桜ストラトジー【オリジナル小説】
出会いと別れの季節
さらさらとゆらめく風にのせて桜の花びらが過ぎ去っていく季節。
私は新たな出会いにワクワクとした感情を持て余していた。
高校受験でずっと家にこもっていたので、卒業式からのインターバルに気持ちがすっきり落ち着いていくのを感じていた。
「うーん。桜並木が本当に綺麗。綾にも見せてやりたいなぁ。」
綾というのは私の長年の幼馴染の男の子のことだ。
私の名前は名花。桜のちょうど今くらいの季節に生まれたから、花。と言う字をいれたかったのだと両親から聞いていた。
「そうだ。写メとって綾に桜をみせてやろうー。」
携帯をかざして、写真をとろうとしていたタイミングで綾からメールが送られてきた。
内容は高校卒業後は、海外に旅にでるという内容だった。私にとっては寝耳に水のことで、こんなにも近くにいたのに報告してくれなかったことに頭の中が真っ白になった。
「嘘。」
愕然としながら、どうやって返事をしたら良いか分からず傷心をひきずって。とぼとぼと自宅へ歩いていく。
そして、家の前まできたところで綾が玄関の前で待っているのを見つけた。
「よう。花見は楽しかったか?」
能天気な表情と言葉に、私はカッとなって叫んだ。
「ふざけないでよ!!あんな大事なことメールでよこさないでよ!」
「悪い悪い。最初は馬鹿にされると思って、大学の入試で受かるまで黙っていようと思ってたんだよ。だって宣言しておいて失敗したらいい笑者だろう?」
「・・・笑わないわよ。ばか。」
綾の言葉にかっこつけたかっただけなのだと知り。これ以上は怒れないと名花は落ち着いてきた。
だが、こんどは怒りの変わりにもう会えないのだろうかと思う寂しさが募って、悔しさで身体が小刻みに震えてきた。
そんな私をみかねて、やっと私がどんなに彼のことが好きだったのかと思い至ったのか、少し照れくさそうにポッケから何かを取り出した。
「これやるよ。俺が海外に行っていて寂しいだろうからお守りがわりにしろって。」
それは赤とオレンジの網目模様のビーズのピンキーリングだった。
「なにこれ?」
「俺が作ったアクセサリー。初めてだから小指に入るぐらいのやつしかできなかったんだ。本当は左手の薬指にはめるやつにしたかったんだけど、これが今の俺の最高傑作だから。」
左手の薬指という言葉に結婚まで考えてくれていたと思い至り、頬が赤く染まっっていくのを感じた。
「・・・もしかして、これって他の男の子たちにたいする牽制だったりするの?」
私の言葉に流石におちゃらけてはいけなかったのか、彼の頬もつられて赤くなってきた。
「まぁ、そういうこと。大学卒業したら絶対に帰ってくるから、それまでピンキーリング捨てるなよな!」
そういって恥ずかしげに笑う彼に私も涙目になりながら幸せで笑ってしまった。
彼が迎えにきてくれるのを一才疑う事なく、私は大人への階段を登ろうと決意した。
「待っているから。」
「ああ。結婚するまで待ってろよ!」
二人の道はいっときだけ離れるけども
交差する運命の時を綾も名花も待ち続けるのであった。
二人の歩みに幸多からんことを願う
一ノ瀬圭 作