりできるわけ…?」


ふよふよと、空中に漂う一つの人影。

白っぽい長い髪に銀色の瞳をした、可憐な少女のようなそれは、実は人間ではない。


『別に、悪さをするわけじゃないからの。我はとっくの昔に魔の眷属とは違う存在になっておるし』

「……あ、そう…」


頭が痛くなってきた。

仮にも魔剣と言うならば、聖なるものとは対立しているのが普通ではないだろうか。

今更この世界で常識を求めてはいけないと思いつつも、ある意味王道を走ってきたばかりに、これはちょっと予想外だった。


――そう、実はその少女の正体は、有空が宝物庫を漁っていた時に偶然発見した、一振りの剣であった。

隅っこの方で、埃まみれのがらくたのようなものと共に壁に立てかけられていた一本の黒い剣。

吸い寄せられるように手に取ると、それは表面の黒い部分が弾けるようにして飛び散り、美しい銀の剣となったのだ。

重さは軽すぎず重すぎず。ぴったりと手に馴染んだ。

伊達に剣道を続けてきたわけではない。自分に合った竹刀の選び方は大分わかってきていたつもりだったが、これほどに好みの重さに出会うとは思ってもみなかった……それも、本物の剣で。

すらりと鞘から抜けば、ただの剣ではないと何故か理解した。

そしてその夜だっただろうか、いきなり剣から一人の少女が現れたのは。


『ふむ、ようやく現れた我が主はそなたか。まさか巫女の騎士とは……運命も奇異なものじゃ』


茫然とする有空に向かって、真っ黒なゴスロリ的ドレスを身に付けた美少女はそう言って、優雅に礼を取って見せた。


『我が名はアルジェンティア。太古の昔に魔人と呼ばれたもののなれの果て、つまるところ魔の剣じゃ。新しき我が主よ、これからよろしく頼むぞ』


有空の見つけた剣は、喋る所か魂が憑いている剣だったのである。

ちなみに今まで鞘から抜くことが出来た者はいなかったとか……どんな勇者的展開ですか。魔剣だけど。

アルジェンティア――アリア曰く、これまで好みの人間が現れなかったから抜かせなかったらしい。

私は気に入ったのかと問えば、魂の性質が気に入ったとか。

美味しそうだと言われた時には、危うく城のバルコニーから投げ捨てる所だった。

そこまではまだいい、いいのだが――。

聖なる巫女である海央と普通におしゃべりをする所もまだ、許せる。しかし、だ。



「……アリア、それは一体何なの」

『む、しまった、見つかってしまったか』


普段は幽霊のような肉体を持たない体でぷかぷか浮いているアルジェンティアだったが、短い時間であれば、実体化できるらしい。

その時間に彼女はよくよく、有空にとっては非常にろくでもないことをしてくれるのだ。


『なに、お主ら双子はあまりにも麗しいと人気があるのじゃ。アリスの賃金の足しにもなろ』

「だからって勝手に人の人形を作って売りさばくんじゃない! あーもう、アンタは本当にーっ!!」


実体化していたアルジェンティアの手に握られていたのは、手のひらサイズの二つの小さなマスコットだった。

実に精巧で可愛らしく――佐久間姉弟にそっくりな。

人形を奪い取り、背後にあったたくさんのそれをも掻き集めると、布袋に詰める。

廃棄処分決定。

一発殴ってやると振り返れば、もうアルジェンティアの姿は無かった。


「アリアーっ!!」


気まぐれに姿を現す剣の魔人には、ほとほと困っている。

何しろ、剣を使っている時は別にいいのだが、そうでない時は暇だと、何をしでかすかわからないのだ。

最近は金もうけに目覚めたらしく、何故か手先が器用でセンスも良いために、こういった人形を作ったり絵を描いたりして売りさばいていた。

それが別に風景だとか動物だとかなら問題がないのに、何故か全て、有空と海央をモデルにしたものばかり。

自分の絵や人形がどこの誰ともわからぬ輩の手に渡っていても嫌だが、それ以上に、あの変態達が海央を模した物体を手にしていたらと考えるだけで怖気が走る。

何度壊そうとしても、銀の魔剣はぴんぴんしている。有空が怒っている時は絶対に、剣に同化してアルジェンティアは姿を現さないのだから、持ち主の鬱憤は溜まるばかりだった。

悪戯を大目に見て有り余る程に、魔法攻撃を緩和するだとかどんなものでも斬ってみせるだとか能力が高く、これ以上のパートナーは望めない程だから、有空は手放せないのだが、いい加減疲れる。




彼女は知る由もなかったが、双子の人形は非常に高値で取引されており、海央の人形はもちろん、有空の人形もまた、彼女に心を奪われた女性達によくよく好評であったりした。

こうしてまた、双子の人気は高まるのであった。

渦中の少女の望まぬところで。




――これも一種の愛情表現じゃ、なんて銀の少女は言うけれど、有空にとっては迷惑極まりないことだった。





久々ですが少々短かったですね……。

主人公の苦労は色々あるんです。

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