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兄弟

 森の中を逃げまわり3ヶ月が過ぎた。イモムシを食べて、あとはひたすらに逃げまわる日々。


 だってさ、ガチで魔物と戦うなんて無理だろ?


 ゴブリンは背も低くて手足はひょろひょろと細いし、ホーンラビットのような尖った角があるわけでも、ウルフたちのように鋭い爪や牙を持っているわけでもない。


 そのかわりゴブリンは人と変わらないほどに器用で道具を使うことができる。


 でもスタート時点で武器も道具も渡されてないんだからさ、こんなの無理ゲーだろ? 例の酒場だって新規キャラ作ったらひのきの棒ぐらいは持たせてくれるよ。


 サービス悪すぎだろ? おい!?


 ということで。


「ジャジャーン!」


 と落ちていたホーンラビットの角を拾って空に向かって掲げてみた。


「ゴブスケはホーンラビットの角を手に入れた」


 よし、自動で装備できるからこれで問題なく戦える……わけない。


 無理、無理、無理。


 あのさ、この前まで平和な日本でヒキニートしてたんだよ。いきなりこんなの持ったからって勇敢に戦えるわけないだろ?


「はい、却下」


 俺は「やってられるか!」とホーンラビットの角を投げる捨てる。


 うん? いやいや、待てよ。そもそも近距離で戦うのが怖いなら遠距離で戦えば良いんじゃない? だいたい狩りって言ったらやっぱ遠距離っしょ? 


「誰だよ、こんな良い物を投げ捨てたのは……あぁ、俺か」


 そんなことを呟きながら、投げ捨てられたホーンラビットの角を拾う。


 あとは……木の枝と蔓を使って弓を作れば良いんじゃないか?


 少し反っていて良さそうな枝も拾い、それからその枝にしっかりと蔓を張って……。


「ゴブリンは手先が器用なのだ、ラビットとは違うのだよ、ラビットとは」


 俺はそう言って完成した弓を見た。


 うん、なんかそれっぽい。


 蔓にホーンラビットの角をセットし、グィーっと後ろに引いて手を放せば……。


「って、飛ばないんかい!?」


 俺は叫びながら弓もどきを地面に投げつけた。


「マジか?」


 いやいや、普通はさ、ここは空気読んでなんとなくできちゃったりするんじゃないの? 前世の知識が生きたね系じゃないの? あるじゃん、これで狩りができるね的な展開がさぁ。


「あはっ」


 うんうん、今日もイモムシ食べよう。


 だいたいさ。本気なんて出しても上手く行きっこないんだし、異世界に来たから頑張ろう的なノリからして間違っている。


 俺はヒキニート!


 異世界に来たからといって、その本質は変わらないよね。


「逃げたいし、働きたくないし、できれば寝ていたい」


 わかった、わかった。


 無理なことはしないで、昼のうちにイモムシを食べて、魔物が活発な夜は穴ぐらで大人しくして、のんびり暮らせば良いじゃないか?


 俺がそんな風に思いながら地面に投げ捨てた弓もどきを見下ろしていたら「あれ? ゴブスケか?」と声をかけられた。


「うん? ゴブゾウ兄さん」


 同じ日に父さんの元を巣立った俺たち八つ子の長男であるゴブゾウがニヤニヤと笑って俺を見ていた。


「ふーん、面白いことしているな」


「えっと?」


「新しい飛び道具を作ろうとしたんだろ?」


 俺の隣に並んで俺が見下ろしていた物を見て、それから何度もうなずく。


「新しい? 兄さんも飛び道具を使っているの?」


「あぁ、使っているぞ」


 ゴブゾウが石を拾って「父さんに教わったじゃないか?」と笑った。


「教わったっけ?」


「やっぱり聞いてなかったのか?」


 ゴブゾウが呆れ顔をしてそう言って、腰布に引っ掛けていた投石器を俺に見せた。


 おぉ、なんかそれ! あれ?


「投石器だっけ、なんとなく教わった気がする」


「なんとなくって……お前さ、良く今まで生きてたな」


 ゴブゾウは俺を見て「はぁ」と息を吐いた。


「もしかして、石ナイフの作り方も薬草の摘み方も覚えてないのか?」


「うん? なにそれ?」


 ゴブゾウが「おいおい」と笑う。


 ゴブゾウに見せてもらった石ナイフも乾燥した薬草も見覚えがある。確かに父さんと母さんに教わった気がするけど……。


「こんなにも早く放り出されると思ってなかったから、ちゃんと聞いてなかったんだよねぇ」


 俺が「てへ」っと笑うとゴブゾウは「もう一度言うが良く今まで生きてこれたな」と呟いた。


「俺が教えてやろうか?」


「へっ?」


「だから、俺が教えてやるよ」


「いいの?」


「あぁ、兄弟だし、お前が何もできずに死ぬのは可哀想だからな」


 おいおい、ゴブゾウ、お前……イケメンじゃないけど、いいやつだな。


「おい、ゴブスケ? 今なんか失礼なことを思っただろ?」


「えっ? 思ってないよ」


 俺がとぼけるとゴブゾウが「なるほど、なるほど」と目を細めた。


「教えてもらえなくてもいいんだな?」


 いやいや、それは困る。


「ゴブゾウ兄さん、ごめん。別に『兄さんはイケメンじゃないけどいいやつだな』とか思ってないから」


「おまっ、マジか? そういうのは口に出すな、心にしまっとけ」


「だって、兄さんが脅したからじゃん」


「いや、そういうときは適当なことを言って誤魔化せばいいだろ?」


 俺が「そっか、わかった」とうなずくとゴブゾウは「本当にわかったのか?」と苦笑いを浮かべた。


 わかったって、忘れるかもしれないけど。


 それから俺はゴブゾウに連れられて、小さな川に向かう。石のナイフの作り方から教えてくれるそうだ。


 そして、その道すがらホーンラビットに出会った。

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