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大戦の予兆 第7章 リムパック 2 やる気の無い隊司令

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 先週は、個人的にではありますが、とても大変な週になりました。

 新世界連合軍総司令部直轄部隊日本統合任務部隊派遣艦艇隊は、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊第1空母打撃群を中核とした、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍東海艦隊派遣艦隊、朱蒙軍海軍、菊水総隊海上自衛隊、枢軸国海軍、連合軍海軍の艦艇と共に、ハワイ沖を航行していた。


 日本統合任務部隊派遣艦艇隊の編成は、[かいよう]型多目的護衛艦2番艦[こうよう]を基幹として、[まや]型イージス護衛艦[まや]、[あさひ]型汎用護衛艦[あきぐも]、[もがみ]型多機能護衛艦[すずや]、[たいげい]型潜水艦[こくげい]の計5隻である。


 派遣艦艇隊司令は、氷室匡人1等海佐である。


「司令。コーヒーをお持ちしました」


「ありがとう」


 司令席に腰掛けた氷室は、海士が淹れたコーヒーを受け取った。


「砂糖とミルクは、僕の注文通りに入れてくれた?」


「もちろんです。司令」


「そう、それならいいけど・・・」


 氷室は、コーヒーを啜る。


「うん。いい味だ」


「司令。そろそろ、艦隊放送をしませんと・・・」


 首席幕僚の(みなと)(こう)(すけ)2等海佐が、告げる。


 首席幕僚ではあるが、童顔の顔立ちが特徴的な男で、30代前半で2等海佐に昇進した英才である。


 性格は、氷室に負けず劣らずの、いい加減な人物であり、氷室と同じく、学生時代はサボりの常習犯だった。


 いつも好きなアニメやファンタジー要素のある小説や漫画を読み、学校のテストも真面目に受けた事が無い。


 しかし、中学入試、高校入試、大学入試は、超が付く一流私立学校や公立学校を、トップで合格した英才である。


 そのため、彼の経歴を知った防衛大学、幹部候補生学校の教官から、氷室2号と呼ばれている。


「えぇ~面倒臭いなぁ~君がしてよ~」


「その、お気持ちは理解出来ますが、無理です!」


「へいへい・・・」


 氷室は、通信マイクを受け取る。


「あ~あ~・・・皆さん。聞こえていますか?隊司令の氷室で~す。面倒臭いから簡単にすますけど、今回の演習は、親睦を深めるために行われる親善演習だからね。あまり気を張らず、気楽にやるように、本気でやるなんて考えないでね。馬鹿馬鹿しいから、疲れたら寝るという態度で全然いいよ~以上」


