大戦の予兆 第6章 リムパック 1 それぞれの陣営
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
春の暖かさを深く感じている時に、軽い春バテ(春風邪)を起こしました。
丸1日寝込みました。
はぁ~春になるといつもこんな不調になります。
みなさんも健康には、注意してください。偶には、休む時は休むのが良いと思います。
ハワイ連邦共和国オアフ州パールハーバー・ヒッカム統合基地(ニューワールド連合軍施設)のパールハーバー軍港では、忙しい朝を迎えていた。
軍港に停泊している軍艦には、様々な国の国旗が掲げられていた。
ニューワールド連合軍の旗はもちろんの事、日本国旗、韓国旗、大日本帝国旗、アメリカ国旗、イギリス国旗、ドイツ国旗、イタリア国旗等である。
それだけでは無く、サヴァイヴァーニィ同盟軍の旗が掲げられている軍艦も、停泊している。
何故、これだけの戦闘艦が停泊しているかと言うと、今回、太平洋で行われる大規模な合同演習に参加するためだ。
それは環太平洋合同演習である。
リムパックとは、1971年に初めてアメリカが中心となって開催された、参加国間の共同海上軍事作戦の向上のために行われる合同演習だ。
参加国は、アメリカ合衆国の同盟国に限定されている訳では無い。
当初は同盟国の英語圏国家海軍が参加していたが、1980年から日本国海上自衛隊も参加するようになった。
非英語圏からの参加は、初めてのものであり、日本国国会や国民の世論でも、憲法第9条で禁止されている集団的自衛権を前提とした合同演習に参加する事は、憲法違反だと主張する政党や団体もあったが、当時の与党は、リムパックの目的は集団的自衛権を前提とした演習だけでは無く、日本と同じ立場にある海洋国家同士での親善交流が、一番の目的であると主張した。
確かに、リムパックは、海洋国家同士の集団的自衛権を前提とした合同演習であったが、実際はそれだけでは無い。
各海洋国家海軍の親善交流と各海洋国家海軍の戦術を勉強するためにも、必要なものであった。
実際、主催したアメリカ合衆国海軍も、第2次世界大戦以降、海軍同士による大規模な海戦を行っていない。
そのため、海軍の練度が恐ろしく低下したため、練度向上のために大規模な演習を開催する必要があった。
当時、アメリカ海軍が合同演習を行う場合、日本国海上自衛隊かイギリス海軍等の同盟国だけであった。
1対1でも、学べるものは学べるのだが、限定的な練度向上にしかならなかった。
そこで、アメリカ海軍は自分たちだけでは無く同盟国海軍も練度向上させるために大規模な合同演習を開催する事に決めた。
この当時、各同盟国の海軍でも練度低下は、大問題であり、戦争の主体は地上戦か航空戦がメインであったため、海戦は限定的なものであった。
当時は冷戦の真っただ中であったため、アメリカの最大の仮想敵国であったソビエト連邦海軍では、太平洋の覇権と大西洋の覇権を握ろうと、大規模な艦隊造船計画が行われていた。
もしも、米ソが全面衝突すれば、海軍同士による大規模な海戦が行われると、予想されていた。
大規模な海戦が実施されれば、練度が低下しているアメリカ海軍や同盟国海軍では、太刀打ちが出来ず、完全敗退する事が予想された。
そうなれば、ソ連海軍に太平洋の覇権と、大西洋の覇権の両方を、奪われる可能性が高かった。
それを避けるために、リムパックが開催されたという経緯がある。
しかし、冷戦の終結後、ソ連海軍の脅威も無くなったが、リムパックは継続して行われる事になった。
各海洋国家の親善交流が目的となり、各国間の協調性の向上が主目的になったからだ。
実際のところ、仮想敵国と認定している国同士が、リムパックで顔を合わせて、親善交流を行うのは、珍しい話では無い。
「本日、リムパックに参加するために、世界の海軍が、集結しています」
日本共和区に本社を置くリポーターが、カメラを構えるカメラマンに向かって話しかけた。
「世界最大規模で実施される大合同演習は、各国間の協調性と親善交流のために行われる演習です」
リポーターが説明を終えると、日本共和区の本社にいるキャスターから、質問がされた。
『この度のリムパックでは、どのくらいの規模の艦隊が、集結しているのですか?』
衛星通信では無いため、スタジオと現場との間の会話には、どうしても時差が生まれる。
「はい、今回のリムパックに参加するのは、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊第1空母打撃群を基幹として、空母5隻が参加しています。今回のリムパックは、この世界では初の開催であるため、艦隊総軍司令官が直接指揮を行う予定です。そのため、艦隊総軍司令官座乗艦である原子力空母も、参加します。そのために空母が5隻という大規模なものになりました」
『わかりました。今回のリムパックでは、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍東海攻略艦隊も、参加するそうですが?艦艇は見えますか?』
