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魔法石師は今宵も静かに

作者: しじみ

初投稿、初小説(短編)です。

頑張れたら連載しようかなとおもてます。


どうか温かい目で見守ってください。


とある少女の視点



ここはヴランディーク商店街。アスル大陸の一国レイチェス帝国の辺境にあるここは平日であるにも関わらず、たくさんの人で溢れていた。しかし、そんな商店街にひっそりと宝石店がある。

今日はそこに用事があるの。

なんてったって、父から貰った大切な指輪が切れちゃって、大変なことになってしまった。

だから、私は幼なじみであるレイの宝石店に向かった。

レイのお店は商店街の裏にある、細くて高い建物の、一見どこかのバーのような外見だ。

木製のドアを開けるとカランカランとベルが可愛い音で鳴る。けれど、いらっしゃいませとかは聞こえない。その代わりに私を出迎えてくれたのはたくさんの輝く宝石達。どれもレイや今はもう亡くなってしまったけど、レイのお父さんが造ったブレスレットやネックレス、指輪など、女性が見たらたちまち欲しくなりそうなものばかりがずらりと並んでいた。

私はそんな宝石たちを眺めながら、目的であるレイの元へと足を運んだ。案の定、彼女はお会計のところで毛布を被ってぐっすりと眠っていた。

「レーィ!」

大きい声を出しながら寝ているからだを揺する。

「レイ、おきてっ!」

すると、さっきまで死人のように寝ていた体が起き上がる。

ボサボサの頭だけど肩まで切りそろえてある水色がかった銀髪。綺麗な顔はメガネで隠しきれてない。翡翠のように輝く瞳に私を移した。

「あれ、アイリス。おはよう。」

きょとんとした後、レイは欠伸をしながら目を擦る。

「おはよう、じゃないわよ。もう何時だと思ってるの?店番してるのに寝てちゃダメじゃない!」

「いや、ごめんて。朝ごはん食べたから許して?」


くっ。この、レイの上目遣いに私はどうしても弱い。これをされればなんでも許してしまう私はちょろい。

大好きな幼なじみはこれでもれっきとした女の子。赤い眼鏡は彼女と出会ってから何ら変わっていない。基本的に不干渉だけど、ピンチの時とかはちゃんと助けてくれる。女の子なのにちょっとかっこいい所あるからほんとに惚れてしまう。


「わかったわよ。でも、ちゃんと起きないといけない時は起きなさいよ。」

「はいはい。」

レイはくわーっと大きな欠伸をした後、メガネをかけ直した。

「ほんで、どーしてうちに来たのかな?」

「あ、そうそう。これ!切れちゃったのよ。指輪、直せる?」

「見せて。」

私はポケットから切れた指輪を取り出し、レイに手渡した。

「ほんとだ。切れたねぇ。」

「直せる?」

「大丈夫。直せるよ。うんとー、ちょっと今違う仕事も入ってるから5日後くらいになりそうかな。」

「ほんと?!ほんとのほんとに直せるのね!」

これは父から15歳の誕生日の日にもらった大切なものだ。だから、絶対に捨てたりできない。

「うん。じゃあ5日後の夕方くらいに取りに来てよ。よかったら家族みんなで一緒に。」

「行くわ行くわ!ありがとうレイ!あ、お代どうしよう、いくらになる?」

「大丈夫だよ。今度じゃあお店の料理振舞って。お店のご飯結構好きなんだ。」

「ぜひぜひ!」

(よかったぁ。)