 氷室は、そう言うと、通信マイクを切った。


「艦長。F-35Bの発艦準備をしてね~それが、出来たら、上陸部隊の準備ね~・・・よろしく~」


「了解」


[こうよう]の艦長である、妻夫(つまぶ)()(ただし)1等海佐が、頷く。


「司令、首席()幕僚()。何度も言うようですが、演習の時ぐらいは真面目に務めてください。他の部隊に、示しがつきませんから・・・」


「へいへい」


「は~い」


 2人の問題児は、やる気のない返事をするのであった。


 多目的護衛艦[こうよう]は、[かいよう]型多目的護衛艦であるため、航空機搭載護衛艦と多機能輸送艦を合わせた自衛艦である。


 航空機は、固定翼機及び回転翼機を合わせて30機を搭載可能な、航空機搭載護衛艦である。


 陸海空自衛隊の航空部隊を[こうよう]に乗艦させているため、各機の搭載数は多くは無いが、それなりに運用出来るように、設計されている。


[こうよう]には、550人の陸上自衛隊の中隊戦闘群と、海上自衛隊の乗組員、航空自衛隊のヘリのパイロットや、F-35Bのパイロットと整備員たちが、乗艦している。


 艦長は、ヘッドセットに告げた。


「飛行長。F-35B及び陸自ヘリ部隊の出動準備」





 イージス護衛艦[まや]のCICで、艦長席に座る長谷部(はせべ)朱音(あかね)1等海佐は、司令の不真面目極まりない演説に、苦笑を浮かべた。


「やる気の無い演説ね」


「まったくです・・・」


 長谷部は、先の大戦時は呉地方隊の護衛隊に所属する、護衛艦の艦長であった。


 主に、南東諸島の攻防戦時に、船団護衛や沿海警備等の後方支援を行っていたため、実戦経験は無い。


「司令が、あれでも英才というのは、私には信じがたいのですが・・・」


「まあ・・・普段の、やる気の無い行動を見ていたら、そう思うのは仕方の無い事ね。でも、やる時は、やる男よ。第1護衛隊司令の神薙1佐や、統合防衛総監部海上総監部幕僚長の村主海将補が、一目を置く人物なのだから・・・」


「艦長は、司令の実力を、見た事があるのですか?」


「ええ。元の時代での日米合同演習の時、彼は汎用護衛艦の航海長だったの。その時、空と海上、海中からの三次元攻撃に対し、見事な航海指揮によって、すべての攻撃を回避したわ」


「あの司令が・・・?」


「まあ、あのような演説を聞いたら、やる気の無い不真面目な司令だと、思うのは当然の事ね」


 彼女の言葉に、副長である丸山和(まるやまかず)()2等海佐は、納得出来ないという表情をした。


「ですが、艦長。そこまでの実力者であるのなら、何故、あのように不真面目な行動をするのですか・・・?」


「簡単よ。今が、平和な時代であるから・・・」


「平和な時代ですか・・・」


 副長が言い終えると、対空レーダー員が叫んだ。


「対空レーダー!目標を探知!攻撃機6機が急速接近中!」


「艦長」


「みんな、いいわね?」


「「「はい、準備OKです!」」」


「対空戦闘用意!」


「対空戦闘用意!」


 砲雷長が、ヘッドセットのマイクに叫ぶ。


[まや]の艦内に、対空戦闘を知らせる警報アラームが鳴る。


「敵機!ミサイルを発射!数5発!」


「対空戦闘!SM-2発射準備!」


「前部VLS開放!SM-2発射準備!」


「目標諸元入力!」


「目標諸元入力完了!」


「SM-2発射準備完了!」


「SM-2発射!」


「発射!!」


 CIC要員たちが、必要な処置を行った。


 発射担当の士官が、発射ボタンを叩く。


 実際には発射されていないが、スクリーン上では、SM-2が発射された事になった。


 今回のリムパック演習では、デジタル艦とアナログ艦による合同演習であるため、それぞれの演習内容が用意されている。


 デジタル艦では、コンピューター上の仮想シミュレーションで演習を行い、アナログ艦は、実際に標的等を用意し、実弾射撃を行い各国と競い合うようになっている。


 それとは別に、各国海軍と連携するために艦隊行動や戦闘配置訓練等を行い、各国海軍との歩調を合わせる動作を行う。


 参加国や艦艇数も多いため、各国との連携をとるのはかなり難しい事ではあるが、それなりに各国海軍の士官、下士官、水兵たちは奮戦し、なんとか各国海軍の足手纏いにならないように奮励努力している。


