大戦の予兆 第10章 警察機構コマンドの大会
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
先々週は心地いい気候でしたが、先週は昼間は暑くてたまりません。春仕様の服装から、夏仕様の服装に変更しました・・・
[こんよう]の士官室で、朝食を食べていた石垣は、桐生に声をかけられた。
「い~し~が~き~く~ん」
「何ですか、桐生さん?」
「今日からハワイで、SWATチームの世界大会が、開始されるよ」
「ええ、そうでしたね」
「石垣君も、参加したら?」
「えっ」
石垣は、目を丸くする。
SWATチームの世界大会は、新世界連合・連合警察機構麾下の連合警察機構コマンドが主催する大会である。
連合捜査局のSWATや連合警察機構GSG-9等の警察の特殊部隊が参加し、さまざまな競技が行われている。
昨日は、SAWTチームの世界大会前日という事で、参加した各特殊部隊の親善目的で、サッカー大会が開催された。
石垣も、その中継映像を見ていたが、優勝したのは、日本統合任務部隊派遣警察隊の特殊急襲部隊(SAT)のチームである。
「桐生さん。俺は、自衛官です。SWATチームの世界大会は、警察官が参加する大会ですよ。俺は、部外者ですよ・・・」
「そんな事、気にしない~」
桐生は、気の抜けた口調で話す。
「石垣君は、状況によっては、警察官たちを指揮する立場でもあるんだよ。彼らの実力を把握しておく事も、大事だと思わない?」
桐生の言っている事は、正しい事である。
石垣は立場上・・・職務上、陸海空自衛隊だけでは無く、警察、消防も指揮下に置いて、指揮する場合がある。
むろん、警察、消防については、完全な素人であるから、現場の指揮は警察官、消防吏員たちが行うが、一時的に石垣の指揮下に入り、行動する場合もある。
指揮系統や現場を混乱させないためにも、石垣が、警察の訓練や消防の訓練を見学する必要があるのは、当然だ。
「確かに、桐生さんの言っている事は確かですが・・・どうして、急に・・・?」
訓練を見学するのは、当然だとしても・・・何故に、訓練に参加するという流れになっているのか?
「それはね。SATに所属する森山巡査部長から、石垣君を訓練に参加させてくれないかと、頼まれたの。だから、即、OKしちゃった」
テヘッという感じで、桐生は告げる。
「ちょっとぉぉぉ!!?俺の意見は?俺に聞かないで、勝手にOKしないで下さいよ!」
「だって~・・・ゴンちゃんと為五郎に、お肉を差し入れされちゃったら、断る訳にはいかないでしょう?あのお肉、とっても高い牛肉だったのよ。それを、バーン!と差し入れしてくれるなんて、太っ腹!これは、断るなんて失礼な事は、出来ないでしょう?」
理由が、無茶苦茶である。
「それは、そうですけど!俺に聞かないで、勝手に話を進めるのは、どうかと思いますよ!」
「大丈夫!司令官と副司令官には、ちゃんと許可も取っているし。問題は無いよ!」
「いや、肝心の俺に聞かないのが、問題であって・・・」
がっちりと、外堀が埋められている。
しかし、肝心の石垣の意見は・・・?
