大戦の予兆 第0章 交錯する思惑
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
私のいる県にもオミクロン株の大流行により、蔓延防止等重点措置が出されました。読者さまの住んでいる所でも蔓延防止等重点措置が出された場所もあるかもしれませんが、これが緊急事態宣言に拡大しないよう願っています。
私自身もオミクロンに感染しないよう日々、予防等、抜かりなくやっております。
1944年3月上旬。
大日本帝国東京湾。
特務艇[はしだて]では、統合省防衛局統合幕僚本部、菊水総隊海上自衛隊、破軍集団海上自衛隊、防衛局長官直轄部隊海上自衛隊、新世界連合軍連合海軍、連合支援軍海軍、朱蒙軍海軍、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍、連合国海軍、枢軸国海軍、大日本帝国海軍の将校団が集まり、立食パーティーが開かれていた。
むろん、文民として各局のマスコミや、メディア関係者たちも、乗艇している。
「これは、酢豚かな・・・」
統合幕僚本部運用行動部に所属する氷室匡人1等海佐は、並べられた料理を取り分けスプーンで、自分の皿に取り分けながら、つぶやく。
「ヒムロ大佐。パーティーなのに、そのような暗い顔は、似合わない」
ラテン語訛りが強い日本語で話し掛けられた氷室は、振り返った。
その声に、聞き覚えがある。
「バリーニ中将。お久し振りです」
「やあ、ヒムロ大佐。大佐への昇進、おめでとう」
氷室に話し掛けたのは、枢軸国イタリア王国海軍空母機動部隊の司令官である、ダリオ・バリーニ中将である。
「さて、その料理は何かな?」
「酢豚ですよ」
「スブタ・・・?中国料理だったかな・・・」
バリーニはそうつぶやきながら、取り分け用のスプーンを持って、自分の皿に酢豚を乗せる。
彼はフォークを使って、ピーマンと豚肉に突き刺す。
「うむ。これは美味い。中国料理というのは、これ程、美味い物なのか・・・」
「[はしだて]の調理員たちが、腕を振るって作りましたから」
「ヒムロ大佐。君も、この・・・スブタという料理は、食べないのか?」
「あ、はい、食べます」
氷室は、酢豚を口に運ぶ。
さすがに特務艇[はしだて]の調理員たちが作った料理だけあって、かなり美味い。
「しかし、これだけの世界各国の料理を並べられるとは、さすが未来人たちだな。未来では、これだけの料理を用意出来るのか・・・?」
「ええ、まあ。材料があれば、何でも作る事が出来ます。でも、この時代でも可能でしょう」
氷室は、バリーニの事を考えた。
彼の事であるから、自分を見つけるまで、イタリア料理のところに屯していただろうと・・・
「バリーニ中将。イタリア料理は美味しかったですか?」
「イタリア料理?そんなもの食べてないよ」
「えっ?食べていないんですか・・・?」
「当然だよ。こんないい所に来たのに、自国の料理だけしか食べないなんて勿体ないよ。世界各国の名物を食べているよ」
「ですが・・・ここに来ている海軍の将校たちは、自国の料理コーナーで、未来の海軍軍人たちと料理を食べながら、立話しをしていますが・・・?」
「俺も、そのつもりだったんだが・・・男と話すのは、どうもやる気が出ない。上官には、女性将校も参加していると聞かされていたけれど、女性の姿形もないんだよね・・・騙された・・・」
「ソウデスカ・・・」
氷室は、心の中で、騙されやすい人だな・・・と思った。
彼の上官も、そこのところを知っているから、そう言って、彼を出席するように仕向けたのだろう。
「そうだ。ヒムロ大佐。君が紹介してくれないか?」
「はいぃぃぃ~?」
「俺は、空母機動部隊の司令官に任命されたのだけど・・・空母の運用に付いては、ほとんど素人なのだよね。だから、未来の軍人たちと、雑談して未来の空母運用を知ろうと思ったんだ」
「そうですか・・・まあ、貴方とは知らぬ仲ではありませんから、いいですよ。まずは誰から行きますか?」
「まずはニューワールド連合軍連合海軍に加盟する、イタリア海軍から話を聞きたい」
「わかりました」
「こちらの方は、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第5艦隊第5外洋部隊司令官のジューリオ・マンチーニ上級少将です」
氷室が、新世界連合軍連合海軍に加盟する、イタリア海軍の空母機動部隊司令官を紹介する。
「ヒムロ大佐。彼は?」
上級少将は、皿にトマトとベーコンが入ったパスタを乗せながら、聞いた。
「あ、はい、彼は・・・」
「イタリア王国海軍空母機動部隊司令官の、ダリオ・バリーニ中将です」
中将という階級を聞いて、上級少将は姿勢を正した。
「これは失礼しました」
「固い話は抜きにしましょう。では、私も・・・」
バリーニは、ミートボールとトマトが入ったパスタを、皿に盛る。
「それで、私に何か用ですか?」
「では、早速・・・」
バリーニは、フォークでパスタを巻きながら、本題に入った。
