大戦の予兆 第9章 リムパック 4 大日本帝国海軍と連合国アメリカ海軍
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
最近、暖かくなったり、寒くなったり、していますね。みなさんの体調はいかがでしょうか?私は、取り敢えず大丈夫です。
連合国アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊第7艦隊第72戦艦部隊旗艦[ルイジアナ]は、随行艦の同行を受けながら、大日本帝国海軍聯合艦隊第一艦隊第一戦隊との合流を、待っていた。
戦艦[ルイジアナ]は、[モンタナ]級戦艦の改良型として建造された、最新鋭の戦艦だ。
[モンタナ]級戦艦では、45口径の18インチ砲を搭載していたが、本級では、55口径18インチ砲3連装砲3基を、搭載している。
戦艦[ルイジアナ]は、[ニューハンプシャー]級戦艦であり、1番艦は、大西洋艦隊第6艦隊第62戦艦部隊に、配属されている。
ニューワールド連合軍の技術も提供され、ハープーン・ミサイル、トマホーク巡航ミサイル、CIWS等が、搭載されている。
連合国アメリカ海軍は、ニューワールド連合からの技術提供があるという事を知ると、海軍艦艇増強計画予算を設けて、残存する戦艦や空母の改良を行っていた。
「戦艦[スルガ]は、大日本帝国海軍の最新鋭艦だと聞く、どんな戦艦なのだろうな?」
CICの司令官席に腰掛ける第72戦艦部隊司令官の少将(1つ星少将)が、副官である大佐に聞く。
「[ヤマト]級戦艦と、まったく同じだと聞いております。主砲や機関等が最新型に更新されているようですが、ほとんど[ヤマト]級戦艦と、変わらないと・・・」
「そうか・・・貴官は、戦艦[スルガ]を見たのか?」
「いえ、小官は、戦艦[ヤマト]を見ました。ハワイ会戦で発生した海戦で、戦艦[モンタナ]の艦橋で見ました」
「そうだったな。貴官は、ハワイ会戦に従軍した。私は、アメリカ本土西海岸の防衛・警備司令官として艦艇を率いていた。ハワイ会戦で、米英独伊4ヵ国連合軍が敗退したという話を聞いた時は、驚いたよ。だが、当然の結果か・・・とも、思った」
少将は、コーヒーを啜る。
「試験航海も試験射撃、性能評価試験も無しに就役させた戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦、フリゲートを、無理やり正規艦隊に編入し、実戦に投入した。将兵は熟練兵ばかりであるが、十分な訓練もしていない状況下では、十分な練度を維持する事は、不可能だろう・・・」
「そうですね。小官も、こんな状況下で、本当に会戦に勝てるだろうか、思っていました。結果は、多くの犠牲を出しただけでした・・・」
「そうだ。しかし、それが必要だった。あの犠牲が無ければ、我々は、スペース・アグレッサー軍の言いなりになってしまっていただろう。我々が抵抗し、ある程度に打撃を与えた事と抵抗の意思を見せた事により、スペース・アグレッサー軍や、その上位者である文官の連中に、思い知らせる事が出来た」
少将は、調理員が持ってきてくれた、ビスケットを1つ、つまむ。
彼が言ったように、アメリカ軍を含む連合国の軍人、文人たちは、ニューワールド連合とニューワールド連合軍の呼称を認識したが、ほとんどの者が、その呼称を使っていない。
ほとんどの者が、スペース・アグレッサー軍と、呼称する。
「そう言えば、提督。彼らが見せた、彼らの歴史の記録を、ご覧になりましたか?」
「ああ」
「彼らの記録では、太平洋戦争は膠着状態となり、それを打開するために、我が国は、原子爆弾を、日本のヒロシマとナガサキに投下した・・・自分には信じられません。いくら、戦争が膠着状態だったとしても、民間人に大量の犠牲者が出る原子爆弾を、軍事施設では無く、民間人が居住する都市部へ投下するなんて・・・」
「確かにな・・・」
司令官は、そう答えたものの、内心では然もありなんと、考えていた。
太平洋戦争(大東亜戦争)末期。
連合国アメリカ合衆国は、焦っていた。
当初、大日本帝国は、マリアナ諸島が落ちれば降伏すると予想されていた。
マリアナ諸島が落ちても、大日本帝国は降伏しなかった。