完全に、無視されている。
「石垣君。モテる男子の条件は、どんな事にも臨機応変に対応出来るっていうのも、あるんだよ~」
それ、どんな条件なんですか?という突っ込みは、置いておく。
「いえ、これ以上モテる必要は、ありません!ただでさえウチのチームは、こんなに女性たちが集まっているのに、これ以上、女性を増やす必要はありません!むしろ、減らしたいぐらいです!」
「じゃあ、私たちに、他の男を紹介してくれるの~?」
小松が、ニヤニヤしながら聞いた。
「駄目だ!俺の女性たちを、他の男にくれてやる訳にはいかん!」
石垣の宣言に、士官室で食事をしながら、見ざる聞かざる言わざるの態度に徹していながら、聞き耳はしっかり立てていた幹部自衛官たち(男性たち)が、おっという表情を浮かべた。
「あっ!?」
石垣が、声を上げた。
「そうか、そうか。達也・・・お前は、私たち全員が好きという訳か・・・」
任が無表情で、つぶやく。
「タッチン、イカす!『俺の彼女だ!』宣言をするんだから、嬉しい!ねぇ~メェメェ、美鈴ちゃん!」
「・・・・・・」
側瀬の言葉に、メリッサは何も言わなかった。
「ふむ。私としては、こんな情けない男を好きになったのは、不本意だが、『俺の女だ』宣言は、悪くない・・・」
「キャン!」
片倉が、まんざらでもない表情を浮かべながら、つぶやくと、何故か吹雪までもが、一鳴きした。
1機のCH-47JAが、パールハーバー・ヒッカム統合軍基地の、ヘリポートに着陸した。
後部ランプが開放され、1台の高機動車が、CH-47JAの貨物室兼兵員室から出てきた。
運転手として伊花が配置された状態で、石垣、任、メリッサ、側瀬、片倉、日本統合任務隊衛生隊技官の伊藤恵美の6人が、高機動車の貨物室兼兵員室の座席に座っている。
伊藤は先の大戦時、日本共和区統合省防衛局特別勤務者の1人として、大日本帝国統合軍省統合作戦本部指揮母艦[信濃]の酒保店員として配属されていたが、戦後、日本共和区防衛局自衛隊衛生学校に入校し、晴れて看護師の資格を収得して、今回、衛生隊の一員として、統合任務隊に配属となったのだった。
そして・・・
石垣としては、嬉しいやら、困るやら・・・
伊藤も、石垣に思いを寄せている節がある・・・
非常に、悩ましい問題ではある(色々と・・・)。
それと、桐生の指示で、無理やり同行させられた、陽炎団警察生活安全課の糸瀬と、藤木真奈美巡査の2人もいる。
助手席には、伊花小隊の狙撃班に所属する狙撃手である、3等陸曹が座っている。
彼は、自衛隊生徒学校出身の陸上自衛官であり、22歳の若手陸曹だ。
「石垣1尉。僕たちをSWATチームの世界大会に参加させるのに、どんな意味があるのですか、警察の能力を把握するのだったら、見学だけでもいい気がするんですけど・・・」
伊花が、疑問を口にする。
「俺に聞かないでくれ。桐生さんには桐生さんの考えが、あるんだと思う・・・多分・・・」
「難しく考える必要は、無いんじゃないですか!SATの訓練ですよ!ほとんど非公開にされる、SATの訓練に、見学だけじゃなく参加までさせてもらえるなんて、こんな幸運、滅多に無い事ですよ!」
SATに、密かに憧れを持っている藤木が、嬉しそうな表情を浮かべながら叫ぶ。
「いや、そうなんだけど・・・俺としては、素直に喜べないか・・・な」
石垣が、複雑な表情を浮かべる。
「?」
「森山巡査部長って・・・噂じゃ、空自の嘉村3佐と同じぐらいの、変人らしいんだよ。もの凄~く、嫌な予感がするんだよ・・・」
「そ・・・それを、今、言わないで下さいよ・・・」
伊花が、げんなりした表情を浮かべる・・・
それも、そうだろう。
グアムに赴任したばかりの頃、嘉村の発案で、石垣と共にF-15DJに乗せられ、最終的に2人揃って気絶した、嫌な思い出が甦る。
「?」
藤木にとっては、いま一つ、ピンとこないようだ・・・
「でも、SATには高荷さんもいるのですから、いくら変人がいても、無茶な事態にはならないかと・・・」
糸瀬が、ボソボソと口を挟んできた。
「いや・・・高荷巡査部長も、空自の高居3佐と、似たような人柄らしいんだよね。森重巡査部長を止めるどころか、適度なところで、煽ると思う・・・」
「多分・・・その可能性がある・・・かも」
石垣の言葉に、伊花が頷くのであった。
「いつまで、沈んでいるつもりかしら?」
メリッサが、声をかけた。
「これは、タツヤやイバナにとっても、とても大切な事よ。キリュウさんに、言われたでしょう?これは、警察の事情を知るために、大切な事だって」
「達也。何も悪い事だけでは無い。たとえ、その警察官たちに問題があったとしても、警察の事情を知る事が出来る、またとない機会だ。しっかりと勉強に励むといい」
任が、告げる。
「タッチン。はい、ヨーグルト!」
側瀬が、いきなり自分のスプーンを、石垣の口元に近付ける。
「はい、あ~ん」
「!?」
側瀬の行動に、一瞬驚いたものの、石垣は無意識にパクッと、ヨーグルトを一口食べる。
