前日譚 ワルキューレの騎行 後編
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
クリミア共和国。
スヴァボーダ連合委員会の傀儡国家として建国された、独立国。
政治、司法、立法、軍事は、スヴァボーダ連合委員会によって、行われている。
クリミア共和国にも大統領、議会、裁判所も置かれているが、形だけのものであった。
スヴァボーダ連合委員会の統制下に、スヴァボーダ連合軍が置かれている。
クリミア共和国にも警察と軍隊も存在するが、あくまでもスヴァボーダ連合委員会の管理下である。
陸軍には正規陸軍と義勇陸軍の2つが存在し、正規陸軍は、国土の防衛だけでは無く、国内での対反乱作戦にも従事する。
戦車は、旧ソ連軍時代の中戦車、軽戦車等が使用されているが、ナチス・ドイツ国防軍との戦争で、鹵獲した中戦車や突撃砲等も、配備されている。
義勇陸軍は、民兵を軍隊化したものであり、クリミア共和国憲法では、国土の防衛と政府が指定した大規模災害時に動員される。
正規陸軍とは異なり、動員命令が出ない限り、初動対応部隊のみが置かれているだけで、不定期に正規陸軍に属していない国民が、軍事訓練を受けるために動員される程度だ。
武器、兵器に関しては、正規陸軍が優先されているため、旧式の武器、兵器か少数だけ新規の武器、兵器が配備されているに止まる。
第2次世界大戦時では、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国として、赤軍に参加し、西部戦線(ソ連視点)や、スターリングラードで戦っていた。
クリミア半島は、ナチス・ドイツ第3帝国の同盟国であったイタリア王国軍からの侵攻を受け、正規軍がいない状況下で、義勇軍や領土防衛隊のみで、必死の抵抗を繰り広げていた。
イタリア王国陸軍は、M13/40中戦車等の中戦車を主力として、空挺部隊にCV33が主力として後方攪乱に投入された。
クリミア半島では、工場地帯が多くあったため、戦車等の兵器は豊富にあった。
しかし、それらを操作出来る人員が、いなかった。
このため、緒戦は苦戦を強いられた。
ウクライナもナチス・ドイツ国防軍と武装親衛隊の侵攻により、男だけでは無く、女や子供も動員されていた。
とてもクリミア防衛に、兵員を送る事は出来なかった。
そんな彼らを救ったのは、ニューワールド連合・NATO軍傘下のウクライナ軍とニューワールド連合軍傘下のNATO軍、スヴァボーダ連合軍であった。
NATO軍ウクライナ軍は、空中機動軍と海兵隊を主力としてクリミア半島に上陸、ニューワールド連合軍NATO軍は、ニューワールド連合に加担する事を表明したトルコを拠点にナチス・ドイツ本国やイタリア王国本土を空爆、スヴァボーダ連合軍連合陸海空軍を投入した。
スヴァボーダ連合軍連合海軍傘下の空母機動部隊が、イタリア王国の海軍施設や首都の空爆を実施した。
当初は、スエズ運河も確保する予定であったが・・・そこはサヴァイヴァーニィ同盟軍が支配下に置いた。
因みに、トルコ共和国を説得したのは、未来のトルコ人である。
クリミア半島に侵攻したイタリア王国軍を撃退した後・・・NATO軍傘下のウクライナ軍は、スヴァボーダ連合軍と共にウクライナ本土に進出。
侵攻したナチス・ドイツ軍と戦った。
この時、ヨーロッパでは、サヴァイヴァーニィ同盟軍が猛威を振るっていたため、連合国と枢軸国は、2つのスペース・アグレッサー軍は共同で侵攻していると、錯覚した。
強い雨が、降っている。
「っ!?」
スヴァボーダ連合軍連合航空宇宙軍第1航空・防空軍第11戦闘機連隊第11飛行群長のアルカジー・ドナート・バジョーフ・ロバコフ大佐は、悪夢から目を覚ました。
「雨の日は・・・眠れない」
ロバコフは、身を上げた。
ベッドの横に置かれている、小さな机の上に目を向けた。
「お前は、私を許さないだろうな・・・」
戦場の風景が撮影された写真を見ながら、つぶやいた。
この写真を撮影したのは、彼の妻だった。
クリスチーナ・ヨセラフ・ロバコフ・・・彼女は、ロシアでは有名な戦場カメラマンだ。
メディアでは、反戦カメラマンとして有名であり、ロシア・旧ソ連が関与した戦場では、必ず彼女の写真が取り上げられる。
主に、敵側の視点で、写真を撮り、それを本国世論や国際世論に訴える。
彼女が死んだのは2020年代・・・ロシア史上最大の内戦であった、第2次ロシア革命の真っ只中であった。
