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前日譚 不法侵入者の日常 4 ヒトラーと陸上自衛官

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 防衛局長官直轄部隊自衛隊欧州派遣部隊陸上自衛隊欧州支援群施設隊の一員として、派遣されて来ていた施設科の武田(たけだ)大夢(ひろむ)3等陸尉、年齢は25歳。


 高校卒業後、大学に進学せず一般隊員として、自衛隊に入隊後、幹部候補生の試験を受け幹部自衛官となったという経歴を持っている。


 防衛局長官直轄部隊欧州派遣部隊陸上自衛隊欧州支援群施設隊の一員として派遣され、ドイツの東部地域で、ポーランドからの避難民居住区でのインフラ整備や居住地の整備等の作業に従事しているという。


「で、まあ優秀なのだろうけど・・・一介の幹部自衛官が、ヒトさんと、どうやって接点を持ったのかな?たまたま、ヒトさんが、避難民居住区の視察でも行っていたのかな?」


 これなら、ありえる・・・かもしれない。


 資料を読みながら、桐生は首を傾げた。


 東洋人だったから目立って、視察中のヒトラーの目に留まったとも考えられるが、どうもしっくりこない。


 同じ東洋人というなら、連合支援軍民主派中国人民軍、朱蒙軍、台湾軍からも工兵部隊が派遣されているからだ。


 写真を見ても、そこそこのイケメン(お兄様の足元には及ばない)ではあるが、取り立てて目を引くかと言われれば、そうでもない(桐生主観)。


「まぁ・・・誠実そうには見えるかな・・・あれ?」


「どうされました、会長?」


「う・・・ん。何か、デジャブー感があるなぁと思ったんだよね・・・」


「それで?」


「イッチーズの、糸瀬君に似ている・・・」


 イッチーズ・・・とは。


 石垣(いしがき)達也(たつや)1等海尉、()(はな)睦夫(むつお)3等陸尉、(いと)()(せい)一郎(いちろう)巡査の3人の事である。


 色々あって、桐生が面倒を見る事になった、自衛隊と警察の問題児たち(?)である。


「三馬鹿トリオ、若しくは、お馬鹿三兄弟の事ですか?」


「何、その酷いネーミング?あのコたちは、お馬鹿じゃないよ。ちょっと、どこかズレているだけだよ!」


 秘書の梨花の言葉に、桐生は反論する。


 あまり、フォローにはなっていないが・・・


「主な原因は、石垣1尉の女癖の悪さですね。いろんな女性に手を出して、自分のチームは女性ばかり・・・しかも、全員がキレイどころ・・・ときては、やっかみから他の自衛官からは、ハーレム1尉とも言われているようです。伊花3尉と糸瀬巡査は、その流れ弾が飛んできただけとしか思えませんが、つるんでいる結果、一緒くたにされているようですね」


「・・・まぁ・・・それはねぇ・・・しょうがないというか、何というか・・・」


「会長も、石垣1尉の女性問題に、一枚噛んでいると聞いていますが・・・?」


「えっ?誰かな、そんな事を言うのは?まぁ、それは置いといて、武田君だっけ。彼がヒトさんの目に留まったのは何となくだけど納得かな。糸瀬君が帝とケソン大統領に気に入られた経緯を考えればね。人の上に立つ人物の多くが抱える孤独感。それを和らげる清涼剤みたいな感じの存在。つまりは、毒にも薬にもならないって感じ」


「・・・それって、意味があるんですか・・・?」


「あるんだな、これが・・・」


「「・・・・・・」」


 思わせぶりな言葉を、自分たちの上司は、よく使う。


 そして、明確な解答は決してくれない。


 要は、自分たちで考えろという事だ。





 まる1日の日程を要して、桐生たちは目的地である避難民居住区に到着した。


 広大な敷地の中に、無数の仮設住宅が建ち並んでいる。


 その光景は、ニュース番組で見る、日本の被災地域の仮設住宅群とあまり変わらない。


 避難民たちにあてがわれた居住スペースは決して広くはないだろうが、野宿や、テント生活に比べれば、居住空間としては悪くはないだろう。


 それでも・・・


 大勢の人間が、同じ場所で共同生活を送っていれば、必ず出てくるであろう数々の問題。


 それらに、対処するには膨大な人的支援と、何より『資金』が必要だ。


 新世界連合を始めとする新世界連合加盟国が、長期に亘って支援を続けるのは無理である以上、いずれは避難民を受け入れている現代の国家が、それに対処しなくてはならなくなるだろう。


 そうなれば、それらの支援をする・・・というか、せざるを得ない国家に住まう『国民』たちが、無条件で、それを良しとするのか?


