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大戦の予兆 第4章 新天地へ レイモンドの場合 中編 思いがけない出会い

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 最近、寒い日が続いていますね。私は、あまりの寒さに、布団からなかなか抜けられない日々を送っています。みなさんは、体調を崩していませんか?早く暖かくなると良いですね。

 1944年(昭和19年)2月。





 マリアナ諸島グアムに本拠地を置く、ニューワールド連合軍総司令部に、連合国アメリカ軍連絡将校として赴任した、レイモンド・アーナック・ラッセル中佐は、赴任に際して必要な事務的手続きを、着任早々に終わらせた。


 もっともレイモンドに、そんな卓越した事務的処理能力がある訳が無く、その手続きを、自分に付けられた副官に、丸投げしただけではあったが・・・


「よし!終わった!終わった!」


 まるで自分1人で、すべてをやり切ったような、爽快感を勝手に感じつつ、レイモンドは、グアムに着いたら、最初にやりたかった事を実行すべく、行動を開始した。





 ニューワールド連合の施設内にある、連合司法局管轄の刑務所内の刑務所長室に、特別待遇で通されたレイモンドは、難しい表情を浮かべている刑務所長直々に、分厚い書類を渡された。


「服役中の囚人との面会に付いては、当然、手続きを踏んでいただければ、許可出来ます。その書類すべてに目を通していただいた上で、直筆のサインをいただき、その上で、上部組織である、連合裁判所の審査に通って、初めて面会の許可が下りる事になります」


「・・・・・・」


 刑務所長の、長い長い説明を、簡単に要約すれば、そういった意味になる事を告げられた。


 ただし、無駄に長い説明をレイモンドは、右の耳から入れて、左の耳から流していたが・・・


「・・・家族等の血縁関係者であれば、もう少し審査は簡略化出来るのですが、ご友人という関係では、そうも、出来ないのです」


「・・・審査には、どのくらい時間がかかりますか?1週間くらい?」


「いえ、1ヵ月は見ていただかないと・・・」


「ええぇ~!?」


 いくら何でも、何故、面会の許可を取るだけで、そんなに時間がかかるのか、非常に納得出来ない。


「弁護士を介しての許可申請なら、もう少し、時間を短縮出来ますか?」


 納得出来ないので、当然、レイモンドは食い下がる。


「無理です」


「何故?」


 こんな押し問答を、30分以上続けている。


「パールハーバー海軍基地内の拘置所では、もっと簡単に許可申請が、通りましたが・・・?」


「それは、日本の司法局の管轄の拘置所だったからです。ですから、日本の法に準拠した対応が適応されたというだけの事です。こちらには、こちらの法があります。貴方の個人的な気持ちは理解出来ますが、規則には従っていただきます。それに・・・」


 刑務所長は、応接セットのテーブル越しに、レイモンドに、ズイッと顔を近付ける。


「貴方・・・あの時、ズルをしましたね・・・日本共和区統合省司法局外局の検察局、検事総長直々に圧力を掛けさせて、無理やり拘置所に面会の許可をさせたでしょう・・・」


「え・・・いや・・・その・・・」


 低い声で凄まれて、レイモンドは、タジタジとなる。


 あの時、検事総長に、可愛く?お願いをしていたのは、カズマ・キリュウの血縁にあたる女性だったのだが・・・その裏が、そんなに凄い事になっていたとは・・・


 その女性に、無理を承知でキリュウとの面会を頼み込んだのは、レイモンド自身であるから、確かに、そう言われても反論が出来ないのは事実ではある。


「まあ、それは置いておくとして・・・今回は、ちゃんと正式に手続きを踏んで下さい。面会許可の申請に付いては、もし今回、審査を通らなくても、何度でも申請は可能ですので・・・ああ、くれぐれも書類には、すべてに目を通して下さいよ。記入漏れがあったりしたら、再度の提出を要請する事になりますから」


 ズルは認めないと、にこやかな表情で告げる、刑務所長が鬼に見えたのは、言うまでもない。


 と・・・こんな感じで、丁重に追い返されてしまったのだった・・・





「はあぁぁぁ~・・・」


 書類の束を抱えた状態で、レイモンドは、ため息を付いた。


 こんなに面倒な手続きが必要とは、思わなかった。


 そう言えば・・・手紙も、なかなかカズマから届かなかったから、検閲のようなものをされていたのだろうなと、今になって思う。


「・・・面倒だなぁ~・・・」


 そうつぶやいて、自分に同行してくれた、一般事務を担当してくれている、副官の中尉に視線を送る。


「これは、自分の職務外ですので。中佐ご自身で、なさるべきかと・・・直筆のサインが必要と、言われたでしょう?」


「僕は、まだ何も言っていないけど?」


「何も言っていませんが、頭の中で思ったでしょう?お断りします」


 一瞬、頭に浮かんだ考えを、読まれたのか。


 即座に断りを、副官が入れてきた。


「・・・だよねぇ~・・・」


 仕方が無い。


 帰って、書類と格闘すると考えるだけでも、気持ちが萎えてくる。


(・・・ここで、ヒムロ大佐とか、キリュウさんなんかに、パッタリと出くわすとか・・・無いよね・・・)