「私はイタリア王国海軍の空母機動部隊司令官を、拝命したのですが、空母艦隊の運用については、まったくの素人なのですよ・・・」
「なるほど。それで私に空母の運用について話を聞こうと・・・」
「そう言う訳です」
マンチーニは、新世界連合軍連合海軍に加盟するイタリア海軍が、空母を運用するについての歴史から説明を受けた。
1921年にジュリオドゥーエ将軍が発表した[制空]は、イタリア統帥部に強烈な影響を与えた。
1923年にイタリア王立空軍が発足すると、海軍は全ての航空機を失った。
洋上哨戒、艦隊防空、対艦攻撃等の海上航空作戦も、空軍の管轄となった。
さらに空軍は、自分たちの発言権等を含む権限を強化するため、空軍法を制定した。
これにより、正式に固定翼機の運用が、陸海軍で禁止された。
それだけでは無く、空軍は海上作戦に対する関心が薄く、訓練も十分に行われなかった。
イタリア王立海軍は、航空母艦を運用していたものの空軍は、イタリア本土と北アフリカの制空権等は、陸上の航空基地のみで運用される陸上機だけで、地中海の作戦を、すべてカバー出来ると考えていた。
そのため、空母は運用していたものの、艦上機の運用をしないまま、第2次世界大戦を迎えた。
最後の海戦であったペデスタル作戦に至るまで、空軍の非協力等が続き、航空作戦があれば勝利出来た勝機も逃していた。
大戦後、イタリア陸海空軍は、軍備に制限を課されていたものの、冷戦構造の成立と共にNATO軍の一翼を担うべき軍の再建が図られる事になった。
巡洋艦の運用が行われていたため、1960年代に輸送船団の艦隊防空及び対潜防御を担うものとして、航空母艦の設計が行われた。
ただし、これは未来人の歴史の中での話である。
「随分と私たちの時代とは、違いますね」
バリーニは、フォークに巻いたパスタを口に運びながら、つぶやいた。
「確かに、私も驚いています」
マンチーニも、自分たちの歴史の中でのイタリア空軍と、この時代のイタリア空軍の違いに付いて、驚いているという事を、素直に述べた。
バリーニのいるイタリア海空軍は、彼らの知るイタリア海空軍のような嫌がらせは存在しない。
イタリア空軍も、海上での艦上機運用に付いては積極的であり、海上での航空作戦についても熱心に海軍と協議し、訓練と運用を行っていた。
わざわざ、大日本帝国海軍から旧式の艦上戦闘機、艦上爆撃機、艦上攻撃機を譲り受け、熱心にそのノウハウを取得していった。
「確かに、空軍の中には貴方たちの記録のように、空軍が固定翼機の運用について独占し、海上での航空作戦は、必要無いという空軍将校もいます。今回の空母運用は、そのような考えを粉砕するために、行われるものなのです」
バリーニは、ミートボールをフォークに刺す。
菊水総隊海上自衛隊副司令官である黒山一松海将は、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍司令官のアーサー・スタンプ・ケッツァーヘル大将と、雑談をしていた。
「さすがに[はしだて]の調理員たちが調理した料理は、なかなか美味いな」
ケッツァーヘルは、フォークで肉じゃがを突きながら、つぶやく。
「[はしだて]の調理員たちは、海上自衛隊が誇る、料理人たちです」
特務艇[はしだて]は、海上自衛隊の迎賓艇として、初めから設計された特務艇だ。
これまでの海上自衛隊の迎賓艇は、退役した掃海艇を改装した物が就役していたが、老朽化の問題等もあり、本艇は初めから設計、建造された。
戦闘するための装備は搭載されていないが、2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件後に非常警戒態勢が敷かれた際には、武装した警備要員を乗艦させて、横須賀港内の警戒任務に付いていた事が報道されたりもした。
海上自衛隊の艦艇であるため、厨房の調理員は海上自衛官である。
しかし、他の自衛艦艇のように、誰でも調理人として乗艇出来る訳では無い。
毎年行われている、自衛隊内の料理大会で、特に腕のいい調理人たちが選抜されている。
むろん、勤務成績や普段の行い等も評価の対象とされているが、[はしだて]での勤務は海上自衛隊の調理人にとって、誇りとされている上、最高の目標の一つになっている。
しかし、[はしだて]の調理人になるには、かなりの狭き門であり、倍率は、かなり高い。
「厳しい選抜試験の中から選抜された調理人たちですから、料理は保証しますよ」
黒山は、[はしだて]の調理人たちが作ったカレーライスを食べながら、答える。
「ですが、サヴァイヴァーニィ同盟軍の快進撃は、続きますね・・・」
「確かに・・・な」
サヴァイヴァーニィ同盟軍は、圧倒的な電撃戦により、勢力範囲を拡大させているが、支配下になった地域では、サヴァイヴァーニィ同盟に対する不信感が募っており、反サヴァイヴァーニィ同盟抵抗軍が組織され、抵抗運動が行われている。