次に、沖縄が落ちれば降伏するだろうと、考えられた。
沖縄が落ちても、大日本帝国は降伏しなかった。
ヨーロッパで、ドイツが降伏した事で、大戦の終結を確信した多くの国民に、厭戦気分が醸成されつつあった。
ヨーロッパやアジアでの戦線から遠く離れ、国土が戦火に見舞われる事を想像しがたい国民には、自分の父や夫、子供が、せっかくヨーロッパ戦線から生還したのに、今度は太平洋戦線に投入されるという事に、納得が出来る訳が無い。
それは、過酷な戦場から生きて戻った将兵たちも、同じである。
敗戦を続け撤退を続けて、もはやチェックメイトも同然の状態にも関わらず、大日本帝国は、諦めない。
国内の投資家たちも、一向に還元されない戦時国債に、業を煮やして買い渋りを始めている。
勝って、勝って、勝ち続けているはずなのに、物心両面から追い詰められているのが祖国という、矛盾。
それに・・・祖国には時間が無い。
共産主義の大国ソビエト連邦が、連合国入りの条件の1つとして、大日本帝国との間で交わされた日ソ不可侵条約を破棄して大日本帝国に侵攻を始める前に、大勢を決する必要がある。
そういった、国内、国家間での思惑や諸事情から、原爆の投下を選択せざるを得なかったのも致し方無かったかもしれない。
「・・・少なくとも、我々の子孫たちは、我々に、別の道へ進む選択肢を与えてくれたという事になるな・・・」
司令官のつぶやきは小さかったので、誰もそれを聞いてはいなかった。
「やはり、戦艦は、いい・・・」
双眼鏡で、戦艦[ルイジアナ]を確認しながら、大日本帝国海軍聯合艦隊第一艦隊第一戦隊司令官の少将が、つぶやく。
「はい、戦艦の存在が帝国海軍・・・いえ、世界海軍の象徴です」
少将の参謀が、双眼鏡で同じく[ルイジアナ]を確認しながら、答える。
「・・・が、しかし・・・随行の駆逐艦及び巡洋艦は、新世界連合軍から提供された、艦艇だな・・・」
「はっ。何といっても、アメリカは世界一の金持ちです。金に物を言わせて、新世界連合軍から、噴進弾搭載艦を購入する事は、いくらでも可能です・・・まったく、口では、新世界連合の傀儡国家になる事は回避すべきだと、主張している癖に、真っ先に、新世界連合軍の腰巾着になってしまった・・・」
参謀の言葉に、少将は双眼鏡を下ろした。
「それは違うな・・・中佐」
「は?違うのでありますか・・・?」
「そうだ。アメリカ海軍は、彼らの技術を受け入れる事によって、国内の技術力を上げるという事を、模索しているのだろう。いつの日か、技術で彼らに勝る能力を得ようと考えているのだろう」
「そんな日が来ますか?」
「来る!我々が、そうだった」
少将は、力強く主張した。
「明治初期・・・我々は欧米国家に対しては、まったくの無力だった。欧米を兎と考えれば我々は亀だ。兎と亀が競争しても、勝負は決まっている。普通なら勝負にすらならないと、誰もが思うだろう。しかし・・・昔話のように、諦めずに努力を重ねれば、いつの日か、亀が兎を追い抜く事も可能だ」
「どちらにしても、その日が来るとしたら、我々は老人になっていますね・・・」
「それで、いいのだよ。彼らの記録では、大日本帝国は、大東亜戦争に敗北した。しかし、その敗北から学び、新しい技術を手に入れた。その技術を大々的に前面に出して、世界経済の中心になった。どんなに時間がかかろうが、1歩1歩前に進むのが大事だ」
少将は、今後の未来の事を考えた。
現在、新世界連合や菊水総隊から技術提供を受けているが、大日本帝国の技術者たちは、単に受け取るだけでは無い。
技術から学び、それを他にも生かせるように努力した。
その結果、彼ら未来人が、驚くような製品の開発にも成功している。
今は小さい事ではあるが、今後、それを続けていれば、新しい独自の技術力を身に付ける事が出来る。
大日本帝国は、ひたすら努力を積み重ねる事で、西欧列強に肩を並べるまで成長してきた・・・今度は世界が、努力を積み重ねて新しい未来を作るのである。
「司令官!」
通信参謀が、報告する。
「戦艦[ルイジアナ]より、入電です!」
「うむ。読んでくれ」
「はっ!演習開始まで時間があるので、その間、水上戦闘の模擬戦をしてはどうか、以上です」
