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前日譚 ワルキューレの騎行 前編

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 みなさん、久々の投稿になります。

 今回の話でウクライナやロシアの情勢がありますが、この話を書いた時は2010年代後半だったため、当時はロシアとウクライナは戦争状態ではありませんでした・・・その兆しはありましたが・・・さらに、設定ではロシアでは大規模な内乱が発生したり、中国が崩壊していたりと現実世界とは異なる情勢です。そのため、今作ではロシア・ウクライナ戦争は勃発していません。

 その事をご了承の上、お楽しみください。

 ウクライナ北東部にある国境線。


 新ソビエト社会主義共和国連邦との国境線があり、東部国境線には、旧ソ連の亡命者たちで建国された、東ウクライナ社会主義共和国が存在する。


 新ソ連にとって、東ウクライナの指導者たち及びその傘下の旧ソ連人たちは、現体制を脅かす反体制派のシンボルに近い存在だ。


 ウクライナ北東部に位置する陸軍と空軍による共同前線基地では、常に厳戒態勢が敷かれている。


 ニューワールド連合・NATO軍傘下のウクライナ陸軍ウクライナ派遣軍第1001独立高射ミサイル連隊・副連隊長のヴァシリ―・イヴァーシ中佐は、ニューワールド連合軍に加盟するアメリカ陸軍から、新兵器の納入指揮をとっていた。


「パトリオットミサイル。確かに受け取りました」


 イヴァーシは、愛想のいい笑顔を見せながら、納入責任者のアメリカ陸軍の少佐と握手した。


「ウクライナは、サヴァイヴァーニィ同盟軍に対する攻撃の拠点です。何が何でも守っていただきたい」


 アメリカ陸軍の少佐は握手しながら、激励の言葉をかける。


「パトリオットミサイルだけではなく、携帯式地対空ミサイルも大量に届き、国境方面に展開する山岳歩兵部隊、自動車化歩兵部隊、機械化歩兵部隊に配備しました。それと・・・日本国陸上自衛隊からも、自走式地対空ミサイルも届く予定です・・・」


 この時代にタイムスリップした時、日本共和区統合省は、共和議会に武器輸出制限の緩和政策を提出し、ニューワールド連合軍及びその傘下の軍、その他独立軍に対してのみ旧式装備では無く、それ以外の装備の輸出・共同開発が行えるようにした。


 そのため、自衛隊の装備も、ウクライナ軍が保有している。


「最近のサヴァイヴァーニィ同盟軍の様子は、いかがですか?」


「はい」


 イヴァーシは木製の椅子に座り、前に置かれている木製の机の上に置かれているコーラの缶を手に取った。


「どうですか?」


「いえ、コーラは遠慮します。コーヒーをいただけますか・・・?」


「申し訳ありません。補給が滞りがちで、代用コーヒーしか無いのです」


「それでも構いません」


「では、部下に用意させましょう」


 イヴァーシが、指を鳴らす。


「代用コーヒーを1つ」


「わかりました!」


「ここは前線なので、武器や兵器は、優先的に送られてくるのですが・・・嗜好品や日用品、娯楽用品等が、不足しているのです」


「それは死活問題ですね・・・連合戦略輸送軍に、この事を伝えて、嗜好品等の日用品を届けるように伝えましょう」


「助かります」


「それで・・・」


「あぁ、サヴァイヴァーニィ同盟軍の動きですね・・・」


 イヴァーシが、コーラ缶のプルタブを開ける。


「無人偵察機による領空侵犯が目立ちます。空軍の方では、常に要撃戦闘機を発進させ、領空警戒を厳にしています。国境付近では、目立った動きはありません。軽武装の歩兵が新ソ連領の国境付近を巡回しているだけです」


「我々の隠密偵察によると、新ソ連軍は、ウクライナよりも東ウクライナ共和国攻略のために陸空軍を集結させています。サヴァイヴァーニィ同盟軍には、動きがありません」


「新ソ連の最高指導者は、サヴァイヴァーニィ同盟軍総帥ですが・・・主な指導は、新ソ連に属する現代のロシア人に、代理をさせていますからね」


 サヴァイヴァーニィ同盟は、新ソ連及び東側陣営に属する加盟国には、ある程度の介入は行っていますが・・・それにも限界があるでしょう」





 翌日・・・


「イヴァーシ中佐~」


 少年のような、少女のような人物が、スーツ姿でC-130Hから降りてきた。


「これは、これは、キリュウ警視正・・・」


「今日は、警視正として来た訳ではないよ」


 桐生は、書類をイヴァーシに渡した。


「ご注文の日用品、嗜好品、娯楽用品を配達しに来ました~」


「ありがとうございます。キリュウ女史」


「ご注文の品物は、C-130H、1機分で間に合ったから、特急料金はオマケしてあげる~」


「それは感謝します。どうぞ、こちらへ。何か飲み物を用意させましょう」


 イヴァーシは、木製の椅子を勧める。


 今回の空輸で、運ばれて来た日用品、嗜好品、娯楽用品は・・・酒、煙草はもちろんの事・・・DVDや持ち運び型のDVDプレイヤー付きのテレビ等々が運ばれて来た。


「これで、国境に展開する将兵たちに、ガス抜きをさせる事が出来ます」


 国境警備についている自動車化歩兵部隊には、武器、弾薬、食糧、医薬品等の戦闘に必要な物は、充分過ぎる程に届いているが・・・日用品、嗜好品、娯楽用品等は不足している。