「はい、私の後ろに投錨しているのが、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍東海攻略艦隊旗艦の、[スラヴァ]級ミサイル巡洋艦[コーズィリ]です」
『私は軍艦について、あまり詳しく無いのですが、[スラヴァ]級ミサイル巡洋艦とは、どのような軍艦なのでしょうか?』
キャスターの質問に、リポーターが説明を始めた。
「はい、[スラヴァ]級ミサイル巡洋艦は、全長186メートル、最大幅20.8メートル、吃水8.4メートル、主機はガスタービンエンジンです。基準排水量9300トン、満載排水量1万1300トンです。この規模の巡洋艦に匹敵する海上自衛隊の護衛艦は、存在しません。[あかぎ]型イージス護衛艦、[まや]型イージス護衛艦は基準排水量8200トンですから、1000トン以上の差があります」
何故、[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦や[ひゅうが]型ヘリコプター護衛艦を、比較対象として出さなかったかと言うと、同艦は、護衛艦というよりは空母に相当する護衛艦であるためであった。
すでに、[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦は、固定翼航空機の運用も可能であるため、ヘリ空母というよりは、航空機搭載護衛艦と表現するのが正しいだろう。
「武装は、旧ソ連海軍の大型水上艦と同じく、主兵装は長射程の対潜ミサイル、中射程の対潜ロケット、短射程の対潜魚雷が装備されているだけでは無く、射程700キロメートルあると言われている艦対艦ミサイルP-1000[バザーリト]が収容されており、前部甲板の上部構造物の両脇に各舷4基ずつ最大16発のP-1000を装備できます。しかし、対潜ミサイルも装備しなければならないため、実際に装備出来るのは、8発が限界でしょう。一方の防空能力ですがS-300F[フォールト]が装備されています。これは艦隊防空ミサイルであるため、艦隊防空も可能という事です」
『わかりました。それでは、[スラヴァ]級ミサイル巡洋艦だけで、かなりの戦力になるのですね。確か、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍西海攻略艦隊には、[キーロフ]級原子力ミサイル巡洋艦がありますよね。それと比べると、コンパクトですね』
「はい、その通りです」
サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍東海攻略艦隊司令官のアフクセンチエヴナ・カワセ・ヴァイマン中将は、司令官公室で、参謀たちと朝食をとっていた。
朝食のメニューは、パンとスープに加えて、ソーセージとグリーンピースであった。
「提督。日本人に本艦の取材を許可したそうですが、本当によろしいのですか?」
「なあに、我が艦隊の勇姿を、そのまま伝えてもらう・・・」
ソーセージをフォークで突き刺しながら、ヴァイマンが答える。
カワセという姓から察するに、ヴァイマンは、日本人の血を引くロシア人である。
曾祖母が日本人であったため、日本人の血はかなり薄いが、顔立ちは日本人に近い。
そのため、同年代の将軍や提督と比べて、実年齢よりも、若く見られがちである。
サヴァイヴァーニィ同盟軍内では、ロシア人の将軍や提督は、実年齢と同じか、老けて見えるが、中国人の将軍や提督は、実年齢よりも外見が若く見られがちである。
「我が艦隊は、西海攻略艦隊や南海攻略艦隊と違い。初陣が、まだである。本来であれば、我々の任務であった、アリューシャン列島での戦いを、南海攻略艦隊が担当した。我々の管区で、大暴れしたのだ。これは由々しき事態である」
「ですから、我々が、このリムパックに参加したのではありませんか?このリムパックで、それなりの成績を残せば、他の2艦隊と同列に並ぶでしょう」
「リムパックは、競争のために使う物では無い。親善交流と戦術を学ぶためだ。なにせ、ニューワールド連合軍にせよ、日本国自衛隊にせよ、韓国軍にせよ、第2次世界大戦を経験した猛者揃いだ。我々は、彼らから学ばなければならない。次の戦争のために・・・な」
「次の戦争?それは、近い将来発生すると予想される、第3次世界大戦ですか?」
「それは、不吉な予想だな。ニューワールド連合軍とサヴァイヴァーニィ同盟軍が全面衝突すれば、共に滅ぶ事になる。世界もろともな。私が予想するのは、小さい戦争・・・そうだな、紛争のようなものだ」
ニューワールド連合も、サヴァイヴァーニィ同盟の文民たちも、両勢力が全面戦争に突入する事は避けたいと考えている。
そのため、双方は外交政策により、戦争回避の道を探している。
そのため、文民、軍人を問わず双方で主催される親善交流の席には、どちらもが積極的に参加している。