クリスチーナは、戦場カメラマンとして、ロシア反乱軍・・・マルクス主義者に加担する反政府勢力であるテロリストグループに、密着取材をしていた時、マルクス主義者勢力の反乱軍がテログループに対して、突如として牙を剝き、彼らが潜伏するキャンプ場を爆撃した。
ロバコフは、部下と共に現場に赴いたが、クリスチーナは亡くなっていた。
「私も娘も、サヴァイヴァーニィ同盟軍に対する憎しみが強い・・・上層部は、そんな感情を利用しているが・・・私は、それでいい。サヴァイヴァーニィ同盟総帥・・・ゲルギエフの頭上に、爆弾を落とす」
彼としては、サヴァイヴァーニィ同盟軍との全面戦争は願っても無い機会だ。
彼女がそれを望んでいない事は、誰よりも理解している・・・しかし、自分たちの都合が悪くなった、というだけで、傘下のテログループだけでは無く、民間人を殺害する行為は、どうにも容認できない。
ロバコフは、立ち上がった。
すると、ドアからノック音が響いた。
「大佐。そろそろ悪夢から目覚める頃だと思いまして・・・」
ドアをノックしたのは、ロバコフのウィングマンでありサポート役のヴィタリー・グレープ・グービン・イヴレフ少佐だ。
「グッドタイミングだ」
「酒場に行きましょう」
「ああ」
ロバコフは、自室を出た。
イヴレフが、フライトスーツ姿で待っていた。
2人は、宿舎区から少し離れた娯楽区に設置されている酒場に、移動した。
「ウォッカ、ボトル2つ」
マスターに、イヴレフが注文した。
「かしこまりました」
マスターは、ウォッカのボトルを2つ取り出した。
カウンター席のテーブルに、ウォッカのボトルを2つ置いた。
その後、グラスを置く。
マスターは、おつまみとして、茹でた牛肉と羊肉を出した。
「これはサービスです」
「すまない」
ロバコフは、カウンター席に腰掛ける。
ウォッカを、グラスに淹れる。
「それでは大佐」
「ああ」
「乾杯」
「ザナース」
グラス同士が、ぶつかる。
ロバコフは、ウォッカをいっきに飲み干した。
「お客様」
マスターが、カクテルを出した。
「これは、サービスです」
「これは・・・?」
「オレンジとグレープをウォッカでシェイクしたものです。お客様は、今夜の天気の様に雨のようですから・・・」
「すまない」
ロバコフは、カクテルを飲んだ。
「隣、いいかな?」
背後からの声に、ロバコフとイヴレフの2人は、立ち上がった。
「そのままでいい。私もオフだ」
彼らに声をかけたのは、第1航空・防空軍司令官のトリ―フォン・チムール・ギーチン・ヴャルコフ中将である。
「将軍。今まで公務中だったのですか・・・?」
「ああ。ウクライナ派遣部隊の編制表を、作成していた」
「将軍も、指揮官として派遣部隊に、参加されるのですか・・・?」
イヴレフが、尋ねる。
「当然だ。最前線に行くのに、私だけが安全地帯にいる訳にはいかん」
ヴャルコフは、グラスにウォッカを淹れる。
「将軍の事ですから、部下たちが戦場に行く時、貴方も戦闘機に乗って、兵士たちと戦うでしょうね・・・」
ロバコフが、ウォッカを飲む。
「それが、私のモットーだ」
ヴャルコフは、将軍の中では珍しく現場主義で、後方で指揮を行うのでは無く、戦闘機に乗って、部下よりも前に出て、指揮をとる。
それが、彼である。
彼は、若い頃、アフガニスタン侵攻に従軍した。
ヴャルコフは、戦闘機パイロットであると同時に、ヘリのパイロットでもあった。
Mi-24[ハイドン]のパイロットとして、アフガンの戦場を戦った。
アフガンでの戦場を経験し、軍上層部の腐敗を認識した。
自分は、決してそうはならない、という信念を持ち、常に現場主義に徹した。
ヴャルコフの祖父は、第1次世界大戦に初陣を経験した。
パスマチ蜂起、第2次世界大戦を戦い抜いた。
彼の父も、第2次世界大戦を経験し、ナチス・ドイツ空軍と戦った。
ヴャルコフ自身も、アフガン以後にもグルジア内戦、第1次チェチェン紛争、シリア内戦にも従軍した。
彼は指揮官として、後方で指揮を行う事はしなかった。
どんな時も最前線で戦う部下よりも前に出て、指揮を行った。
「将軍。サヴァイヴァーニィ同盟軍とは、戦争をするのですか・・・?」
ロバコフは、尋ねた。
「ニューワールド連合軍や、その他の連合軍、連盟軍は、サヴァイヴァーニィ同盟軍との戦争を回避しようと、対話による交渉を重ねているが、スヴァボーダ連合軍将兵たちは、サヴァイヴァーニィ同盟軍との戦争を望んでいる」
「それは当然でしょう・・・彼らは反乱軍です。彼らの行いが、ロシアをどのような悲惨な状況に追い込んだか・・・ロシア人たちは、忘れていません」
「そうだな・・・」
ヴャルコフは、ウォッカを飲む。
「将軍は、どちらの味方ですか?ロシア人ですか?それともそれ以外の人々ですか?」