 なにしろ、それに使われるのは、自分たちの納める税金だからだ。


 それらに対処する長期的な見通しがあるのかは、はなはだ疑問である。


 もちろん、桐生は気が付いているが、意見を求められない限り、それについて言及するつもりはない。





 避難民居住区から少し離れた場所に、日本共和区統合省防衛局長官直轄部隊欧州派遣部隊陸上自衛隊欧州支援群の宿営地が置かれている。


 その正門前では、支援群・群長である1等陸佐と派遣業務隊・隊長の1等陸佐自らが、出迎えのために待機していた。


「お待ちしておりました。桐生女史」


 敬礼で出迎えを受けた桐生は、笑みを浮かべて一礼をする。


「突然の訪問を、快く受けて下さって、ありがとうございます」


 と・・・ここまでは、形式通りであるが・・・


 支援群・群長と共に、出迎えに整列していた幹部自衛官たちは、全員が微妙な表情を浮かべていた。


 今回の訪問者は、日本共和区に籍を持つ大企業グループの1つの会長であると聞かされていた。


 しかも、女性であると聞かされていたから、防衛局長官である村主(すぐり)葉子(ようこ)のような強い女性・・・もしくは、上品な老婦人を想像していたのだが・・・


(子供じゃねぇか?)


(お子様?)


(中学生?)


 心の声が、すべて桐生には筒抜けである。


 桐生のこめかみに、静かに怒りマークが浮かぶ。


「会長・・・いつもの事です。ここは、穏便に・・・本庄警視監。お兄様の迷惑になります」


 ぶち切れ寸前の桐生を諫めるように、秘書の東鬼梨花が囁く。


「・・・わかっていますって・・・」


 幾分タイムラグはあったが、深呼吸して桐生は、怒りを収めた。


「応接室を準備しています。女史から面会の要請のあった3等陸尉も待機していますので・・・」


 多分、桐生から滲み出たドス黒いオーラを察したらしい支援群・群長は、そそくさと桐生を案内するように、桐生の前に立つ。


 前の大戦時、フィリピンで桐生を子供扱いした警衛隊員が、どんな目に遭ったかを知っていればの対応だろう。





(えっ?えぇぇぇぇ!!?)


 日本共和区の経済界を牛耳る大物から、直接面会を申し込まれたと聞かされた時も驚いたが、緊張して待っていたのに、派遣群・群長に案内されて自分の前に立った人物を見て、武田の驚きは頂点に達した。


 女性であると聞かされていたのに、目の前にチョコンと立っているのは小柄な少年・・・どう見ても、せいぜい中学生にしか見えない。


「KRUグループ会長の、桐生明美です。お忙しいところ、時間を割いていただいてありがとうございます」


 柔らかい笑みを浮かべて挨拶をする桐生の背後では、ドス黒いオーラが渦巻き、「子供って言うなよ!」の文字が、可視化して浮かんでいるように見える。


「何か、飲み物を用意させます。どうぞ、ごゆっくり」


 それを敏感に感じ取ったらしい支援群・群長は、脱兎の如く尻尾を巻いて逃げ出した。


「・・・・・・」


「忙しいんですねぇ~・・・」


 柔らかい笑みを張り付けたまま、桐生はつぶやいた。


「貴方が、ヒトラー総統閣下と言葉を交わしたと聞いて、興味がわいたのです。その時の事を話していただきたくて・・・」


「ああ・・・それなら・・・」


 武田は、桐生に請われるまま、その時の事を話始めた。





「私は、公務の間で時間が出来た時に、避難民居住区で生活している子供たちと、なるべく交流するようにしていました・・・」


 武田は、静かに語り始める。


「もちろん、公務の一環としての避難民との交流はありますが・・・避難民・・・特に子供たちは、衣食住と安全が保証されているとはいっても、未来の見えない生活に不安を覚えているようでした。公務での交流だけでは子供たちの不安な気持ちを和らげるのは、難しいように感じられて・・・それ以外で、何か出来る事はないかと考えまして・・・」


