2.これは……?
いつも通り能力値のことで散々悩んだ後、また一つため息をついて思考を切り替える。
今の状況としてはこうだ。
試合形式の授業で倒され、その後保健室に運ばれた。
そして気がついた俺は自分の能力値を確認してあーだこーだと悩み出した。
「うん、いつも通り」
とても悲しい気持ちになりながら、これもいつも通りと無理矢理納得させる。
窓の外を確認すると、空はもう暗くなりかけていた。
どうやらいつも以上に寝ていたらしい。
「……帰ろう」
保健室を出ようとすると保険の先生が帰ってきたので、大丈夫と言ってそのまま教室へ向かう。
誰もいない教室に踏み入ると、いつもクラスメイトが多く賑やかな昼間とのギャップで何だか変な感じがする。
窓側の一番前。
その机の横にかかっている鞄を手に取って教室を後にしようとした。
「……が…ば……あ…………こ…………け………え……な………ら…………」
「え?」
何か聞こえたような気がして振り返るが、誰もいないし何もおかしなことは起こっていない。
「……気のせいか?」
あまり気にせず、今度こそ教室を後にする。
廊下を歩きながら考える。
週に一回、毎週金曜日はこんな感じだ。
なぜ試合形式の授業が金曜日の六限目にあるのか。
これさえなければ気分良く週末を迎えられるのにと思わずにはいられない。
高校に入学してから一年間、今と全く同じように過ごしてきた。
それは進級して1ヶ月経つ今も変わっていない。
と言うより、人生を振り返っても常にこんな感じだった。
それもこれも能力値がオール1だから。
たったそれだけの理由でだ。
「……まあ、それだけが全てなんだから仕方ないんだけど」
生きにくいこの世界を変えてやろうなんて大それたことは考えていない。
せめて普通の生活がしたい。
でもこの先進学するにしろ、就職するにしろ、結局は今まで磨いてきた能力値、そしてそれを駆使して得てきた実績がものを言うのだから、どう考えてもこの先の未来は明るくない。
正直なところ、最低限……本当の意味での最低限の生活が出来ればそれでいい。
我ながら目標の低いことだが、能力値が最低の自分にはお似合いだろう。
そんな卑屈な考えを巡らしていると、気づけば家の前まで来ていた。
鍵を開けて中に入る。
両親はいない。
俺が小学四年生の時に事故で亡くなったからだ。
両親が残してくれたこの一軒家と貯金を使い、一人で生活をしている。
親戚もいないので身寄りがない俺は、能力値も低いため養子にと迎え入れてくれる人もいない。
そのため今までずっと一人で生きてきた。
それもこれも能力値が最低だから。
何をどうしてもそこに行き着いてしまう。
父さんも母さんもごく普通の人だったと聞くので、せめて普通の能力値が欲しかったと思うことも多々ある。
「……そんなこと言っても仕方ないよな」
気分を切り替え洗濯、食事、風呂と順番にこなしていく。
そして明日に備えて寝ようとした。
「……」
その時だ。
「オープン・ジ・アビリティ」
ふと自分の能力値を確認した。
数時間前も確認した。
それなのになぜそうしようと思ったのかは分からない。
分からないが、生涯でこの日の出来事は忘れないだろう。
「……何、これ?」
その瞬間から、俺の世界は人とは違う方向へと歩み出したのだから。