第0章 概略
21世紀半ば、日本では政党政治が限界を迎えていた。与党は汚職の限りを尽くし、国民の政府への信頼は地に堕ちていた。国政選挙での投票率は3割台が当たり前となり、政府に期待する国民は皆無といって良い状態であった。
20XX年、クーデターが発生した。陸上自衛隊第一師団が都内のテレビ局・新聞社といった報道各局を占拠した。同時に霞が関にも部隊が集結し、各省庁が占拠された。霞が関・永田町は陸自の戦車に包囲され、他地域の警察が侵入することもできなかった。自衛隊と警察との間の小規模な戦闘が都内各地で発生し、警察官67名・民間人12名が死亡した。首相以下、各閣僚の安否が不明の状況が続く中、その日の夕方、報道各局を通じて全国に自衛隊からの発表があった。
1、陸上自衛隊第一師団は、現政府の目に余る腐敗のため、政権打倒の兵を挙げた。
2、首相を含め全閣僚は自衛隊が拘束し、拘留している。
3、現政府の解体を宣言するとともに、日本国憲法を停止し、自衛隊による臨時政府樹立を宣言する。
4、自衛隊臨時政府の暫定首相には、陸上自衛隊第一師団長の水野正幸が就任する。
5、臨時政府の具体的方針については後日通達する。
翌日には同様の内容の通達が、在日各国大使館を通じて各国政府に送られた。アメリカを始め各国政府は自衛隊政府への対応を決めかね、傍観の姿勢を取った。
警視庁はこの事態に対し、千葉県警察本部内に警視庁特設臨時対策本部を設置した。警視庁本庁舎は自衛隊に占拠されていたため、クーデター発生時にたまたま霞が関を離れていた警視庁職員が全員かき集められた。閣僚・官僚の安否確認、治安維持のためのSAT出動、近隣警察本部への協力要請、水野師団長ほか臨時政府高官の背後関係の調査、法律顧問を招集しての対応協議などを行った。そうしている間にも自衛隊部隊は勢力圏を広げ、二日後には都内全域が自衛隊政府の支配下に入った。