「私もロシア人だ。反乱軍の行いは許せない。だが・・・世界大戦を勃発させてはならない、という考えもある」
「恐らく、悩んでいるのは、私たちだけでは無いでしょう・・・」
「そうだな。少佐」
イヴレフの言葉に、ヴャルコフは頷いた。
サヴァイヴァーニィ同盟軍の方でも、自分たちの存在は邪魔であろう・・・マルクス主義では無く、民主共和主義を唱えているのだから・・・
「しかし・・・私たちだけで勝てるでしょうか・・・?」
「恐らく勝てないだろう・・・」
イヴレフの言葉に、ヴャルコフはきっぱりと答えた。
「反乱軍には、精鋭部隊と歴戦の将兵たちが参加している。それだけでは無く、ロシアのテロ組織も、一味に引き入れている。彼らの人望も侮れない」
ヴャルコフは、酒場でウォッカを楽しんだ後、再び司令部庁舎に顔を出した。
「ラスペード将軍」
書類を片手に、副官と何かを話しているフランス空軍の迷彩服を着た中年男性に、声をかけた。
「ヴャルコフ将軍。おはようございます、今朝は早いですね」
「徹夜だ」
ラスペードと呼ばれた男は、眼鏡を反射させた。
「徹夜ですか・・・まあ、新しい配備計画で、私たちは忙しいですからな」
彼はニューワールド連合・NATO軍ウクライナ連合派遣軍司令官であるエタン・ラスペード空軍中将である。
「ヴャルコフ将軍も、スヴァボーダ連合軍ウクライナ派遣軍の司令官に、任命されたそうではありませんか」
「私、自らが志願したのだ。当然の結果だ」
「ですが、将軍。貴方の部下たちの多くは、サヴァイヴァーニィ同盟軍傘下のロシア連邦軍に対して、良からぬ感情を持っていると聞いています」
「連中は反乱軍だ。ロシア連邦軍では無い」
「失礼」
ラスペードは、眼鏡を掛け直す。
「貴官の言う通り、私の部下たちの中には反乱軍に対して、憎しみや恨みを抱いている者も多い」
「私が危惧しているのは、そんな彼らが暴走する可能性です」
「私の部下に、そのような心配は不要だよ。公私はしっかりと分けている。彼らは軍人であって、民兵では無い。職業軍人だ。自分の役目は、しっかりと肝に銘じている。私の指揮下に入る陸軍、海軍、空軍の将兵たちとは、すでに交流を済ませている。彼らの職業軍人としての意志はしっかりと把握している」
「そうですか・・・それなら、いいのですが・・・」
「まだ、心配事でも・・・?」
「いえ」
「ラスペード将軍、ヴャルコフ将軍」
兵士が、声をかけた。
「お二人に、面会したいという人物が、お越しですが・・・?」
「面会人?」
「そんな予定は無いが・・・?」
「はい、遠い国から来た、『通りすがりの勝利の女神』と言えば、わかる・・・と」
「勝利の女神・・・?」
「遠い国・・・?」
そういった意味不明な名乗りを上げる、人物と言えば・・・思い当たるのは1人いる。
「お断りしますか・・・?」
微妙な表情を、それぞれが浮かべている。
それを見て、兵士は伺いを立てた。
「いや、会おう」
「彼女が、アポ無しで面会を求めるのは、よほどの事だ」
「そうですか・・・では、こちらへ」
兵士の後を追って、ヴャルコフとラスペードは、肩を並べて歩いた。
「先ほどの話の続きだが・・・貴官の指揮下に、アメリカ軍も置かれるのだな?」
「ええ、あくまでもNATO軍傘下の、アメリカ軍です。ニューワールド連合軍傘下の、アメリカ軍ではありません」
「ロシア内戦の時も、裏でアメリカの工作があったという噂がある。もしも噂が本当であれば、サヴァイヴァーニィ同盟軍と衝突した時、アメリカの陰謀の可能性もある」
「まあ・・・アメリカが、陰謀に加担している事については、否定しません。何らかの目的を叶えるために被害者を演じ、正義を語り、悪とした存在を倒すのは、アメリカの常套手段です」
「我が国も、完全にNATOの一員では無いが、NATO加盟国として、忠告しておく・・・アメリカは油断ならん」
「それは、貴方がたも・・・でしょう?」
「それも、そうだな」
ヴャルコフが、笑みを浮かべた。
アメリカとロシア・・・冷戦が終結しても、お互いを競争相手として位置付け、両国は発展してきた。
冷戦の終結によって、共産主義は民主主義に敗北した・・・と考えるのが一般的だが、実際は、同化した・・・というのが正しい。
ニューワールド連合と、サヴァイヴァーニィ同盟による新たな冷戦は、どんな結果になるのか・・・
誰にも、わからない。
前日譚 後編をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿予定日は未定です。
投稿予定日が決まり次第、系列作品又は活動報告で連絡します。




