大戦の予兆 第8.5章 石垣+aの災難 再び
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
演習が終了し、石垣たちは[こうよう]に、帰還した。
「お疲れ様。おかえりなさい」
「ワン!」
帰投した石垣チームと護衛小隊兼先遣小隊一同を出迎えてくれたのは、桐生と伊花の飼い犬であるジャッキーである。
「ただいまージャッキー!僕たち、頑張ってきたよ!」
尻尾を振って駆け寄って来たジャッキーを抱き上げて、伊花は蕩けるような笑顔で、ジャッキーに頬ずりをしている。
「・・・・・・」
それを、羨ましそうに、石垣は眺めていた。
「・・・俺も、ペットを飼おうかな・・・」
あんな風に、無償の愛情を注いでくれるペットに憧れる。
いつも伝助が一緒だが、伝助は常に上から目線で石垣に接し、あんな風に懐いてくれない。
自分を無視して側を通り過ぎ、桐生の所へ尻尾を振りながら、頭を撫でてもらいに行っている伝助を見ていると、そう思う。
「皆、お疲れ様。頑張ったね!」
桐生の所に、ぞろぞろと連れ立って、活躍したアニマルレンジャーの面々が、ナデナデ要求をしに集まっている。
「あれ?」
桐生が、周囲をキョロキョロしている。
「どうしたんですか?」
「テッちゃんは?」
「えっ?」
そう聞かれて、石垣も周囲を見回す。
哲は・・・どこにもいない・・・
「・・・まさか・・・」
「・・・石垣君・・・」
桐生が、低い声で石垣の名を呼ぶ。
「すみません!すみません!すぐ、連れ戻してきます!!!」
桐生の怒気が、黒い影のように膨れ上がり、その影が、八つの鎌首を擡げる巨大な大蛇に変化する。
そんな幻覚が視えた。
全身の血が一瞬で凍り付くような恐怖を感じた石垣は、先ほど降りたばかりのUHー60JAに、マッハで、すっ飛んでいく。
「ぼ・・・僕も行きます!!」
関係ないはずの、伊花も何故か、尻に火が着いたように、石垣の後を追って行く。
石垣たちを乗せたUHー60JAは、飛行甲板から飛び立ち、帰って来たルートを戻って行く。
「「「・・・・・・」」」
それを、見送る女性陣たち。
「あんた達。哲がヘリに搭乗していなかったのに、気付かなかったの?」
小松が、伝助に聞いている。
「クゥゥ~」
「えっ?知っていたけど、知らない振りをしたって?何で、そんな意地悪をしたの?」
「クゥゥゥ~」
「・・・いつも威張って、命令するから?そりゃあ、リーダーなんだから当然でしょう?」
「クゥゥ、クゥゥ・・・」
「・・・いつも僕の、ご飯を横取りする?まあ、それは腹が立つよね。食べ物の恨みは怖いから・・・」
伝助と会話している?小松の言葉から、だいたい何故、こうなったかが、判ったが・・・
「やっぱり、これって教育者の教育に、問題ありですよねぇ~」
小松が、ジトーとした目で桐生を見る。
夕陽に染まる、臨時に設置されたヘリポート・・・
ポツーンといった感じで、佇む茶トラの猫。
「ニャー・・・(置いて、行かれた・・・)」
「ん?あの猫は?」
ちょう度、そこに通りかかったのは、第1空挺団第3普通科大隊レンジャー小隊の隊員たちだった。
「どうした、どうした?置いて行かれたのか?」
隊員の1人が、哲に話し掛ける。
「ニャー(そうみたい)」
「そうかそうか、薄情な飼い主もいるもんだ。お前、何ならウチの小隊のペットにならないか?」
隊員たちが、グルッと哲を取り囲んで、話し掛ける。
「ニャー・・・(どうしようかな・・・)」
「ウチに来たら、毎日、美味い物を食わせてやるぞ」
「ニャー!(本マグロの大トロの刺身を、所望する!)」
「そうかそうか、高級キャットフードが、食べたいか」
「ニャー!(違ーう!)」
「よしよし。小隊長の給料で、買ってもらおう」
「何でだ!?ここは、皆で割り勘だろう?」
「小隊長~ここは、隊を率いる者としての、男気を見せる所では?」
「何だ、その謎理論は!?」
哲の周囲に群がって、レンジャー小隊の面々は、ワイワイとやっている。
ローター音が響き、風が巻き上がる。
「哲!!!」
ヘリが着陸するかしないかの状態で、石垣が飛び出して来た。
「おっ?薄情者の飼い主が、来たぞ」
レンジャー小隊の冷たい視線を浴びながら、石垣は哲の前に走り寄って来る。
「石垣1尉。申し訳ないが、この猫は、たった今から俺たちのペットになった」
「そんなぁ~!!困ります!!」
レンジャー小隊の小隊長の宣言に、石垣は叫ぶ。
もしも、哲を連れ帰れなかったら・・・
そう考えたら、身の毛がよだつ。
「ニャー」
哲が、石垣に話し掛ける。
「はい。今夜の夕食は、大トロの刺身ですね!わかりました!」
「ニャー」
「はい。これから毎日、夕食は大トロの刺身を用意します!だから、お願いですから戻って来て下さい!!」
「ニャー」
まるで、「わかった。約束を忘れるなよ」とでも言うように、ふんぞり返って偉そうにしながら、哲は石垣を置いて、トコトコとヘリに向かって歩いて行く。
「それじゃあ、お騒がせしました。失礼します」
哲の後を、大急ぎで追いかける石垣の姿は、下僕の様に見えなくもない。
「お~い。嫌になったら、いつでも来いよ~!!」
「ニャー」
声をかける、レンジャー小隊の隊員に、哲は、「わかった」と、返事をして、ヘリに乗り込んだのだった。
一応、騒動は一件落着したかに見えたが・・・
翌月、石垣は自分の給料明細を見て、絶叫する事になる。
哲を迎えに行った際に掛かった燃料費が、しっかりと天引きされていたのだった。
ちなみに、一緒に同行した伊花も同様であった。
「ヘリの燃料費だって、バカにならないんだから、当然でしょ!」
涼しい顔で語る、氷室であった。
大戦の予兆 第8.5章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は4月3日を予定しています。