しかし、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟国内軍による迅速な行動により、抵抗運動活動はことごとく鎮圧されている。
さらに密告制度が敷かれており、サヴァイヴァーニィ同盟の勢力範囲下の傀儡国家は、完全な警察国家として、反体制派の検挙数は、日々、増加している。
それでも抵抗運動の根を摘む事は出来ず、抵抗運動に参加する活動家は増える一方である。
「我々の時代でも、北朝鮮等の独裁国家では、反体制派の摘発に力を入れていたが、結局、どれだけ摘発しても、完全に反体制派の根を摘む事が、出来なかった」
「在日アメリカ海軍と在韓アメリカ海軍は、北朝鮮での反体制派狩りに対して、亡命者の保護と救出のために艦艇を出動させていましたね」
「むろん、海上自衛隊と韓国海軍にも、協力を要請した」
2020年代に、北朝鮮の国内では、反体制派狩りが本格化し、多くの反体制派が摘発された。
反体制派だけなら、それでいいのだが、密告制度が本格化し、北朝鮮の秘密警察が、ろくな捜査や調査を行わず、反体制派とは関係の無い者たちも摘発された。
日本国内でも世論が動き、海上自衛隊の護衛艦が、派遣された。
派遣された護衛艦の任務は、脱北者の保護と救出であった。
「ケッツァーヘル大将、クロマツ中将。お食事が、お進みですな」
背後からかけられた声に、黒松とケッツァーヘルが、振り返った。
「これは、サーロフ上級大将」
彼らに声をかけたのはサヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍総司令官である、ボリス・イヴァノヴィッチ・サーロフ上級大将だった。
「ちょうど、貴方がたの話を、していました」
黒松が、告げた、
「我々の話?何かな?」
「サヴァイヴァーニィ同盟軍は、短期間で地球の半分を、勢力範囲下に置いた・・・」
サヴァイヴァーニィ同盟軍の階級は、旧東側陣営の階級が呼称されている。
上級大将は大将の上であるが、実際は西側諸国の大将に相当する。
東側陣営には准将の階級が存在しないため、将は少将からスタートする。
階級順に説明すると、少将、中将、大将、上級大将、元帥である。
これを西側陣営の階級と照らし合わせると・・・少将は准将、中将は少将、大将は中将、上級大将は大将、元帥は元帥である。
そのため、上級大将は、ケッツァーヘルと同格である。
「しかし、サヴァイヴァーニィ同盟の支配体制に反発する勢力は、星の数程いる。これでは支配下を完全に、マルクス主義に染めるのは、不可能なのでは無いか?」
「そんな事ですか・・・」
上級大将の言葉に、黒松が眉を顰める。
「そんな事ですかと仰いますが・・・?結構、大事な事だと思いますが。我々が、気にしているのは、サヴァイヴァーニィ同盟が勢力範囲を支配出来ず、暴発する事を恐れています。抵抗運動が日常茶飯事に起きているのであれば、貴方がたに統治する資格は無いと、私ども考えておりますが・・・?」
黒松の手厳しい言葉に、上級大将は涼しい顔をしながら答えた。
「これは失礼。私の軽率な発言だった。だが、ずいぶんと小さい事に、神経を尖らしているな・・・と思ってね。貴官たちが懸念している事は、発生しない。その根拠を説明しよう。サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟国内軍は、占領政策だけでは無く併合政策については、専門的な知識を持っている。今は抵抗運動が激しいが、それは一時的なものだ。ロシア帝国からソビエト連邦に変わった時も、かなりの混乱が生じた。それと同じだ」
上級大将の説明に、黒松は納得出来ない表情を浮かべたが、これ以上の詮索はしなかった。
「統合省の思惑もそうだが・・・我々、ニューワールド連合が懸念しているのは、別にある」
「聞きましょう」
「サヴァイヴァーニィ同盟軍は、旧ロシア連邦軍、旧中国軍を中核に旧東側陣営の軍隊が参加している。しかし、それだけでは無く、アフリカやアジア等の革命勢力や傭兵勢力も傘下にいれている。彼らの思想は、本当に一枚岩なのか?」
「そうですね。確かに一枚岩では無いでしょう。様々な思想が入り組んでいる状況ですが、彼ら全員は共通の目的で、我々の傘下に入っています。マルクス主義思想者という思想主義に・・・ですが、貴方方の懸念は、理解出来ます。一つの思想主義に統一するのは、人間社会に置いて不可能です。ですから、彼ら一つ一つにリーダー・・・統治者を置き、その統治者には、ある程度の権限を与えています。これは、中央が腐敗すると、中央の命令を聞かなくなるという欠点はありますが、一つの思想主義の管制下に置くには、これしかありません」
「貴方がたの最高指導者が、それを担うだけの、人格者でしょうか・・・?」
「ご心配なく。総帥は立派な方です」
サーロフは、自信満々に答える。
大戦の予兆 第0章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