「なるほど、最新鋭の電子機器に、どれだけの将兵が練度を維持できるか、それを見せて貰おうという訳か・・・」
「どうしますか?断りますか・・・」
「その必要は無い。この演習は世界の海軍が集まりに親睦を深めるだけでは無く、お互い学び合う事が目的である」
少将は、振り返った。
「通信参謀。戦艦[ルイジアナ]に返信!了解した。以上だ」
「はっ!了解した。以上で、よろしいですか?」
「それで、いい!」
通信参謀が、挙手の敬礼をした。
「艦長。これより、模擬の水上戦を行う。乗員たちに火を入れろ!」
「はっ!」
艦長は、艦内電話で、全艦放送を行った。
「これより、水上戦闘の模擬戦を行う。総員、気合を入れろ!」
「対水上戦闘用意!これは模擬戦である!」
戦艦[駿河]の艦橋内に、水上戦闘用意を知らせる警報アラームが響く。
「さて、模擬戦とはいえ、今回は敵役がいる。これまでの訓練通りに、己の任務を遂行出来るか、見せて貰おう・・・」
戦闘指揮所に移動した少将が、つぶやく。
「第一戦隊の将兵たちの練度は、聯合艦隊一です!ご心配には及びません!」
「そうか・・・」
参謀の言葉に、少将は、うなずく。
彼は、別に心配などしていない。
どちらかと言うと、第一戦隊にとっては、大東亜戦争以降初となる対外模擬戦である。
第一戦隊の将兵たちが、いつも以上に気合が入り、張り切りすぎるのでは無いかと、危惧している。
彼は、大東亜戦争時、戦場に出た事は無かった。
大東亜戦争時は、大佐であり、海軍大学の戦術教官だった。
海軍大学の教官時代、若手の学生たちに、先の大戦の行方を研究させた。
さまざまなグループに分けて、さまざまな視点から、戦争の行方を研究させたのだ。
海軍大学には、予備役として配置されている予備士官たちも、入校出来るように方針が変更され、予備士官たちも戦争の行方について研究した。
しかし、正規士官と予備士官の間で、大きく議論が分かれた。
正規士官たちは、目の前の出来事から判断し、戦争の行方の結果を発表した。
予備士官たちは、目の前の出来事だけでは無く、さまざまな可能性を視野に入れて、戦争の行方の結果を発表した。
なかなかに、面白い結果が出た事は、確かであるが・・・正規士官たちは、目の前の出来事しか予想出来なかった。
これでは、下士官や水兵を率いる士官として、どうなのかと、心配になる。
第一戦隊に所属する士官たちは、少将が海軍大学の教官だった時の、学生たちがいる。
派手にやる気が出て、途中で脱落しないかが、心配である。
若手士官の中には、大東亜戦争は、自分たちだけの実力で勝利したと主張する者もいる。
大東亜戦争は、勝利した訳では無い。
何とか連合国と、対等な立場での交渉の席に着ける状況下に持っていけた・・・というのが正しい。
しかし、そんな状況下に持っていけたのは、未来人の存在があったからだ。
彼らがいなければ、彼らの記録の通りに歴史が進み、戦争は敗北への道程を突き進む事になったであろう。
未来人の存在が、祖国を変え、この世界を変えた。
そんな事を考えていると、戦闘指揮所が慌ただしくなった。
「水上戦闘!一番副砲!二番副砲!四番副砲!右90度に旋回!」
「水上戦闘!主砲一番!主砲二番!主砲三番!右90度旋回!」
砲術士官たちが、指示を出す。
電算員たちが電算機を使って、主砲の角度を決める。
「弾種!空砲!」
「弾種!空砲!」
五十口径四六糎主砲9門に、空砲弾が装填される。
「砲撃準備完了!」
「艦長。砲撃準備完了です!」
「主砲及び副砲!砲撃開始!」
艦長の号令を聞き、砲術長が叫んだ。
「撃ち方始め!」
「撃ぇぇぇ!!」
四六糎砲と、一五半砲が吼える。
「艦橋!戦艦[ルイジアナ]は、砲撃したか?」
艦長が、問うた。
「艦橋見張り員より、戦艦[ルイジアナ]は、砲撃していません・・・あっ、今、砲撃をしました!」
「どうやら勝負は、決まったようだな」
少将が、立ち上がった。
こちらの勝ちであった。
しかし、今回は勝ったが、実戦で使い物になるかどうかは、また別の話である。
戦艦[ルイジアナ]と戦艦[駿河]が、ちょっとした模擬戦を行っている頃、アメリカ海軍太平洋艦隊第7艦隊第71空母戦闘群旗艦である原子力空母[エンタープライズ]の飛行甲板に、三式哨戒回転翼機が着艦した。
