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つがい

 ホーンラビットの頭に俺が投げた石が当たる。俺は駆け寄って石ナイフを倒れているホーンラビットに突き立てて倒した。


「テッテレェー、ゴブスケはホーンラビットを倒した」


 俺がそう言いながら石ナイフを天に向かってかかげるとゴブゾウが「おい」と言う。


「そういうのいらないからさっさと解体を始めようか?」


「うん?」


「だから」


「あのさ、兄さん。俺が初めて1人でホーンラビットを倒したんだよ。もっとさ、他になにか言うことはないの?」


「あぁ、良くやったな、すごい、すごい」


 俺が「おい! 兄さん?」と言うとゴブゾウは「なんだ?」と聞く。


「全然、心がこもってないよ」


「あぁ、こめてないからな」


「えーっ」


「もういいから解体しろよ。次行くぞ」


「はーい」


 俺が渋々解体を始めると、ゴブゾウが「でも、本当に良くやったな。ゴブスケ」と笑う。


「うん?」


「再会したときはどうなるかと思ったけど、ゴブスケが1人でホーンラビットを倒せるようになって正直うれしいよ」


「兄さん」


「でも、相手はまだホーンラビットだからな」


「えっ?」


「いや『えっ?』じゃねぇだろ。次はウルフあたりを1人で倒さないとな」


「えーっ」


「お前っ、もしかしてずっとホーンラビットだけ食べて生きていくつもりじゃないよな?」


「まあ、最悪それでもいいかなって」


「おいおい、マジか?!」


 ゴブゾウは頭を抱えて「薄々気づいてはいたが」と言う。


「お前には向上心って物はないのか?」


「うん、品切れしてる」


「嘘だろ……」


 ゴブゾウが目を見開くので「いやいや」と俺は笑う。


「逆に向上心の大安売りしている兄さんみたいな人たちの方がおかしいだけだから」


「なんで?」


「だってさ、達成できるかわからないことに毎日コツコツ努力して報われなかったときはどうするのさ」


「そんなもの、報われるまで努力すればいいだろ?」


 ゴブゾウがそう言うので、俺が「おいおい」とツッコミを入れる。


「あのさ、世の中なんて報われないことのほうが多いからね」


「うん?」


 ゴブゾウが首をかしげる。


「なにを言っているんだ? 諦めなければ叶わないことなんてない。あるとするなら途中で自分から諦めて投げてしまうか、死んで叶わないかだけだ」


 ゴブゾウが胸を張るので、俺は「マジか」と笑う。


「じゃあ、兄さんはなにか目標とかあるの?」


「そりゃあ、まずはゴブリンになることだな」


「うん?」


「だから、ゴブリンになることだ」


「えっと?」


「だ、か、ら、ゴブリンに」


 ゴブゾウがそう言うので、俺は「俺たちはゴブリンじゃないの?」と聞いた。


 うん、俺たちの姿ってどう見てもファンタジーに出てくるゴブリンだよね?


