前日譚 不法侵入者の日常 2 歴史的認識と現実
皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
新世界連合・北大西洋条約機構(NATO)傘下国である、ドイツ連邦共和国に提供されているドイツ第3帝国の国土に置かれているドイツ連邦空軍基地の滑走路に、1機のプライベートジェット機が着陸した。
「おや?」
プライベートジェット機の窓から外を覗いていた、少年のような容姿をした女性が、小首を傾げた。
「ドイツ連邦軍の高級士官だけでは無く、NATO軍作戦連合軍司令官や、傘下の大西洋打撃艦隊司令部の司令官、それぞれの幕僚までもがいる・・・?」
「それだけ、今回の面談及び視察は、重要なものなのでしょう」
秘書の若い女性が、答える。
彼女の名前は、東鬼梨花。
東鬼イトの、孫にあたる人物である。
「会長。機を降りられる前に、服装のチェックをした方がよろしいかと」
もう1人の秘書である若い男性が、言葉をかけてくる。
「会長、スーツにしますか?それとも警察官の制服にしますか?」
彼の名は、殿谷俊輔。
彼もまた、イトの孫である。
「う~ん・・・どっちがいい?」
「今回は公式の訪問ではありません。あくまでも、お忍びによる訪問です。スーツでよろしいかと・・・」
「了解。では、それで」
「すでに用意しています」
「さっすが、私の秘書兼執事と秘書兼メイド。いつも私の必要な物を、すかさず用意してくれている」
「このぐらいの事が出来ませんと、貴女の秘書及び執事は、務まりません」
プライベートジェット機の機内に設置されている彼女専用の更衣室に入り、殿谷が用意したスーツに、着替えるのであった。
「あ、そうだ。外で顔を揃えている高級士官及び上級士官、下級士官のデータを教えて」
「はい、ただいま」
梨花が、ノートパソコンを開き、ファイルを開く。
「上位者順から説明します。NATO軍作戦連合軍司令官兼アメリカ欧州軍司令官。アルフレッド・ジョセフ・クラドック・ノースタッド・アメリカ空軍大将は、年齢54歳。51歳で大将に昇進し、新世界計画に志願しました」
「51歳と言うと・・・大将クラスの高級士官の中では、かなりの若手だね・・・かなり有能な人材だったの?」
「後方勤務及び広報勤務が多く、人材獲得術及び後方の支援体制構築に、それなりの実績があります」
「それでも、目立たない勤務で、年少の大将か・・・すご~い!」
「言っておきますが私たちのメンバーに、スカウトするのは、無理です」
「どうして・・・?」
「彼は、アメリカ空軍及び新世界連合軍連合空軍でも、超が付くほどの有能な人材です。彼を引き抜くという事は、アメリカ空軍の弱体化を招きます」
「ダメ~?」
「ダメです」
「ケチ~!」
「会長。最初から、ノースタッド将軍を引き抜く事が出来ない事は、わかっているでしょう?」
「うん!もちろん!」
「・・・・・・」
会長の、いつもの遊びであるため、梨花は頭痛を感じるという仕草を行った。
いつもの事であるため、いつものような対応をとったが、わかっていたとしても、それをやるというのは大変である。
特に会長の我儘と遊びには、秘書やメイドとして冷や汗をかく事が度々あり、10円剥げが出来ても仕方ない心労を感じる。
それでも給与は高給な上、福利厚生もしっかりしている。
それで、プラス・マイナスがゼロになるという事だ。
(でも、こんな事を毎日続けたら・・・身が持たない・・・)
梨花は、心の中で、ため息を吐くのであった。
ニューワールド連合・加盟国アメリカ合衆国・統合軍ヨーロッパ・アフリカ合同軍アメリカ欧州軍司令官兼NATO軍作戦連合軍司令官であるアルフレッド・ジョセフ・クラドック・ノースタッド・アメリカ空軍大将は、麾下の将軍であるヨーロッパ・アフリカ合同軍アメリカ欧州軍傘下の在ドイツ・アメリカ軍司令官である、ライマン・ジョン・デイラー・リッジウェイ・アメリカ空軍中将と、ヨーロッパ・アフリカ合同軍アメリカ欧州軍在欧州海軍第2艦隊(NATO軍大西洋・地中海連合軍大西洋・地中海打撃艦隊)司令官であるティモシー・ロン・エルーバーク・レニーアート・アメリカ海軍中将と、肩を並べた状態で、傘下のNATO軍欧州連合軍即応部隊司令部要員と、在ドイツ・連合軍部隊司令部要員である、在ドイツ第3帝国・ドイツ連邦共和国軍司令官ディーデリヒ・アーベル・クラナッハ・ドイツ連邦共和国陸軍大将たちと、直立不動の姿勢で、プライベートジェットを出迎えた。