「うんうん。それで?」


「えっと・・・その・・・」


 相変わらず笑みを浮かべてはいるものの、少年(?)の視線は鋭く、何とも言えない威圧感がある。


 そんな威圧感を持つ少年はいない。


「コホン!」


 彼女にピッタリとくっついている、秘書らしき女性が、さり気なく咳払いをする。


「!」


 少年のような女性は、はっとしたように、両手で自分の頬を叩いた。


「続けて」


 威圧感を和らげ、ニッコリと微笑むと、少年のような顔が、さらに幼く見える。


「・・・自分の事で申し訳ないですが、私は、元々は自衛隊に入隊するつもりはなかったのです。私は、子供の頃から絵を描くのが好きで、高校を卒業後は美術系の大学へ進学するつもりでしたが、高校在学中に、父が病死し、生活が立ち行かなくなってしまいまして・・・それで、一般自衛官になったのです。入隊後、何となく自衛隊での生活が馴染んで、その上、幹部候補生として推薦してもらえました。それでも画家になりたいという夢を捨てきれず、趣味として続けていました。それで、ふと思い立って公務の合間で、避難民の子供たちの似顔絵を描いたりしていたのです。そうしたら、とても喜んでもらえて・・・」


 武田の目が優しくなる。

 

 何となく始めた事だろうが、喜んでもらえた事が、とても嬉しかったのだろう。


 ところで、肝心のヒトラーとの件は?と、聞きたいところだが、桐生はせかすような事はしない。


「・・・そうやって、時々、子供たちの似顔絵を描いていたのですが、ある時ヒトラー総統が、慰問の名目で避難民居住区へ、やって来られたのです。失礼な話ですが、ちょうど、私は休憩時間でして、全然気付かずに、いつも通り似顔絵を描いていました。」





 本当に、それは偶然だった・・・


 アドルフ・ヒトラーが、お忍びという形を取って、避難民居住区を訪れたのは、噂で伝え聞いた、日本の仮設住宅という物に興味を持ったからだった。


 戦争に限らず、災害等に遭った人々が避難生活を送る場所といえば、教会等の広い敷地を持つ場所や、何もない野原であったりする。


 教会の建物等屋根のある場所で一時的に生活できるのは少数で、大半は外。


 せいぜい、持ち寄ったテント等で、雨風が凌げれば良い方である。


 そして、当然ながら不衛生で、伝染病が蔓延する心配がある。


 しかし、この未来人たちが管理する避難民居住区は、狭いながらも個別に家が与えられ、その家には、簡易とはいえトイレが設置されているという。


 水の確保は、難しかったためか住宅にシャワー室は設置されていないが、避難民なら誰でも自由に使える浴場もあり、民間の医療団体によって、野外診療所も運営されているという。


 ヒトラーとしては、非常に興味深かったのだろう。


 だが、一国の国家元首クラスの訪問となると、それなりに迎え入れる側も気を遣う事になる。


 それを考慮しての、極秘の視察であり、それを知らされていたのは、ごく少数の上級幹部たちだけだった。


 だから、武田は何も知らず、いつも通りに休憩時間に子供たちとの会話を楽しみながら、絵を描いていたのだった。


「何をしているのかね?」


 突然、背後からかけられた声に、武田は振り返らず、可愛らしい笑みを浮かべている少女を、一生懸命スケッチブックに描きながら「似顔絵を描いています」とだけ、答えた。


「ふむ。そうかね」


 武田の背後に立った人物は、それだけ答えると、しばらくは武田や周囲の子供たちの様子を眺めていたようだが、いつの間にかいなくなっていた。


「それだけ・・・?」


 桐生は、少し落胆したような声を上げた。


 個人的に話をしたと聞いていたのに、あまりにもあっさりとした幕引きだったからだ。


 期待はずれだった事に、拍子抜けしてしまった。


「いえ・・・その後で、急に上官から呼び出しを受けまして・・・」


「?」


「ヒトラー総統から、自分の似顔絵を描いてほしいとの申し出があったとの事で、恥ずかしながら自分は、その時になって、声をかけてきた人がヒトラー総統だったと気が付いた訳でして・・・失礼な態度をしてしまいました・・・」


 武田は、ポリポリと頬を掻いた。


「ふんふん・・・ヒトラー総統は、多分、何とも思っていないよ。確か、あの人は若い頃は画家志望だったそうだから・・・絵描きの人の気持ちがわかっているんじゃないかな。むしろ、逆に真剣に絵を描いていたのに、声をかけて気を散らさせた事を申し訳なく思ったんじゃないかな」