ある意味、条件反射のようなものだったのかもしれない。
「甘い・・・」
石垣としては、それだけしか感じられなかった・・・いや、正確には、一瞬だけ感じた味覚である。
後から来たのは、背中に走る悪寒であった。
「・・・・・・」
メリッサは、何も言わなかった。
しかし、メリッサの背中からは、ドス黒い何かのオーラが出ている。
「ふふ~ん・・・」
小松が、小悪魔的な笑みを浮かべる。
「何かしら?」
「いえ、何でも無い」
小松は、何も言わなかった。
しかし、相変わらず、小悪魔的な笑みを浮かべているのであった。
石垣ガールズから、何かドス黒いオーラが立ち上っているのを、伊花、3曹、糸瀬、藤木は生存本能で察知し、何も語る事は無かった。
「クスン。しょっぱい・・・」
石垣ガールズのメンバーであるのに、参加出来ない伊藤は、ただただヨーグルトを食べているのであった。
SWATチームの世界大会が開かれる会場の受付で、石垣たちは身分証を見せた。
「話は伺っています。どうぞ、お入りください」
会場の警備を任されている、警備会社の警備員が頷いた。
警備会社は統合省保安局傘下の警備会社では無く、ニューワールド連合・連合民事局傘下の警備会社である。
そのため、日本の警備会社とは異なり、受付の警備員は、自動拳銃を装備している。
さらに、周囲を警戒している警備員も、AR-15又はM4を装備し、警備犬を連れて、警戒している。
「すごい厳戒態勢だな・・・」
伊花が、つぶやく。
「日本の警備会社に馴れていますから、アメリカやイギリス等の警備会社の警備員を見ると、本当に警備員?って、言いたくなります」
3曹が、つぶやく。
確かに連合民事局傘下の警備会社では、4輪駆動の装甲車までもが配備されている。
予算が無い警備会社でも、軍用車両であるハンヴィー等が、配備されていたりする。
「あんな装甲車まで!?」
石垣が、驚いた口調で叫んだ。
彼の目の前を通過したのは、M113装甲兵員輸送車だった。
「さすがに金のある警備会社は、違う・・・」
石垣が感心していると、メリッサが突っ込んだ。
「違うわ。よく見なさい。SWATと書いているでしょう」
「あっ!本当だ」
「石垣1尉。さすがに、アメリカの大手警備会社といっても、M113までは、配備されてないかと・・・」
「そうだよね・・・」
石垣は、頭を掻く。
「それでも、すごい。完全な軍用の装甲車を、警察仕様にするなんて・・・」
「SATも、同じ様にしているでは無いか・・・」
任が、突っ込む。
「それは、そうなのですが・・・ちょっと、違うかな・・・」
日本統合任務部隊警察派遣隊警備課に所属するSATは、96式装輪装甲車を警察仕様にした状態で、配備している。
しかし、96式装輪装甲車Ⅱ型を改良したものであり、正式名は、96式装輪装甲車Ⅲ型である。
「SATが96式装輪装甲車Ⅲ型を導入したのは、警察派遣隊の任務によっては、不整地内でも稼働できるようにするためです。SWATは、その前から、最初から警察仕様に改良したM113を導入しています」
「はい、はい!しつも~ん!SWATの狙撃手って、500メートル離れた距離から、空高くに掲げられたナイフを撃ち落とす腕前があるって、本当?」
側瀬が、質問する。
「確かに、そんな達人級の腕前の狙撃手はいるけど・・・全員が、それを出来るとは限らないわ」
「なん~だ。SWATって、すごい人たちの集まりと思っていたけど、そうじゃ無いんだ・・・」
メリッサの言葉に、側瀬が残念そうに、つぶやく。
「・・・もの凄く、失礼な発言だと思う・・・」
石垣は、ボソッと側瀬を窘めた。
「そうだね。ゴメン・・・」
素直に、側瀬は謝った。
「それくらい、出来て当然だろう?私も出来るが・・・?」
片倉が、当たり前だという表情で、トンデモ発言をする。
「い・・・いや、片倉さん・・・側瀬の問題発言に、さらに燃料を投下して炎上させるのは、やめて下さい!!」
こんな発言、誰かに聞かれでもしたら、絶対に怒られる。
石垣は、冷や汗を流しながら、片倉を窘める。
「おっ!来た、来た」
初の顔合わせの時に、顔を合わせた人物が2人・・・
「こっち、こっち」
日本統合任務部隊派遣警察隊警備課SAT制圧1班に所属する森山重信巡査部長と、狙撃支援班に所属する高荷尚也巡査部長が待っていた。
「こちらの方たちは?」
石垣が、アフリカ系アメリカ人を筆頭に、腕を組んでいる男女たちを見た。
「彼らは、ロサンゼルス市警察から志願した、SWATチームのメンバーだ!」
「隊長のアレグサンダー・マクドナルド警部補だ」
アフリカ系アメリカ人のマクドナルドが名乗ると、彼の部下たちも名乗った。
「それで・・・石垣1尉と伊花3尉、それに、ドボン巡査」
「はい?」
「何ですか?」
「その呼び方で、呼ばないで下さい!」
3人が、森山に顔を向ける。
「君たち3人には、犯人役をお願いします!」
森山は、高らかに宣言した。
「「「えぇぇぇぇぇ!!?」」」
そんなの聞いていない!