「しかし、あの女史が、正規の手続きで、訪問して来るとは・・・兄上の我が軍傘下の軍事施設への不法侵入を、公式に認めるというのが効いたのかな?」
ノースタッドが、つぶやいた。
「そのようですね・・・まあ、我が艦隊に不法侵入されては、肝を冷やしますから、このような対応を取っていただければ、ありがたい事なのですが・・・」
レニーアートが、顎を撫でながら、つぶやく。
「いやいや、私の方は、ウェルカムだったのですが・・・」
リッジウェイは、口髭を撫でながら、つぶやく。
「ここは、最前線の軍事施設・・・まあ、西ポーランドが最前線ですが・・・在ドイツにあるアメリカ空軍施設としては、欧州の最前線の空軍基地・・・警備態勢は万全であり、鼠1匹が侵入する余裕は無い。彼女でも通用するかどうか、試したかったのですが・・・」
「そんな事をすれば、各基地の警備責任者が更迭及び減俸される事案が。多発しますよ」
レニーアートが、待ったをかける。
「あの女史は、不法侵入に執念を燃やしている人物であり、私の兵学校の同期であるインドパシフィック合同軍合同海軍アメリカ海軍第7艦隊司令官は、度々、第7艦隊第70任務部隊旗艦である原子力空母に、事あるごとに侵入されて、何人の警備責任者が解任及び更迭されたのか、わからないと言っています」
「ですが、インドパシフィック合同軍は、そのおかげで外敵からの破壊工作等を防止することが出来た。これからの敵は、サヴァイヴァーニィ同盟軍の特殊部隊です。敵軍事施設への侵入・破壊工作を専門にした専門部隊が、我が軍の警備部隊が相手です。警備の連中に、喝を入れなければなりません」
「まあ、確かに・・・」
レニーアートが、頷く。
「貴官の言う通り、アメリカ欧州軍及びNATO軍は、サヴァイヴァーニィ同盟軍がヨーロッパに西進した場合、ナチス・ドイツ国防軍やアメリカ・イギリス欧州派遣軍と共に戦う事になる。彼ら彼女らの士気向上及びあらゆる事態を想定するについては、女史の力が必要かもしれない」
「しかし・・・」
これまで黙っていたドイツ連邦共和国陸軍のディーデリヒ・アーベル・クラナッハ大将が、口を開いた。
「ナチスに対して、我々が、どのような意識を持っているのか・・・?その調査と言うが・・・そんな事は、誰でもわかる事だろう。わざわざ視察しなくても・・・」
プライベートジェット機から、2人の秘書を伴って、少年のような女性が姿を現した。
「お待ちしておりました。女史」
「出迎え、ありがとうございますぅ!」
スーツ姿の少年のような女性は、ペコリと頭を下げた。
ノースタッドは、手を差し出す。
差し出された手を、その人物は握り返した。
「ノースタッド将軍。お噂はかねがね。前の大戦では、ヨーロッパ侵攻に関して、お疲れ様でした」
サヴァイヴァーニィ同盟軍が、西進を開始した時、NATO軍及び傘下のイタリア共和国軍を基幹とした連合軍で、地中海に侵攻・・・シチリア島、イタリア本土に上陸した。
サヴァイヴァーニィ同盟軍の攻勢が激しくなった時、アメリカ欧州軍在欧州海軍第2艦隊空母打撃群が、フランス及びドイツ第3帝国、イギリス本土への攻勢を強めて、ニューワールド連合寄りになったポルトガルを拠点に、フランスに侵攻した。
在欧州陸軍及び在欧州海兵隊による攻勢は、サヴァイヴァーニィ同盟軍に備えるために防衛配備を行ったドイツ第3帝国、アメリカ合衆国、イギリスの陸海空軍は、フランス方面には最低限しか配備されていないため、簡単に突破出来た。
在欧州空軍に所属するF-15Cは、制空戦において圧勝し、ドイツ第3帝国国防軍空軍のジェット戦闘機を全滅させた。