「あっ、それと後5分ぐらいで、もう1機のCー130Hが着陸するから~これは、うちからのサービスで~す」


「サービス?」


「うん!サービス!」


 そんな事を言っていると、もう1機のC-130Hが着陸した。


 機内から大量のファストフードや軽食等の冷凍食品が、次々と運び出されてくる。


「前線にいる将兵たちに、パァ~とパーティーをさせてあげて~♪」


「キリュウ女史。これは兵士たちが喜びます。すぐに前線に届けるようにしましょう」


 ましてや酒も用意されているため、数日間は、パァ~と派手なパーティーが各所で開かれるだろう。


 緊張感が漂う前線でも、常に緊張感が漂っている訳では無い。


 ゆっくりする時間も、存在する。


 人間である以上、ガス抜きは必要である。


 ガスが溜まり続ければ、最終的に破裂する・・・ただ、破裂するだけならまだいいのだが、何かの拍子で引火し、爆発炎上すれば、それを消火するには、多大な労力が必要になる。


「さすがはキリュウ女史。仕事が早いです。貴女に依頼して、本当に良かった・・・ですが、よろしいのですか?」


「何が?」


「いえ、ここまでの事をしたのです。空輸するために自衛隊の輸送機を強奪したのでしょう・・・?」


「強奪だなんて、大袈裟な~・・・そんな事はしてないよ~ちょっと、空自さんの幹部をおど・・・お願いして、戦術輸送機を2機、借りただけだよ~」


「何やら不穏な声が聞こえましたが・・・まあ、いいでしょう。聞かなかった事にしましょう」


「助かる~でも、ついでにお願いがあるの~」


「何でしょう。ここまでの事をして下さったのです。出来る限りの要望は、聞きましょう」


「お兄様に、私を叱らないで、と一言を添えた感謝状を贈って欲しいの~」


「感謝状ですか・・・それでしたら、お安い御用です」


「本当~!助かる~」


「それだけで、よろしいのですか?」


「うん!そこまでの事をしてくれたら、次回の空輸費は、2割引で引き受けちゃう~」


「それは、それは、ありがたいですね~」


「それと、何でも1つお願いを聞いてあげる~」


「よろしいのですか・・・?」


「もっちろん~!」


「では、1つ」


 イヴァーシは、真顔になった。





 同基地。


 ニューワールド連合軍連合支援軍空軍傘下のウクライナ空軍第11戦術航空旅団前線基地派遣隊第111飛行中隊に所属するユーリ・ルスナク中尉は、飛行待機室で、パイプ椅子に腰かけて雑誌を読んでいた。


「お~い。ユーリ、ビックニュースだ!」


 同僚の中尉が、勢いよく飛行待機室に駆け込んで来た。


「何だ?世の中、慌てる事は、ほとんど無いぞ・・・慌てるのは余裕が無い人だ」


「そんな悠長な事を、言っている場合では無い!」


「何だ?最前線部隊が、サヴァイヴァーニィ同盟軍の侵攻で、全滅したか・・・?」


「それより、もっと酷い事態になりそうなんだ!」


「何だ?」


 ルスナクは、何度読んだかわからない古い雑誌を閉じた。


「クリミア半島に展開しているスヴァボーダ連合軍が、ウクライナ方面に展開を拡大するそうだ・・・」


「何だと!?」


 ルスナクは、面食らった。


 スヴァボーダ連合軍は、ニューワールド連合軍とは別に独立した機能を持つ連合軍で、主にロシア連邦軍と国民派勢力の旧東側陣営の軍を傘下に置く独立軍だ。


 その上部機関に、文民で構成されたスヴァボーダ連合委員会が存在する。


 ウクライナを旧ソ連の支配下から脱退させる際に、スヴァボーダ連合軍は、クリミア半島の統治権を要求して来た。


 ニューワールド連合に属するウクライナの政治家たちは渋ったが、サヴァイヴァーニィ同盟軍の存在を危惧し、彼らの力を借りる事にした。


 未曽有の危機の前には、背に腹は代えられない。


 因みにニューワールド連合軍の支援で、ウクライナの独立を果たした独立政府は・・・結局、ロシア人の傘下になるのか・・・と愚痴を漏らした。


「おいおい、新ソ連軍はともかく、サヴァイヴァーニィ同盟軍がウクライナに干渉してこないのは、スヴァボーダ連合軍が、クリミア半島までの勢力圏で止まっているからだ。それが、ウクライナ国境方面にも勢力圏を拡大させたら・・・東ウクライナ共和国だけに止まっていた干渉が、こちらにも及ぶぞ!」