「おい、マジか?」


「なにが?」


「いやいや、俺たちはレッサーゴブリンだろ?」


「レッサー?」


「そうだ。俺たちはレッサーゴブリン、この世界でホーンラビットと並ぶ、最弱種だ」


「えーっ!?」


「『えーっ!?』じゃねぇ、こっちが驚くわ!」


 ゴブゾウはそうツッコミを入れてから「本当になにも聞いてなかったんだな」と額に手を当てた。


「父さんに説明されただろ?」


「そうだっけ?」


「本気で言ってんのか?」


「うん」


「やっぱりゴブスケが我が弟だということが怖い」


 ゴブゾウが大袈裟にうなだれるので「わかるよ、その気持ち」とうなずいておく。


「旅立ちの日もまずはゴブリンを目指せって言われたろ?」


「えっ?」


「もしかして、言われてないのか?」


「うん、なんか『少しでも早くパートナーを見つけて、いっぱい繁殖するんだぞ』って」


「マジか?」


「マジ」


 俺がうなずくとゴブゾウは『あれ?』って顔をした。


「「……」」


「そっ、そうか、まぁ、父さんも、アレだ、きっと、アレだ」


「諦めたんだね」


「だな」


 ゴブゾウが素直に首肯したので、俺は「おい!」とツッコミを入れる。


「そこは否定してよ『きっと、父さんもうっかり言い忘れたんだな』って慰めてくれるところじゃないの?」


「そんなの慰めになるのか?」


「いや……」


「だな」


「うん、父さん、諦めたね。ひどい」


 俺が肩を落とすと「はい、兄さん」と解体の終わった肉をゴブゾウに渡す。


「おぉ、ありがとな」


「感謝して食べるがよい」


「おい!」


 2人してゲラゲラ笑っていると「ゴブゾウさん?」とその人に声をかけられた。


 うん? なんだ、この美人は?


「確かに『浮気するな』と言ったけど、まさかそっちにいくとは……」


「「おい!」」


 俺とゴブゾウがツッコミを入れると「息もピッタリね」と笑う。


「ゴブエ、そういうのはいいから。こいつは俺の弟のゴブスケだ」


「あら、弟さんだったね」


 ゴブゾウがゴブエに「そうだ」とうなずいてから俺を見た。


「ゴブスケ、こちらが俺の妻のゴブエだ」


「つ、つ、つ……妻!」


「そっ、そうだ」


「裏切ったのね! 兄さん!」


 俺がそう言うと、ゴブゾウが「言いかた」と言って、ゴブエがうれしそうに「あらあら」と笑う。


「裏切ったもなにもないだろ?」


「いやいや、全然聞いてないし」


「いや、言おうとは思ってたけど、なかなか言い出せなくてな」


「えっ?」


 俺は驚いてからゴブゾウとゴブエを交互に見て「やっぱり、捨てられたの?」と聞く。


「おい! やっぱりってなんだ?」


「えっと、だってさ。道具とかいろいろあったし『あなたには付いて行けません』って出て行かれたのかと」


「なんで、そうなる?」


「だって、兄さん、なにも言わなかったし……」


 俺が言い淀むと、ゴブゾウは「そうだな」と苦笑いを浮かべた。


「ゴブエはゴブエの母さんの調子が悪くて実家に帰ってたんだ」


「そうだったんだ」


 俺がうなずくと、ゴブゾウはゴブエを見た。


「もう大丈夫なのか?」


「うん、子供たちはみんな巣立ったし、母さんの調子も良くなったわ」


 ゴブゾウが「そうか」とうなずくので、俺は「良かったね」と言う。


「ゴブスケ?」


「ゴブエ姉さんが戻ってくるなら、俺も巣立つよ」


「「えっ?!」」


 2人が驚くので、俺は「なんで驚くのさ」と笑う。


「2人の邪魔はしたくないし、兄さんにいろいろ教わったおかげで、とりあえず生きて行けそうだからね」


「本当に大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


「本当か?」


「うん」


 俺がうなずくとゴブエが「気にしなくていいのよ」と言う。


「しばらく3人でも」


「いや、兄さんたちも早く子供を作らないといけないからね」


「「なっ?!」」


 2人が驚いて、ゴブゾウが「おい!」と笑う。


「そういうのは『思っても言うな』っていつも言ってんだろ?!」


「だけどさ、作りたいでしょ?」


「まあな」


 ゴブゾウが頭をかいて、ゴブエが「あんたたちねぇ」と苦笑いを浮かべるので、俺は笑った。


「兄さん、本当にありがとう。元気でね」


「おい、もう行くのか?」


「うん」


「だが……」


 ゴブゾウが険しい顔をするので、俺は「だから、兄さんにはそういうシリアスな顔は似合わないって」と言った。


「それに、甘えちゃうとズルズルいきそうだから」


「そうだな」


「おい、そこは『ゴブスケはそんなことないだろ?』って言ってくれるところじゃないの?」


「いや、そんなことしかないだろ?」


「うん、間違いない」


 2人してケラケラと笑う。


「元気でな、ゴブスケ」


「うん、兄さんと姉さんも元気で」


「「ありがとう」」


 俺はうなずいて、その場を離れる。途中で振り返ろうかと思ったけど、やめた。


 甘えちゃいそうだからね。

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