 もちろん、これは桐生の個人的感想でしかない。


 しかし、武田は驚いたように、目を丸くした。


「はい。失礼な態度を取ってしまった事を謝罪した時に、似たような事を言われました。どうして、わかったのですか?」


「ん~・・・何となく、そう思っただけで深い意味はないよ」


 その後、武田はその時の様子を思い出しながら、桐生に語った。


 ヒトラーの似顔絵を描きながらであったので、軽い世間話のような話しかしていない。


 その内容も、避難民居住区での避難民たちの生活やら、武田たちの活動に付いてであった。


 武田の描いた似顔絵を、ヒトラーは大変喜んでくれた。


「何か、物資等で不足している物は無いかね?」


 ヒトラーの言葉に、武田は少し考えてから答えた。


「子供たちの中には、私が絵を描いているのを見て、自分も絵を描いてみたいと言っている子もいます。いずれ、交流活動の一環として、子供たちと写生大会等が出来たら・・・と、思っているのですが・・・支援物資として送られてくる物のほとんどは、当然ながら食糧や医薬品、生活必需品等・・・画材等は、とても手に入りません。せめて、画用紙と鉛筆でもあれば・・・と、思っています」


 これが、贅沢な願いである事は、わかっているが・・・絵を描く楽しさを知っている武田としては、そう思わずにはいられなかった。


「なる程・・・」


 ヒトラーは、何度も頷いた。


 その後にドイツ第3帝国から届けられた支援物資は、食糧や医薬品、生活必需品以外に、大量のスケッチブックと色鉛筆やクレパス等の画材道具が含まれていた。





(さすがは、ヒトさん・・・抜け目がないなぁ~・・・)


 ヒトラーの厚意に、素直に感謝している武田に、余計な事を言う事はしないが、単純に厚意だけではないであろうと、桐生は読んだ。


 恐らく、この支援の後には第2、第3の矢を放つ準備をしているはずだ。


 武田と、子供たちの交流から、子供たちの中に絵を描いてもらうだけではなく、自分も絵を描きたいと主張する者が現れた。


 避難者の大人たちの中にも、ただ保護してもらっているというだけの現状を良しとせず、自分で現状を変えようとする行動を模索している者たちもいるだろう。


 それは、ドイツ第3帝国にとって、益をもたらす可能性のある人材を探すための下準備。


 現状、新世界連合、サヴァイバーニィ同盟に対抗出来るだけの、国力をつけるのが、ヒトラーの目標である以上、優秀な人材はいくらでも欲しいはずである。


 埋もれている優秀な人材を確保する。


 支援と言う名の矢である。


 武田との、何気ない会話の中で、それを思いついたのか、それとも胸の内で温めていた腹案を実行に移す根拠を得たのかは、わからないが・・・


 ドイツ第3帝国は、先の大戦の戦後の復興中で、あまり経済的余裕が無いなかで、新世界連合に匹敵する物資の支援を行ってきたのが、その証左であろう。


 これにより、政治的戦略として連合国アメリカ合衆国やイギリス等を超えて、ドイツ第3帝国の名を現代の国家群に、印象付ける事になる。


 そして恐らくは、それらに隠された意図。


 この避難民居住区に住む、避難民たちは、支援物資と言う名の餌で、篩にかけられる。


 与えられた現状に満足し、行動しない者と、自分の未来は自分で決めるために行動を起こそうとする者。


 それを、選別するための篩だ。


 それを、思いつき、実行する行動力は、空恐ろしさを覚える。


(だからこその、ヒトさんなんだな・・・)


 この時代、自分たちの時代・・・2つの時代の政治的指導者の中でも、ヒトラーは、ずば抜けた政治的センスを持っている。


 桐生は、そう確信した。


 味方に出来なくても、絶対に敵に回してはならない。


 それ程の、脅威である。


「それと、私宛に似顔絵のお礼の手紙と共に、頂いた物があります」


 嬉しそうに、武田は大きな封筒の中から1枚の画用紙を取り出した。


 その、画用紙には・・・


 似顔絵というより、スケッチブックに絵を描いている武田の人物画が描かれていた。


 絵の上手い下手については、桐生はわからない。


 それでも、この絵には心惹かれるものがある。


 恐らくは、モデルを見つめているであろう絵の中の武田の眼差しは、真剣で真摯で、とても美しく優しい。


(・・・あぁ・・・)


 それを見た時、桐生は本庄が、知りたがっていた答の1つを、見つけたように思った。





 もちろん、それが全ての正解では無い事は、わかっている。


 ヒトラーが望んでいる事、この時代のナチス党が目指している事、ドイツ第3帝国人の人々が夢見ている事、そして、それを自分たちが先入観に惑わされることなく、理解を深めなくてはならないという事を知る事が出来た。


そう、桐生は思った。


それが、同時に未来人たちにとって、もっとも難しい宿題だという事だ。

 前日譚4をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は2026年冬頃を予定しています。

 年末にIF自衛隊本編の断章を2つと年始に外伝1序章を投稿予定です。

 年末年始の投稿になりますので、お楽しみ下さい。

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