 綺麗に整備されたストリートの歩道を歩きつつ、そんな事が、ふと頭を過る。


 そんな都合の良い事が、起きる訳が無いのだが・・・


 そもそも、あの時はレイモンドにとって、あずかり知らぬ状況だったとはいえ、相当に幸運だったのだが。


「はぁ~・・・何だか、小腹が空いたなぁ~・・・何か、食べない?」


「・・・昼食なら、さっき食べたでしょう?」


 中尉は、呆れた口調で返してくる。


「これから書類と格闘すると考えれば、気力と体力を充実させないとね・・・」

 

 たかだか書類に、必要事項を書き込むだけなのに、大袈裟である。


「・・・・・・」


 どこまで、面倒臭がりなのか・・・


 まあ、自分の上官が、相当に面倒臭がり屋で、変わり者である事は、短い期間で十分に思い知っているので、今さら驚くには値しない。


 もう、呆れるというのは通り越して、諦めの境地に達している。


「僕が奢るよ。何が食べたい?」


「・・・・・・」


 ファーストフードの店を見つけて、早速、そっちに足を向けて歩いて行くレイモンドの背中を眺めながら、中尉は、ため息を付く。





 小腹が空いた程度で食べる量では無い量の、ファーストフードをテイクアウトして、近くの公園に向かったレイモンドたちは、1つのベンチを占拠して、早速、小腹を満たす事にする。


「・・・本当に、これを全部食べる気ですか・・・?」


 大量のファーストフードを眺めて、副官は突っ込む。


 ガサガサと音を立てて、大きな紙袋から取り出したハンバーガーに、レイモンドは早速かぶりついている。


「ホーファヒョ(そうだよ)」


「口の中の物を、嚥下してから言って下さい」


「ヒャヒャッタ(わかった)」


「・・・・・・」


 マイペースと言えば、マイペース・・・である。


「ピッ」


 レイモンドが、ハンバーガーを夢中で頬張っていると、笛のような音がすぐ側で聞こえた。


「?」


 顔を上げると・・・


「ピッ!ピッ!」


「・・・熊?」


「ピッ」


「熊ァァァァァ~!!?」


 大きさで言えば、5フィート位程(約150cm~155cm位)の熊が、レイモンドの目前で立っている。


「ピッ」


 笛のような鳴き声で、熊は何か話しかけてきている様にも見えるが、面と向かった人間は、そうは思わない。


「食べられる~!!!」


 レイモンドは悲鳴を上げて、手に持っていたハンバーガーを、投げつけた。


 パクッ!


 投げつけたハンバーガーを、熊は口で受け止め、ムシャムシャと美味そうに食べている。


「僕のハンバーガーを、食べられた~!!!」


 投げつけたのは、レイモンドなのだが・・・


「ピッ」


 熊は、ハンバーガーを食べ終えた後、お代わりを要求するように鳴いた。


「ゴンちゃん!!」


 女性の叫び声と共に、小柄な人物が、レイモンドのいる方に、もの凄い勢いで走って来るのが見えた。


「駄目でしょ、ゴンちゃん!知らない人に、食べ物を貰っちゃ!!悪い大人は、そうやって子供を誘拐しようとするんだよ!!」


 もの凄い、言われようである。


 その人物が叱っているのは、熊なのだが、誘拐という言葉を使われるのは、非常に心外である。


「・・・あのぉ~・・・そもそも、熊を誘拐する人っています?狩るというならあるでしょうが・・・」


 冷静に、反論をするレイモンドではあるが、そもそも論として言うなら、こんな所に熊が出没する事自体が異常なのだが・・・そこは、スルーされている。


「あれ?ラッセルさん?」


 ここで、初めてレイモンドに振り返った女性が、目を丸くして驚いた表情を浮かべる。


「出たぁぁぁぁぁ!!!?」


「何が?」


 いきなり大声を出したレイモンドに、キョトンとした表情を浮かべているのは、先ほど会えればいいのにと考えていた、桐生だった。


「キリュウさん!良かった!!会えるなんて!!」


 両手を広げて、いきなり抱きつこうとしてきたレイモンドを、無情にも桐生は、スルッと躱す。


「ブッ!?」


 勢いあまって、レイモンドは転倒した。


「だ!大丈夫ですか、中佐!?」


「・・・痛タタタ・・・避けるなんて酷いです・・・」


 慌てた副官に助け起こされながら、レイモンドは桐生を見る。


「ごめんなさい。だって、急に抱きつこうとして来るんだもの・・・」


 桐生の言う事は、正しい。


 いきなり抱きつこうとされれば、誰だって逃げる。


 レイモンドの隣で、副官はウンウンと頷いている。





 感動の再会と言うには、程遠い再会となってしまったが、桐生に再び出会えた事で、レイモンドのテンションは、爆上がりであった。


 桐生なら、行き詰ってしまった問題を、解決出来るかもしれない。


「・・・さすがに、ちょっと・・・」


 レイモンドから、一通りの説明を受けた桐生は、眉を顰める。


「・・・ハワイの時は、お兄ちゃんに、お願い出来たけれど、さすがに、今回は・・・」


「そ・・・そうですか・・・」


 申し訳なさそうに言う桐生に、レイモンドはガックリと肩を落とす。


 レイモンドは、あずかり知らぬ事なのだが・・・カズマ・キリュウは、裁判での判決後、表向きは連合刑務所で服役している事になっているが、裏では司法取引により、MI6のエージェントとしてスカウトされ、現在は、その教育を受けている最中である。