「だろう?慌てるだろう?」


「そんな悠長な事を、言っている場合では無い!」


「俺も同感だ。それだけでは無く、ニューワールド連合軍傘下のNATO軍で編成されたタスクフォース部隊も、ウクライナ全土に配置されるそうだ・・・」


「馬鹿な!お偉いさんたちは、何を考えている!サヴァイヴァーニィ同盟軍が、ウクライナに関心を持っていないのは、軍事力が自分たちより圧倒的に劣るからだ!」


 彼が所属する飛行中隊は、2個隊が前線基地に置かれている。


 もう1つの飛行中隊第112飛行中隊は、MiG-29/UBが所属している。


 ルスナクが所属する飛行中隊は、F-16C/D[ファイティング・ファルコン]が配置されている。


 対するサヴァイヴァーニィ同盟軍同盟宇宙航空軍では、戦略前線基地には戦略爆撃機Tu-22MやTu-95が配備され、戦略・戦術基地ではMiG-31やSu-27といった、要撃戦闘機やSu-30、Su-35といった、多用途戦闘機が置かれている。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟国内軍航空部隊でも、MiG-29等の配備されている。


 万が一にも戦闘状態になった場合は、制空戦闘では確実にサヴァイヴァーニィ同盟軍に制空権を奪われる。


 あくまでも本格的な戦闘状態になった場合は・・・だが。


 もちろん、それに備えて、NATO・ウクライナ空軍ウクライナ派遣空軍の戦略基地には、Su-27[フランカー]や、ニューワールド連合軍連合空軍アメリカ空軍予備軍にモスボールされていたF-15C/D[イーグル]が、1個飛行隊分配置されている。





「さぁ、さぁ」


 飛行待機室で、飛行中隊長(大尉)が、手を叩いた。


「お偉いさんたちが何を考えているか、わからないが・・・今は、楽しもう!」


 飛行中隊長の言葉に、ルスナクが首を傾げた。


「楽しむ・・・?」


「日本の食品会社が、大量のファストフードを送って来た。前線部隊全部に提供される」


 飛行中隊長が言い終えると、雑用係の兵卒たちが、ハンバーガーやピザ、フライドポテト、唐揚げ等のファストフードをテーブルに並べていた。


「俺たちは出動待機中だから酒は飲めないが、炭酸飲料等は自由に飲める」


「ヤッホー!」


 同僚が喜ぶ。


「メイドインジャパンか・・・」


 ルスナクが、立ち上がってテーブルに歩み寄る。


 そこへ、基地司令(大佐)が現れた。


「ルスナク。お楽しみのところすまないが・・・貴官のウィングマンと共に、日本人の来訪者たちを護衛してくれ」


「護衛ですか・・・?」


「そうだ。ここまでの事をしてくれたのだ。何か、お礼をしなければならない。そこで思い付いたのが、空中護衛だ。空中航路は、ウクライナまでだ」


「了解しました」


 ルスナクは、ただちに出動準備にとりかかる。


 エプロンに出ると、2機のC-130Hと4機のF-35Bが、駐機していた。


「あっ!」


 その近くでは、1人の少女のような、少年のような、どちらともとれない人物が手を振っている。


「貴方が、護衛とエスコートを、してくれる方ね?」


「はい、そうです」


「私は、いいって言ったのに・・・ここの基地司令は、頑固なのだから・・・」


 その人物は、どこか抜けた声で応対する。


「貴方も、お楽しみのところに水を差されて、さぞかし不愉快でしょう?」


「いえ、仕事ですから」


「生真面目~」


「それで、航路の確認ですが・・・」


「あっ、それなのだけど、急に目的地が決まったから、キーウにエスコートしてほしいな」


「キーウですか・・・?」


「そう!ここの納入責任者に、頼まれ事をされたの。だから、キーウに行って、偉い人に会って来るの~」


「もしかして、スヴァボーダ連合軍の事ですか?」


「あれ~もしかして、知っていた~?さっすが、前線部隊!地獄耳~!」


「いえ、自分も噂を同僚に聞いただけです」


 前線部隊に流れた噂レベル情報だから、デマの可能性も考慮していたが、この人物の表情から察すると、若しかしたら本当の事だったのかもしれない。


「1つ、お聞きしてもよろしいですか・・・?」


「いいよ、いいよ。ただ1つの事以外だったら、何でも答えちゃう」


「戦争が、近いのですか?」


 その人物の表情が、一瞬だけ変わった。


だが、一瞬だけの事であった。


「残念。ただ1つの事とは、それだよ」


「そうですか・・・」


「でも、ここだけの話・・・今、戦争回避の為に背広組、制服組がそれぞれで対話を重ねているの。目的は知らないけど~・・・若しかしたら、戦争回避のために行われるかも・・・それで・・・ね。近い将来、制服組の使節団が、サヴァイヴァーニィ同盟軍の使節団と、クリミア半島で、会談が行う事になっているんだって」


「会談ですか?」


「そう、会談・・・使節団は、双方とも私の知り合いが行うの~すごいでしょう~」


 その人物は、「えへん」と、胸を張る。

 前日譚 前編をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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