閑話 1 初代司令の大晦日
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
久々に第2部の投稿ができました。しかし、ウクライナとロシアの戦争により、話を書くのが難しい状況です。早く戦争が終わり、両国に平和が訪れます事を心から願っています。
1943年(昭和17年)12月31日深夜。
太平洋洋上で試験航海を行っている、菊水総隊海上自衛隊[かいよう]型多目的護衛艦2番艦[こうよう]。
昨年、終結した第2次世界大戦後に、日本共和区の工廠で進水したばかりの新造艦である。
「ふわぁぁぁぁ~・・・」
その司令室では、初代司令に就任した氷室匡人1等海佐が、大欠伸をしていた。
「あぁ~あ・・・世間では、大晦日だっていうのに・・・何で、僕は仕事をしているんだろう・・・?」
ブツブツと文句を言いながら、再び欠伸をする。
時計の針は、すでに23時を回っている。
後少しで、新しい年が、やって来る。
「去年の大晦日は、楽しかったなぁ~・・・ハコ姉さんと、京子姉さん・・・呼んでも無いのに押しかけて来た、その他大勢・・・」
氷室の脳裏に、去年の大晦日の思い出が過る。
昨年の12月31日は、氷室の従姉であり日本共和区統合省防衛局長官でもある村主葉子の長官私邸に、村主葉子の妹である菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群首席幕僚の、村主京子1等海佐。
翌年から、大日本帝国内の大学に短期留学をするために来日して来た、連合国アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊司令部付作戦参謀であるレイモンド・アーナック・ラッセル中佐(来日直前に少佐から中佐に昇進)。
グアムの新世界連合軍連合総軍に、原子力技官としての研修を受けるために派遣される途上で来日して来た、マーティ・シモンズ伍長(レイモンドと同じく、来日直前に昇進)。
息子と日本共和区内の官舎で年末年始を過ごすはずが・・・ドタキャンされた、第1護衛隊群第1護衛隊イージス護衛艦艦長の神薙真咲1等海佐。
個人的理由で、大日本帝国に観光旅行に来たはずが、どこでどう知り合ったのか、ちゃっかり神薙にくっ付いて来た、枢軸国イタリア王国海軍地中海艦隊空母機動部隊司令官であり、氷室とは旧知の間柄である、ダリオ・バリーニ中将と、村主葉子の飼い猫である美緒という、肩書が異常に長いメンバーで、大晦日を過ごしたのだった。
なかなかに、カオスな状態になっていたが、それなりに楽しかった。
昨年の8月、ハワイ会戦での停戦後、実質、第2次世界大戦と言われるものが、完全終結したのは、12月に入ってからだった。
大日本帝国だけではなく、連合国アメリカ合衆国を始めとした連合国、枢軸国各国内での様々な混乱が、ある程度収まるには、それだけの時間を要したからだった。
そういった混乱も、クリスマス前には沈静化し、人々はやっと一息付く事が、出来たのだった。
氷室自身も、なんやかんやで忙しく、年末に日本に戻れるとは思っていなかったぐらいだ。
明けて今年は、昨年まで戦争状態であったという事が信じられない程、穏やかだった。
国内の問題に限れば、陽炎団警察等は、昨年から引き続き反社会的勢力の検挙や、それらが引き起こす散発的なテロ事件の鎮圧に忙殺されていたが、対外的には大きな問題は起こらずに済んでいた。
戦争が遺した傷跡は、予想以上に大きかったのだろう。
この時代の現代人と、自分たち未来人の間には、意識的にも大きな乖離がある事は、氷室も十分に承知している。
その意識の溝を埋めるためには、双方とも更なる努力と時間が必要だろう。
「小腹が減ったな~・・・」
大晦日と言えば、年越しそば。
[こうよう」でも、夕食には海老天そばが供されたが、少し物足りない。
夜食でも頼もうかと考えて、デスクの上にある艦内電話の受話器に手をかけた。
「ひ~む~ろ~さ~ん」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!?」
自分しかいないはずの、司令室。
いきなり背後から陰の籠った声で呼びかけられて、氷室はもの凄い悲鳴を上げた。
もちろん、声の主が誰であるかは、わかっている。
「だ~か~ら~・・・いつも!いつも!!いつも!!!背後から忍び寄るのは、やめてくださいっ!!!」
「だって~・・・氷室さんの反応を見るのが、楽しいんだもん!」
「僕は、貴女の玩具では、ありません!」
この人は~・・・!!
「まあまあ。夜食を、お持ちしました」
抗議する氷室を無視して、手に持ったトレイをデスクに置いたのは、特例で[こうよう]に乗艦している陽炎団警察警視正の桐生明美だった。
「・・・ラーメン?」
「氷室さん、天邪鬼さんな所があって、年越しにはラーメンを食べるって、聞いていますよ。おそばでは、欲求不満になるだろうと思って、夜食に、お持ちしました」
「・・・いったい、誰に聞いたんです?」
「ナイショです。では、失礼しました」
「・・・・・・」
クルッと踵を返して、桐生は司令室のドアを開けた。
「あっ・・・そうそう」
そこで、何かを思い出したように氷室に振り返る。
「氷室さん、良いお年を」
極上の笑みを浮かべて、桐生はそう告げて、司令室を出て行った。
「・・・美味かった」
桐生の持って来てくれたラーメンを啜り、スープまで飲み干して、ラーメン鉢をトレイに置いて、氷室はつぶやく。
ふと、壁に掛った時計に視線を送ると、日付が変わっていた。
しかし・・・である。
やっぱり、去年も今年も、怨霊に取り憑かれたままでいる自分に、良い年が来るのか否か・・・
氷室には、わからない。
閑話1をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は元日を予定しています。
良いお年を