F-15Eは、フランス方面の連合国及び枢軸国の兵站拠点を、次々に撃破した。
A-10A及びAC-130Hは、地上部隊の近接航空支援として出動し、火力にものを言わせた圧倒的火力によって、ドイツ第3帝国国防軍陸軍機甲軍団やアメリカ陸軍及びイギリス陸軍の機甲軍を殲滅した。
戦車戦においてもM1A2やM1A1、チャレンジャー2、ルクレール、レオパルド2の火力・防護力・速力は圧倒的で、太平洋や他の地域のように、第2次世界大戦時代の戦車を撃破した。
しかし、サヴァイヴァーニィ同盟軍との戦いを経験したロンメル元帥、アイゼンハワー元帥、モントゴメリー元帥は、ゲリラ戦に戦術を移行し、さらに焦土作戦を実行し、アメリカ欧州軍及びNATO軍に、補給上の負担を与えた。
これはイタリア本土での戦闘でも確認された事であるが、焦土作戦によって、アメリカ欧州軍及びNATO軍は、保護下に入った現地民に対して、糧食及び医薬品を提供した。
さらにドイツ第3帝国義勇軍による非正規戦が実施され、ニューワールド連合・傘下国であるアメリカ合衆国が経験した、ベトナム及びイラク、アフガニスタンのように占領政策は止まった。
そのため、サヴァイヴァーニィ同盟軍よりも、攻勢が遅かった。
「同じヨーロッパ人を相手にするのに、ここまで時間をかける事になるとは思わなかった。サヴァイヴァーニィ同盟軍は、同盟国内軍を主力として占領政策を行ったため、同盟陸軍及び同盟空軍は、後背の心配をせず攻勢をかける事が出来ました」
「サヴァイヴァーニィ同盟軍とは、ルーマニア侵攻の際、油田地帯確保のため在欧州陸軍空挺部隊と在欧州海兵隊が、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟空挺軍と遭遇し、正面戦闘に発展したと聞いています」
「ああ」
ノースタッドは、顔を曇らせた。
「あれに関しては肝を冷やしました。サヴァイヴァーニィ同盟とは、ヨーロッパ・アフリカ合同民事局から、武力衝突は極力避けるようにと指示されていましたが、それを破る結果になりました」
「それでは、積もる話もありましょうが・・・それは後ほど」
ノースタッドが、桐生のために用意した公用車へ、乗車するようにと促した。
「女史」
リッジウェイが、自分の側に控えていた2人のMP(憲兵)を、紹介した。
「ドイツ国内での行動する際に、貴女の護衛を務めるMPです」
2人のMPが、挙手の敬礼をする。
「エルマ・ラミレス少尉です」
MPの婦人将校が、告げる。
「コンスタン・スミス2等軍曹です」
同じく、MPの青年下士官が告げる。
「お目付け役がいるの~?」
桐生が、不満そうな顔でつぶやく。
「まあ、そうですな。貴女なら、護衛は不要でしょうが、我が軍としては、部外者をそのままにしていては、対外的に問題なのです。我慢してください。あ、在独アメリカ軍施設に関しては、自由に不法侵入してもかまわないので、そこは変わりません」
「えぇ~お目付け役がいる時点で、自由度が無いよ~自由に軍事施設を見学出来ない~」
「おや?貴女なら、そこの2人のMPを振り切って、自由にアメリカ軍施設に侵入する事が出来るでしょう。その自由も保証していますよ」
「ちっ」
彼女は、舌打ちした。
「では、宿舎に案内させてもらいます。それから我々との食事会がありますので、是非、出席して下さい」
ノースタッドが言い、公用車に案内した。
彼女は、彼女に用意された公用車に、秘書と護衛のMPと共に乗り込んだ。
「それでは宿舎に案内します」
ラミレスが、口を開く。
「ねぇねぇ、ラミちゃん、スー君。私の護衛という事は、私の身の回りのお世話と副官としての任が与えられているんだよね?」
「えぇ、まあ・・・」
「サー!なんでもやります!サー」
ラミレスとスミスが、それぞれの反応をした。
「サーって・・・私、男に見える?」
「あっ!失礼しました。イエス・マム!」
「まぁ、どっちでもいいけど・・・」
「・・・・・・」
なら、突っ込みを入れる必要性は、あったのだろうか・・・?