「[こうよう]より、F-35Bの発艦を確認!」


「防空戦は、頼むわよ」




「イーグル1。発艦!」


 高居が、そう叫ぶと、エンジン出力を全開にした。


[こうよう]から、F-35B[ライトニングⅡ]が発艦した。


 高居機が発艦すると、ウィングマン兼サポート役を務める伊倉名波2等空尉が乗るF-35Bが発艦位置に着く。


「イーグル2。発艦!」


 伊倉機が発艦すると、続いて3番機、4番機が発艦する。


「敵機を確認!機数は4機だ。落ち着いて、空中戦をやれ」


 高居は兵装システムを選択し、AIM-120を選んだ。


「各機!アムラーム・ミサイルを選択!」


「イーグル2。準備完了」


「イーグル3。準備完了」


「イーグル4。準備完了」


 全機からアムラーム・ミサイルの発射準備が完了した事を聞くと、高居はアムラーム・ミサイルの発射ボタンに指を置く。


「行くぞ。FOX3!」


 高居は、発射ボタンを押した。


 しかし、どの機からもアムラーム・ミサイルは発射されないのである。


 あくまでも、シミュレーション上で発射されたのである。


 だが、アムラーム・ミサイルは1発も命中しなかった。


「さすがに、レベルは高いな」


 今回の敵役として配置についているのは、連合支援軍インド海軍ウッルー・コマンドに属する空母戦闘群である。


 敵機役は、インド海軍航空隊のMiG-29Kである。


 彼らも南太平洋での激戦を経験しており、オーストラリア軍やニュージーランド軍とも戦闘を行った経験がある。


 インド洋で、大連艦隊がハワイに転進した時は、その穴埋めのためにインド洋に展開した事もある。


 その時は、イギリス軍やドイツ第3帝国軍とも戦った。


「全機!敵機は、俺たちを把握できていない。このまま格闘戦に移行するぞ!続け!」


 高居の叫び声に、各機から、『ラジャ』という声が、ヘルメット内蔵式の通信機に届いた。


 F-35Bは、ステルス戦闘機であるため、レーダーで探知されにくい。


 MiG-29Kも近代化改修が行われており、レーダー等の電子機器も最新型を搭載しているのだが、第5世代ジェット戦闘機であるF-35Bをレーダーで捕らえる事は不可能であろう。


 高居は、兵装システムからAIM-9X[サイドワインダー]を選択した。


 だが、視認可能圏内での空中戦を行うため、いくらステルス戦闘機と言っても、普通の戦闘機と変わらない空中戦である。


「目標!視認!」


 敵機役のMiG-29Kもこちらを視認したのか、編隊飛行を解いて、散開した。


 高居機は、そのまま捕らえたMiG-29Kの後ろをとり、HMDを起動し、MiG-29Kを捕らえた。


「FOX2!」


 サイドワインダー・ミサイルを発射した(実際には発射されていない)。


 シミュレーション上、サイドワインダー・ミサイルが、MiG-29Kに命中したと認定された。


「スプラッシュ!」


 高居が叫んだ。


「スプラッシュ!」


 伊倉の声が響く。


(うん。あいつも操縦技術だけでは無く、戦闘技術も十分に持つようになった)


 初めて会った時は、伊倉もF-15J改を飛行させるのがやっと、という状況だった。


 しかし、度重なる実戦と高居の熱意ある指導により、F-15J改を満足に飛行させる事が出来るだけでは無く、アグレッサー役のF-15DJ改を撃墜出来る腕前になった。


 教え子の腕が上がるのは教師として、これ程、嬉しい事は無い。


 今はF-35Bを操縦しているが、まったく問題無く、伊倉は操縦出来ている。


 それどころか、元からF-35のパイロットだった者と互角以上の空中戦を行う事が出来る。





[こうよう]の飛行甲板上。


「総員整列!」


 伊花小隊に所属する、陸上自衛隊普通科隊員たちが整列する。


「小隊長。総員整列に異常なし!」


 小隊陸曹の的場(まとば)唯人(ゆいと)陸曹長が報告する。


「編成されてから、最初の任務が与えられた。僕たちの任務は、石垣1尉以下、彼らのチームを護衛し、最初に派遣される先遣小隊である。僕にとって、小隊指揮は療養生活以降初となる。君たちにとっては頼りない指揮官だと思うけど、全力を尽くすよ!」