 それを、桐生は知っているが、だからといってレイモンドに告げる事はしない・・・というより、出来ない。


 そういう約束である。


 まさか、レイモンドが連合国アメリカ軍の連絡将校として、グアムに赴任してくるとは思わなかった。


 MI6にも、既に情報は入っているであろうし、当然、それには警戒を強めているはずである。


 レイモンドに対して、直接、手出しをするとは思わないが、危険と判断されれば、どうなるかわかったものでは無い以上、極力キリュウと関わらせない方が、レイモンドのためにも得策であろう。


 桐生は、そう判断した。


「まあ、大変ですけれど、今回は、時間はかかるでしょうが、正規の手順を踏まれる事をお薦めします」


 桐生としては、そう答えるしかない。


「・・・そうですね」


「・・・・・・」


 レイモンドと桐生がベンチで並んで座っているため、必然的に除け者にされた副官は、熊と戯れつつ、2人の話に耳を傾ける事になった。


「ピッ、ピッ」


 遊んでもらえるのが嬉しいのか、笛のような鳴き声をたてて甘えてくる熊の頭を撫でつつ、自分の上官の交友関係の広さには舌を巻くしかない。


「・・・う~ん・・・ちょっと、待って。もしかしたら・・・」


 ガックリと落ち込んでいるレイモンドを見兼ねて、しばらく考え込んでいた桐生は、スマホを取り出し、どこかへかけ始めた。


 呼び出し音が、しばらく聞こえた後、『はい』という、声が小さく聞こえた。


「あっ、もしもし隼也(しゅんや)。ちょっと、お願いがあるんだけど・・・」


『無理』


 プツッという音と、ツーツーという音が聞こえた。


「親不孝者~!!!」


 速攻で切られた事で、桐生はスマホに向かって、叫び声を上げる。


「まったく。まだ、女装させた事を、根に持っているのかしら・・・」


 電話に出た声は、男だったはずだが・・・女装って何?


 もの凄く聞きたい話だが、それは、今回とは関係の無い話だろう。


 それにしても、氷室や石垣の繋がりで知り合ったが、この女性は普通の警察官とは思えない程の、凄い繋がりを持っているらしいというのが、想像出来る。


 さっきまで沈んでいたのが嘘のように、レイモンドの興味は、そっちへ移っていった。


「ごめんなさいね。ちょっと伝手に頼ってみようと思ったけれど、断られちゃった」


 申し訳なさそうに謝る桐生に、レイモンドは恐縮して手を振った。


「あ・・・いえ。お気になさらず・・・帰ってから、申請の書類に必要事項を書き込んで、気長に待ちます。二度と会えない訳では無いですから。こちらこそ、無理を言って申し訳ありませんでした。心配していただいて、ありがとうございます」


 それに、桐生と話が出来た事で、少し気持ちが晴れたのも事実だった。


「そうだ!」


 そろそろ帰ろうと立ち上がったレイモンドは、ポンと手を打った。


「キリュウさん。もし、差し障りが無いなら、連絡先を教えていただけませんか?」


 この先、何かあった時に、色々と話をしたいと思ったからだった。


「・・・まあ、いいかな。個人の連絡先でいいですか?メアド交換しときます?仕事中は、基本連絡が付かないと、思いますから。メールでなら・・・」


「・・・めあど?交換・・・?」


 謎の言葉に、レイモンドは首を傾げる。


「・・・中佐、こちらに到着した時に、携帯電話なる、手の平サイズの無線のような物が、支給されたでしょう。使用方法についての説明も、その時、受けたはずですが・・・」


「そうだったっけ?」


「ニューワールド連合軍内で行われる会議のスケジュール等に付いても、それで随時、連絡が来ると言われたはずですが・・・?」


 副官の説明にも、首を傾げているところを見ると、その説明も真面に聞いていなかったのだろうと推測出来る。


「ラッセルさん・・・貴方、既読無視するタイプですね・・・」


 既読無視なら、まだマシな方で、画面すら開かないタイプかもしれない。


「こういうのって、苦手なのですよ・・・説明されても、全然理解出来なくて・・・」


「まあ・・・そういう人もいますけど・・・頑張って出来るようになって下さい・・・」


 携帯端末で、その調子なら・・・パソコン等も使いこなすのは、無理だろう。


 この人、こんな調子で、やっていけるのだろうか・・・?


 通信機器が使えないのは、色々と不便が生じるはずだ。


 他人事ながら、桐生は心配になる。

 大戦の予兆 第4章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は2月27日を予定しています。

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