大戦の予兆 序章 2 陛下と元帥
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
1944年元日。
海軍元帥に昇進した山本五十六大将は、宮城(皇居)を、訪れていた。
2年前の大東亜戦争で、連合国との講和条約を締結させた事により、山本は、その功績を称えられて、元帥に昇進したのである。
大日本帝国軍に、元帥という階級は存在しない。
アメリカ軍等では元帥という階級は存在するが、大日本帝国軍には元帥という階級は、存在しないのだ。
あくまでも元帥とは、名誉階級であり、天皇陛下に対する直接の助言を行う事が出来る役職に就く事が出来る。
現在の山本の役職は、海軍顧問団の一員である。
「・・・・・・」
山本は、元日の空を見上げた。
「山本元帥。何を考えているね?」
傍らから声をかけられた山本は姿勢を正し、踵を返した。
「これは陛下。新年あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
山本は、45度の敬礼をした。
「顔を上げたまえ、元帥。今日は公務では無い。私用である」
「はい」
「元帥は、何を考えていたのかね?」
「たわいのない事です」
「そうか・・・たわいのない事か・・・当てよう。本来の歴史では、大東亜戦争は、まだ終結していない。大日本帝国は、戦争の真っただ中にいた。多くの陸海軍将兵が戦死して、熟練兵のほとんどを失った・・・」
「はい」
1944年1月・・・もう1つの歴史では、大日本帝国は開戦3年目に突入していた。
昨年の4月18日に山本は、ブーゲンビル島上空で、アメリカ陸軍航空軍所属のP-38[ライトニング]の襲撃を受け、彼が乗った一式陸上攻撃機が、撃墜された。
山本は、そこで戦死したのだ。
アメリカ海軍情報部は、大日本帝国海軍の暗号解読に全力を尽くし、山本がブーゲンビル島上空に現れるという情報を掴んだ。
その年の5月には、大日本帝国軍が占領したアリューシャン列島のアッツ島に、アメリカ軍が上陸。
山崎保代大佐以下、守備隊が玉砕した。
8月にはニューギニア島での戦いが激化し、アメリカ軍とオーストラリア軍が中心となり、激しい激戦が展開されていた。
南太平洋戦線での最大の基地であるラバウルは、度重なる空襲を受け孤立無援となる。
11月にはギルバード諸島に、アメリカ軍が上陸し、激しい激戦を繰り広げた。
特に要塞化したタラワ島では、アメリカ軍と大日本帝国軍との間で、とてつもない激戦を繰り広げた。
1944年は、連合軍による反攻作戦が、本格化した時期である。
「彼らの歴史では、ここ東京は、アメリカ空軍の戦略爆撃機B-29による東京空襲が行われ、東京一帯は焼け野原になった。その事を考えると私は憂鬱だ。しかし、それを経験したもう1人の私は、もっと心を痛めていただろう。戦争を止める事も出来ず、陸軍の主張する徹底抗戦論も否定出来ない・・・」
「私も、陛下程ではありませんが、同じ気持ちです」
山本が、答える。
「私は、アメリカとの戦争は、我が国が最初に経験する完全敗北になると、わかっていながら、開戦を止める事が出来ず、大艦巨砲主義者たちを説得する事も、出来ませんでした。私は、真珠湾攻撃を立案し、アメリカ軍を徹底的に叩く事を考えましたが、その、考えは甘かったと言わざるを得ません。もし・・・彼らがいなければ、この時代も、彼らの過去の歴史と同じ結末を、経験する事になったでしょう・・・」
「だが、まだ恒久的世界平和への道は、程遠い・・・」
「はい、1つの難問を解決したら、また、新たな難問が現れます」
「そうであろうな。恐らく、サヴァイヴァーニィ同盟との間で、戦争が始まるであろう・・・それが、何年先になるかについては、予見する事も出来ぬ人の身では、どうしようも無い事ではあるが、もどかしく思う・・・」
山本と同じ様に、元旦の澄み切った青空を見上げる陛下の表情は、不吉な予感に曇っていた。
大戦の予兆 序章2をお読みいただきありがとうございます。
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