 伊花は、訓示を行った。


 彼が率いる小隊は、石垣チームの護衛小隊兼先遣小隊であるため、他とは異なる編成が行われている。


 伊花小隊第1班は石田和(いしだと)(もき)1等陸曹を班長として、レンジャー資格所持者のみで編成されたレンジャー班である。


 他の班とも格が違う、精鋭班である。


 それを見た目だけでわかるように、彼らの装備する自動小銃は、破軍集団陸上自衛隊のみに配備されている、20式5.56ミリ小銃を装備している。


 拳銃も、新9ミリ拳銃であるSFP9を、装備している。


 石田1曹は、40代前ではあるが、陸上自衛隊の特殊部隊である特殊作戦群に所属していた猛者であり、アメリカ陸軍特殊戦コマンド第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊の訓練にも参加しているだけでは無く、イギリス陸軍の特殊部隊である特殊空挺部隊(SAS)にも出向いた経験がある陸上自衛隊では数少ない猛者中の猛者隊員である。


 彼は、第1班長だけでは無く、指導陸曹も兼任している。


 2班と3班は、普通の普通科隊員であり、レンジャー資格者を持っている者もいれば、持っていない者もいる。


 2班、3班を合わせても、レンジャー資格者の割合は、全体の1割だ。


 これに加えて、狙撃班(6名)が組み込まれており、深部偵察や敵の指揮官の暗殺等の任務を遂行する。


 今回は参加しないが、伊花小隊には、16式機動戦闘車が1輌配置されており、車輌で移動する場合は、伊花小隊は、96式装輪装甲車(Ⅱ型)1輌(主にレンジャー班である1班が使用)、軽装甲機動車(海外派遣仕様)2輌(2班が使用)、高機動車(国際任務仕様)2輌(3班が使用するのと伊花以下指揮官たちが使用する指揮車)、弾薬や食糧を満載する1トン半トラック1輌、燃料を満載した給油トラックが1輌という編成である。


 通常、普通科部隊が運用する車両は、中隊管理下であるが、伊花小隊が運用する車両は、小隊管理下になっている。


 これだけでは無く、衛生班等も組み込まれるため、伊花小隊は、実質50名ぐらいの編成である。


 因みに2班長は、須田(すだ)正樹(まさき)2等陸曹と、3班長は郷田(ごうだ)賢治(けんじ)2等陸曹である。


 どちらも、レンジャー資格者である。


「任務と言っても、今回はただの演習だから、怪我をしないように気をつけながら、小隊間の連携を確認するのと、石垣チームの連携等を確認する事が主な目標だ。敵役はソ連軍の北海道侵攻時に活躍した、第1空挺団第3普通科大隊だ。練度等は君たちも知っての通り、とても高い。中にも、第1空挺団に所属していた者もいるだろうけど、古巣だからと言って、手加減しないように、今は、この隊が君たちの居場所だ」


 伊花が言い終えると、背後から拍手の音が響いた。


「久し振りの小隊指揮だから、どうなる事かと思ったけど、それなりに出来るわね」


 伊花の直接の上官である、一条(いちじょう)(はるか)1等陸尉だ。


「は・・・はい」


 緊張した表情で、伊花は上官に答える。


「うんうん。さっきの隊司令の演説を聞いていたと思うけれど、第1空挺団の胸を借りるという気楽な気持ちで、良いからね」


「は・・・はあ・・・」


 本当に、それで良いのか?


 そんな疑問が、浮かぶ。


 第1空挺団は、先の大戦でも大活躍した、熟練の自衛官が多数配属されている。


 胸を借りるなんて、気楽な気持ちで演習に臨むのは、失礼な気がするのだが・・・


 ちょっと、複雑な表情の伊花に、一条は、笑いかけた。


「ある意味、今回はドッキリ演習の色合いが強いからね。手練れの第1空挺団でも、絶対に、手を焼く演習内容を特別に用意しているの」


「あの・・・それって、いったい・・・?」


 ドッキリ演習とは、菊水総隊自衛隊にとっては、かなり恐怖されている演習である。


 いったい、どんな隠し技を仕掛けられるのか、極一部の幹部自衛官にしか知らされていない演習である。


「フフフフ・・・ナイショ」


 意味深な笑みを、一条は浮かべる。


「今回は、隠し玉として、日本統合任務隊陽炎団警察の特殊部隊が参加するから楽しみにしていて」


「は・・・はあ」


 多分、これ以上は、教えてもらえそうにない。

 大戦の予兆 第7章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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