3人は、絶叫する。
「え~と・・・何で、こんな目に・・・」
石垣が、犯人役と書かれたゼッケンを付けた状態で、建物の部屋の中で、つぶやく。
石垣たちは、武装して立て籠もるテロリストという設定になっている。
それをSATとSWATの合同チームが突入し制圧するという、訓練内容である。
「桐生さん・・・絶対、僕たちに、この役を任せるために、ここに来させたんでしょうね・・・」
伊花が、つぶやく。
「どうして、僕まで・・・」
糸瀬が、つぶやく。
その時、訓練開始のアラームが鳴る。
「窓から離れて下さい、石垣1尉。狙撃手に、やられます」
「わかった」
石垣が、窓際から離れる。
「あ~!もう、こうなったら、破れかぶれだ!」
糸瀬が、叫ぶ。
彼は窓に近付いて、AK-47を乱射する。
乱射と言っても、発射されている弾丸は、スポーツボールに使われているゴム製のゴム弾であるため、よほど当たり所が悪く無い限り、死ぬ事は無い。
「バカ!窓際に近付いたら・・・!」
バン!
1発の銃声と共に、糸瀬の胸元に、ゴム弾が直撃した。
「イッタ~イ!!」
その後、放送が流れる。
『糸瀬巡査。胸元に被弾し、死亡と判定!』
「・・・だから、言ったじゃないか・・・」
伊花が、頭を抱える。
「石垣1尉。物陰に隠れて下さい!そこで、籠城戦です!SATが突入してきます!」
「わかった」
石垣が、柱の物陰に隠れる。
「詳しいですね」
「ええ、まあ。SATや銃器対策部隊とは、治安出動訓練で、何度も共同演習をしましたから、それなりに警察の対応には、詳しい方ですよ」
「それなら、俺たちだけで、勝てるかもしれないな」
「それは、どうでしょう・・・」
その時、石垣と伊花がいる部屋に、特殊閃光手榴弾が投擲された。
「耳と目を守って下さい!」
「うわぁぁぁ!?」
ボン!
特殊閃光手榴弾が、炸裂した。
訓練用の手榴弾であるため、爆発力や閃光の発する能力は、低く抑えられている。
それと同時に、SATとSWATの隊員たちが、突入して来た。
全身が、黒色に統一されている。
そんな人間が、何人も突入してくると、恐怖を感じてしまう。
伊花が、AK-47を構えて、発砲する。
SATの隊員たちは怯む事も無く、伊花の胸元に照準と頭部に照準を合わせた。
数発の銃声と共に、伊花が倒れる。
『伊花3尉。頭部と胸元に被弾し、即死と判定』
放送が、流れる。
「ええい!」
石垣が、叫び声を上げながら、AK-47を構える。
1人のSATの隊員に照準を合わせて、引き金を引く。
SATの隊員1人が、倒れる。
「1名負傷!」
「搬送を急げ!」
SATの隊員たちから、そのような声が響く。
石垣は、AK-47を構えたまま、別の目標に照準を向けようとしたが・・・
ドス!
石垣の胸元に、ゴム弾が命中する。
「うわぁぁぁ!?」
彼は、そのまま倒れて床に尻餅をつく。
『石垣1尉。胸元に被弾し、即死と判定!』
放送が流れて、その後、『訓練終了!』というアナウンスが流れる。
「どうだい、SATの実力は?」
目出し帽を脱いだ森山が、手を差し出す。
「はい、とても勉強になりました・・・ですが、出来れば犯人役では無く、訓練内容を見学出来る立場の方がいいです・・・」
「身を持って経験するのが、一番の勉強になるんだよ」
森山が、石垣の右手を掴んで、助け起こす。
「でも、すごいよ」
森山が、石垣を褒める。
「さすがに実戦経験のある自衛官は、違うな。SATの隊員1名を、負傷判定にさせるなんて・・・てっきり、こっちは被害なしと思っていたんだけど・・・」
一応、褒め言葉ではあるのだろうが・・・
大戦の予兆 第10章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は4月17日を予定しています。