「まぁ、私も仕事があるから、あまりゆっくりは出来ないんだよね・・・ところで、ラミちゃん。アメリカ人だけど、苗字から察するところ、独系アメリカ人だよね」
「ええ。そうです。母方の曾祖母がドイツ人だったと聞いています。一応、ドイツ語は話せますが、ドイツ人としての感情はありません」
「あっ!ちなみに自分は、フランス系の血を引いています。父方の祖父がフランス人でした」
「じゃあ、ナチス・ドイツについては・・・?」
「学校の授業で勉強した程度です」
「うん!それでいい!ナチスの事を詳しく知っている人が最初の遭遇じゃあ、詳しい事がわからないもんね!」
「は、はぁ~・・・?」
ラミレスが、小首を傾げる。
桐生の意図が、よくわからない。
ナチスの事を知りたいなら、専門的に研究している学者や歴史研究家は大勢いる。
それらの人々を無視して、素人の自分たちから話を聞いて、詳しい事などわかるのだろうか・・・?
「ラミちゃんから見て、この世界のドイツは、どう思う・・・?」
「正直に申し上げまして、困惑しています。ファシズム体制は、個々の権利を無視し、集団の意思統一を重点に置いた主義だと聞いています。ですが、この世界のナチス・ドイツは、私が教えられたファシズムとは、かなり違うものだと認識しています。集団としての意思統一はありますが、個々の権利も尊重し、それを守る体制・・・情報では、私たちの時代のドイツ人が、ヒトラーの側近になっていると聞いていますが、大学の政治学部出身者という事だけで、ヒトラーを変え、ナチス党そのものを変化させる事が出来るのかな?・・・と」
「うんうん」
ラミレスの言葉に、彼女はうんうんと頷く。
「でも、実際のナチス・ドイツも、このような社会体制だったのかもしれないよ?」
「まさか!?」
「後世へと伝わる事は、アテにならない事もある。人から人へと伝わる事は、必ずと言っていいほど各個人の心情が入るもの。後世の人間にとって、都合の良い情報に書き換えられる事もある」
「・・・・・・」
桐生の言葉を聞いても、2人はイマイチ理解出来ないようだ。
(まぁ、それもしょうがないよね)
「簡単に、説明すると伝言ゲームだよ。1人2人ならともかく、10人20人と伝わっていく過程で、最初の人と最後の人とでは、伝えられた話が違っているって、よくあるよね。まぁ、そんな感じで、少しずつ話が歪んで伝わるっていうのは理解出来るよね」
「はい・・・まあ・・・」
「もちろん、過去の記録や人の言葉を学ぶのは、とっても大事な事だよ。でもね、記録を残した人、語った人が何を思って、それを残したかに付いては、誰にもわからない。事実は1つでも真実は人の数だけある。それを、頭の片隅に置いておくのを忘れなければ、自分の目で見て耳で聞いた事は、極めて事実に近い真実になる。覚えておいて損は無いよ~」
「「イエス・マム!」」
「なぁ~んてね。カッコいいでしょ、私!」
「「・・・・・・」」
(はぁ~・・・)
それなりに、良い事を言っているのに、わざわざ自分で自分を下げるというオチをつけたがる、いつも通りの会長の言動に、梨花はため息を付く。
前日譚 2をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください
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