「捧げ銃!」
原子力空母[エンタープライズ]の乗組員で、編成された儀仗隊が、M1[ガーランド]で、捧げ銃の姿勢をとる。
連合国アメリカ陸海空軍の銃火器は、ニューワールド連合の介入により、大幅な更新が行われていた。
半自動小銃では無く、自動小銃に更新された。
M16A1が、アメリカ陸海空軍の主力小銃である。
しかし、更新が間に合っておらず、M14[バトルライフル]を、代わりに更新させている。
原子力空母[エンタープライズ]には、M16A1が完全に配備されており、M1[ガーランド]は儀仗用である。
「大日本帝国海軍聯合艦隊司令長官、山口多聞大将。[エンタープライズ]に乗艦!」
儀仗隊の指揮官が、叫ぶ。
「遠路はるばる、ご苦労」
第71空母戦闘群司令官であるウィリアム・フレデリック・ハルゼー・ジュニア大将が、右手を差し出す。
「ハルゼー提督。お元気そうで何よりです」
「元気も何も・・・先月、大日本帝国横須賀基地に入港した。その時に会ったではないか・・・」
「はい。あの時は、ご不便をおかけしました」
アメリカ海軍の空母機動部隊の入港で、大日本帝国内は、蜂の巣をつついたよう騒ぎになった。
2年前まで、戦争していた事もあり、国民感情は、言うまでも無い。
テロ等を警戒して、警察と国家憲兵は、厳戒態勢を敷いた。
むろん、横須賀鎮守府内の警備を強化するために、鎮守府内に編成されている海軍陸戦隊とは別に、海軍陸戦隊1個大隊を配備させ、警備に就かせた。
「なあに、逆だった場合でも、同じ結末が待っているだけだよ」
ハルゼーは、別に気にした様子も無く、手を離した。
本来であれば、山口もアメリカ・サンディエゴ海軍基地に入港する予定であったが、アメリカ国務省と内務省が国内事情を配慮して、入港を控えるようにと、大日本帝国外務省に通達したのだった。
現在のアメリカ合衆国は、第2次世界大戦の結果について、大きく議論されている。
パシフィック・スペース・アグレッサー軍と、アトランティック・スペース・アグレッサー軍に敗退し、彼らの傀儡国家に成り下がった・・・という事で、国内ではデモが頻発している。
さらに、ニューワールド連合の介入により、人種差別の廃止等の政策が施行され、それに反発する人種差別主義者が、暴動を起こしているのだ。
それに対抗して、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系アメリカ人、アジア系アメリカ人、ネイティブ・アメリカ人等が抵抗運動を起こし、全米各地で、大規模な暴動が発生している。
南部アメリカでは、アフリカ系アメリカ人に対する差別感情が強く、例え優秀な若者であっても、有名私立高校に入学する事も出来ない。
しかし、ニューワールド連合の介入により、すべての高校や大学に、ヨーロッパ系アメリカ人以外の人種も、入学出来るように決められた。
そんな中、アメリカ南部のとある州で、人種差別主義者の州知事が、州の中で上位に位置する有名私立高校への、アフリカ系アメリカ人等のヨーロッパ系アメリカ人以外の人種を入学させる事に強く反対し、各高校に州兵を配置させて、抵抗した。
ニューワールド連合・連合警察機構は、SWATチームを派遣し、アフリカ系アメリカ人の警護を命令する事態に発展している。
大日本帝国や大韓共和国とは違う形での、価値観の違いという問題による衝突が、連合国アメリカ合衆国内では、起こっていた。
(・・・少し、急ぎ過ぎなのではないか・・・?)
山口としては、連合国アメリカ合衆国国内の状況に、危惧を抱いている。
大日本帝国や大韓共和国の場合、未来人たちは、徐々に改革を浸透させていくという手法を取った。
それでも、混乱は起こったのだから、連合国アメリカ合衆国のような、多民族国家の場合、それ以上に注意深く進めていく事が必要と思えるのだが・・・
あまりにも性急過ぎる政策では、未来人に対する不信と不満を、悪戯に高めてしまうのでは?
山口には、そう思える。
大戦の予兆 第9章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は4月10日を予定しています。