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閑話 2 第2次餡餅雑煮大戦勃発 2

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 みなさん、新年、明けましておめでとうございます。今年1年、よろしくお願いいたします。

 去年は、日本にとっても、ウクライナ、ロシアにとっても、厄年と言ってもいい様な1年だったと思います。今年は良き1年間である事を、お祈りします。

 1944年(昭和19年)元旦。





「よっしゃー!!!年に一度の、待ちに待った時間だぜ!!!」


「うるさい・・・」


 多目的護衛艦[こうよう]の飛行食堂(飛行科員専用の食堂)で、嘉村慶彦(きむらよしひこ)3等空佐は、気合の入った叫び声を上げていた。


 それに、非常に迷惑そうな表情を浮かべて、ぼやいているのは、高居(たかい)(なお)()3等空佐だ。


 嘉村がハイテンションな理由は、今年も餡餅雑煮が食べられるからである。


 もちろん、元旦の朝食という事で、お節と雑煮が食堂では提供されたが、餡餅ではない雑煮は、嘉村のお気に召さないのであった。


 一昨年は、それでブーブーと文句を言っていたが、去年は高居が餡餅雑煮を作ってくれた事で大満足であった。


 当然ながら、今年も期待が高まっている。


 期待される方は、堪ったものではないが・・・


「まあ・・・[こうよう]に配属されたのは、ラッキーだったがな・・・」


 運が良かったのは、新たに[こうよう]の飛行隊に配属されたが、[こうよう]には、ハワイ・オアフ島のパールハーバー・ヒッカム統合軍基地内の歓楽街にあった、コンビニエンスストアと同列会社のコンビニエンスストアが入っている。