日本国海上自衛隊が、ニューワールド連合軍連合海軍や、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍の軍人たちの親善交流のために、特務艇[はしだて]で、パーティーを主催した事は、記憶に新しい。
この時、ヴァイマンも出席しており、海上自衛隊の高官や、ニューワールド連合軍連合海軍の高官と、交流を深めた。
その時に感じたのは、自分たちもそうだが、相手側も戦争を回避する策を、模索している状況だという事だ。
自分たちの歴史のように、戦争では無いが、冷戦状態になるのも回避したいものだ。
しかし、実情、冷戦状態ではあるが・・・
ヴァイマンは、スープを上品にスプーンで飲んだ。
「我々の知る歴史の世界とは、だいぶ変わった世界になりましたが、冷戦とは言えない冷戦状態が続いています。このまま順調に外交交渉を続けていけば、第3次世界大戦もですが、冷戦状態もいずれは解消出来るでしょうね」
若い参謀が、やや、楽観的な意見を言う。
年齢的に見て、彼はソビエト連邦が崩壊した後に産まれただろう。
その前後の混乱を、自分の目で見ていない世代では、それを知っている世代との考え方に、若干の乖離があるのは、致し方ないかもしれない。
ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍司令官座乗艦の[ロナルド・レーガン]級原子力航空母艦([ニミッツ]級原子力航空母艦)11番艦[フォレスタル]の司令官室で、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍司令官であるアーサー・スタンプ・ケッツアーヘル大将は、副官の大佐から提出された、リムパックに参加する艦艇の資料に。目を通していた。
ニューワールド連合軍連合海軍及び連合支援軍海軍から派遣されている空母は、この原子力空母[フォレスタル]を含めれば、全部で5隻である。
ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊第1空母打撃群、第2艦隊第3空母戦闘群が参加する。
連合支援軍海軍に属する大連艦隊と、インド海軍の空母戦闘群が参加する。
朱蒙軍海軍第4機動戦団が、参加する。
「ふむ・・・」
「提督。コーヒーを、お持ちしました」
従卒の水兵が、トレイに乗せたコーヒーとサンドイッチを持って、司令官室に入室した。
「ああ。そこに、置いといておくれ・・・」
「サー。提督」
従卒の水兵は、言われた通り、コーヒーとサンドイッチを、執務机に置いた。
「提督」
従卒の水兵は、恐る恐ると声をかけた。
「どうした。何か意見があるのか?意見なら、遠慮せず発言してくれ」
「サー、わかりました。提督、少し休憩をとってはいかがですか?」
「疲れている顔をしているか?やはり、歳かな・・・」
ケッツアーヘルが、茶化すように言った。
「いえ、そういう訳ではありません。提督は、このリムパックが開催されてから、あまりお休みになっていません。過度の勤務は身体を壊します。それだけでは無く、将兵たちもおちおちと休む事が出来ません。ここは少し、休憩をなさってはいかがでしょうか?」
「今回のリムパックは、この世界、この時代で、初の開催になる。それにサヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍が、親善交流と各国間の協調性を高めるために、参加してくれている。完璧にする事は出来ないが、それなりに成功させる必要がある。おちおちと休んでいる訳にはいかない」
とは言っているが、ケッツアーヘルも時々、息抜きをしている。
確かに、今回のリムパックは、ニューワールド連合軍連合海軍、朱蒙軍、日本国海上自衛隊だけでは無く、連合国、枢軸国、さらにサヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍までが参加する事になった。
さらに、初の開催となれば、ニューワールド連合軍連合海軍に属するアメリカ海軍として、絶対に失敗出来ない、重要なリムパックになる。
元の時代では、数々のリムパックに主催者として参加していたケッツアーヘルであったから、それなりの経験がある。
元の時代でも、仮想敵国の中国海軍や、ロシア海軍等も参加したリムパックの経験があるが、この経験をもってしても、今回のリムパックは、緊張する。
さらに、今回はデジタル兵器を取り揃えているニューワールド連合軍連合海軍、朱蒙軍海軍、日本国海上自衛隊だけでは無く、アナログ兵器を取り揃えている連合国や枢軸国までもが参加する。
安全に合同演習を終わらせるようにするためには、様々な下準備がいる。
おちおち休んでいる訳にはいかないのだ。
「だが、貴官の言い分ももっともだ。少し休憩をとる事にしよう」
ケッツアーヘルが、資料を執務机の上に置いた。
大戦の予兆 第6章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は3月13日を予定しています。