 おかげで、去年と同様に、餡餅を手に入れる事が出来た。


 飛行食堂の給養長に許可を取って、カセットコンロを持ち込んで、早速調理に取り掛かる。


 嘉村は、空のマイ丼をテーブルに置いて、出来上がるのを、今か今かと待ち構えている。





「おっ?何だ?何だ?」


 飛行食堂で、だべっている他の隊員たちが、興味津々でテーブルを取り囲んで来た。


「雑煮を、作っているんだ」


 何故か、見ているだけ~の嘉村が、得意そうに説明している。


「雑煮なら朝食で出ただろう?まだ、食べる気なのか?」


「俺たちにとっては、朝食に出た雑煮は、雑煮じゃない。ただの、餅入りの澄まし汁だ。だから、今から本当の雑煮を食べるんだ」


「本当の雑煮って・・・それこそ、ただの餅入り味噌汁じゃないか?同じ様な物だろう」


「違う、違う、違う。餡餅雑煮は、香川県人にとっては、ソウルフードなんだぞ。全然違う」


「・・・誰が、決めたんだ?」


 味噌を溶かしながら、高居が突っ込みを入れる。


「俺が、ソウルフード認定しているんだ。だから、絶対だ!!」


「わかった、わかった・・・少し、静かにしていろ」


 ああ言えば、こう言う・・・


 半ば呆れながら、高居は仕上げに入る。


「出来たぞ」


 丼に3個の餡餅を入れ、味噌汁をよそって嘉村に手渡す。


「待っていました!いただきまーす!!」


 早速、嘉村は餅を頬張る。


「うん。うんめぇ~!」


「・・・なあ。俺たちにも、少し分けてくれないか?」


 嘉村が美味そうに箸を動かしているのを見ていた何人かが、高居に声を掛ける。


「いいぞ」


「ちょっと待ってよ。俺の食べる分が減っちまう」


 気前よく返事をする高居に、嘉村が文句を言う。


「心配すんな。今回は、餡餅をたっぷり仕入れている。明日も明後日分もある」


「そうか、ならいい」


「・・・・・・」


 安心したように、コロッと態度を変える嘉村に、高居はため息を付きながら、汁椀を借りに行った。





 餡餅雑煮は、讃岐うどんと並んで、讃岐を代表する食べ物ではあるが、他の地域から見れば、味噌汁に餡餅を入れるというのは、想像を超える衝撃的な組み合わせであるだろう。


 当然、抵抗感を感じる人もいれば、この意外な組み合わせにハマる人もいる。


「・・・意外と、いける・・・」


「うん・・・美味いかも・・・?」


「・・・食べれ無くはないが・・・う~ん・・・」


「・・・・・・」


 試食をしてみた自衛官たちの反応も、色々だった。


 ・・・まあ、そんなものだろうと、高居は思った。


「ああ・・・そうだ」


 餡餅雑煮を食べている自衛官が、何かを思い出したように、少し離れた席でコーヒーを啜っている自衛官を振り返った。


「おい臼杵(うすき)。お前も香川県出身だろ?餡餅雑煮を食わないのか?お前も、去年は餡餅が~って、騒いでいただろう?」


 声を掛けられた自衛官は、振り向いた。


「・・・いらん。香川県出身だからって、餡餅雑煮に拘る人間ばかりじゃない!」


「そんな事言う奴には、お裾分けしないぞ!」


 すかさず、嘉村が言い返す。


「それに俺は、塩餡が好きなんだ。砂糖餡の餡餅雑煮は、食えないんだ」


「・・・あ」


 臼杵と呼ばれた自衛官の言葉に、高居はハッとしたように声を出した。


 そう・・・同じ餡餅雑煮でも、砂糖餡派と塩餡派といった派閥?があるのだ。


「・・・迂闊だった・・・塩餡の餡餅雑煮もあるんだった・・・忘れていた・・・」


「塩餡なんて、邪道だ!餡餅雑煮は甘い砂糖餡だから、味噌汁の美味さが引き立つんだ!」


「言わせて貰えば、俺からすれば、そっちの方が邪道だ!塩餡餅の方が、香川の雑煮文化としては、歴史が古いと言われているんだぞ!!」


「何だとぉ~!!!そんな事は無い!!!」


 因みに、これには諸説がある。


 高居が、考え込んでいるうちに、嘉村と臼杵の間には、険悪な空気が流れ始めている。


 今にも取っ組み合いが、始まりそうだ。


 艦内を巡回している警務官に見つかりでもしたら、ちょっとヤバい・・・誰もがそう思った。


「餡餅雑煮は、江戸時代の末期頃に讃岐で生まれたのよね」


「「「えっ!!?」」」


 突然の声に、全員が振り返った。


 いつから、いたのか・・・小柄な人物が、ちょこんと立っている。


「き・・・桐生警視正・・・?」


 よりにもよって、ある意味では警務官(MP)より恐い存在である、警察官がいる(見た目は子供みたいで、全然怖くないが・・・)。


 ちょっとビビっている全員を無視して、桐生はニッコリと微笑む。


 しかし、目が笑っていない。


 その視線に射すくめられて、言い争っていた嘉村と臼杵は、硬直している。


「はいはい・・・話の続き。讃岐高松藩は、藩を豊かにするための産業奨励策として、『讃岐三白』塩、砂糖、木綿の製造を奨励したんだよね。特に、サトウキビ栽培に力を入れて、和三盆という白砂糖の製造に成功した。これまでは、琉球や薩摩で製造される黒砂糖が主流だったから、白砂糖は瞬く間に讃岐の国の特産品になった。でも、そんな砂糖は超の付く高級品。サトウキビを栽培している農家の人たちでも、厳しい藩の管理下では、とても口にする事は出来ない代物。だから、せめて正月くらい贅沢をしたい。甘い物が食べたい。でも、藩の役人に見つかると大変だ。そこで、餅に砂糖入りの餡をくるんで、雑煮にするという食べ方が考案された。よもや、餅に砂糖餡が入っているなんて、誰も思わないものね。そして、役人に見咎められた時に誤魔化すために、塩入餡の入った塩餡餅を作った。今でも、その風習が残って、砂糖餡餅と塩餡餅が雑煮として食べられているんだよ。讃岐の餡餅雑煮は、庶民の食べ物への夢を追い求めた努力の結晶。どっちが正統だとか邪道とかなんて事はないんだよ。こういった食文化は、お互いを尊重して大事にしなきゃ・・・わかった!?」


「は・・・はあ・・・」


「・・・はい・・・」


 何だか、もの凄く良い事を言われて、無理やり纏められたような気がするが、言い争っていた嘉村と臼杵は、毒気を抜かれた様にポカンとなっている。


何だか、幼稚園の先生に、優しく諭されるといった体で、これ以上言い争うのは不毛なように思えたからだった。


「はい!私の餡餅講義は終り!皆、せっかくの元旦なんだから、仲良くしようね!」


「「「はい!!!」」」


 もの凄く違和感はあるが、丸く収まったのだから良しとしよう。





「因みに、桐生さんは、どっち派ですか?」


 少し興味を覚えて、高居が質問をする。


「・・・こし餡派。個人的に粒餡は、パス!」


「・・・そっちですか・・・」


 砂糖餡と塩餡の争いが終了したと思ったら、こし餡が乱入してきた。

 閑話2をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は外伝1を予定しています。

 投稿予定は、活動報告で報告します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あけましておめでとうございます。 [気になる点] 日本国の自衛隊員は、大日本帝国の将兵を下に見過ぎでは。彼らが未来知識に触れてからの対応は、国家と臣民を護るために最善を常に尽くしている。山…
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