私は嬉しくってどうにでもなりそうだった。

「アイリスって素直だね。」

「そう?ありがとう!でもほんとに感謝してるのよ!でも、お代がないのは悪いから私からプレゼントするわ!」

「え、だから今度料理を「それは遠慮せずに毎日でも来ればいいのよ!」

私はグイグイと迫る。そのくらいしないと食い下がらないのがレイなのだから。

「わ、分かった。ありがとう、アイリス。」

「ふふっ!じゃあね!私もお店の方行かなくちゃっ。」

「気をつけてねぇ。」

カランカランと音が鳴るドアを開けて、私はお店へかけていった。



―――――――― 

宝石屋の少女の視点


アイリスがお店の手伝いをするために帰っていくのを見送ったのを確認して、台の下に置いてあった通信機を取り出す。

「ロウ。」

すると、アイリスがいる間奥にいたフクロウのロウが飛んでこちらに止まる。

「アイリスはいつも良い子ですな。」

「うん、とっても。いつもお世話になってるんだ。」

ロウは私の使い魔で、よく身の回りをお世話してくれる良い使い魔だ。

「はてさて、寝ている暇ではありませんぞ我が主。報告が遅れてはランドール殿がお困りになられますぞ。」

「そうだね。」

私は魔導術式を展開して通信機を起動させた。

ロウにはその間、お客が間違えて入らないように結界を張ってもらう。

「終わりましたぞ。」

「ありがとう。では、報告といきますか。」

応答があれば、通信機に付いている魔法石が光る。

『レイ、久しぶりじゃのう。』

「こんちわ、ラン爺。報告しに来ました、四天人が一人、レイ・アルスガルノンです。」




この世界には魔術、魔法が存在する。

レイチェス帝国は国の中で最も優れた魔術、魔法の使い手が4人選ばれ、彼らは四天人と呼ばれ、元老院と同等かそれ以上の権力を有する。

そして、そんなことをそんなことで済ましてしまう四天人の一人が居た。


『だいーぶ、連絡されてなかったのだが、どういうことかの?』

「すいません、なんか、報告する気なくって。」

『まとめ役がわしで良かったわい。もしセラフィであったらお前さん死ぬほど怒られてたぞ。』

「あはは。彼はまぁ、でもどうにかなるよ。めんどくさい人だけど。」

(姑みたいで。)

『ところで、魔物の件、どれくらいすすんどるかのぅ?』

「シャングリラ北部ですね。結構そこら辺からが多いかと。」

『やはりか。…分かった。報告ご苦労。』

「はいでわ『ちょっと待った。』

直ぐに切ろうとしたのがバレたのかなんなのか、ラン爺にさよならの挨拶を止められた。

『次の会議は次の月の第2週朱の日じゃ。』

「はいー。」

(遠隔映像でするか。)

『ちゃんと現地で来ること。しないと仕事増やそ「了解しました。」

ここは食い気味で行かないといけないだろう。いやだ。前回みたくたくさん仕事を押し付けてきたラン爺憎し。

『ではの。』


ガチャ


「そろそろあの研究進めないとなぁ。」

「下手をすればこの街にも被害が及びますぞ、主。」

魔物は人間やその他の動物を襲いかかる。私は彼らの発生理由と根源についての研究を担当しているが、最近以前よりも多くの魔物の発生情報が来ており、研究を進めようにも進められない。

「でも、ある程度座標は定まってきたから、明日の夜には出るか。」

「その方がよいの、主。」

私のとりあえずの目的は魔物はどうやって生まれるのかということ。その現場を抑えられればこれからかなり研究が進むだろう。


「さて、出発前に注文の品々を片っ端から片付けていくとしますか。」

私はアイリスからもらった切れた指輪を手に取る。

私は、アクセサリー類や石を触ると触った者の想いが頭に流れ込んでくる。そして、この石が死んでるのか否かもわかる。

父が死んでからもう早5年。アイリスの父であるユーゴさんにとてもお世話になった。この指輪はユーゴさんの前いや、ご先祖様の想いが積み重なっている。結論、これはとてもいい指輪だ。

アイリスは、悲しいことでもあったのだろう。けれど、指輪が切れたことで悪いものがどうやら切られたようだ。つまり、アイリスはこの指輪に守られた。

(アイリス、良かったね。)

だからこそ、大切な彼女とユーゴさんのために、しっかりこの指輪を直そう。




「主、おわったかの?」

「うん。大丈夫。ピッカピカにしたよ。」

私は指輪を繋げたあと、長年使い込んでるせいでついてしまったサビや汚れをしっかりと磨いた。

「うむ。これは古のブルーラントの石がはめ込まれておるぞ。珍しいのう!」

「うん。ユーゴさん昼間はああやって料理亭のお店を開いてるけど、本来の職はここの昔っからの伯爵様だからね。」

「なるほどのぅ!そういうわけか。この指輪には古い精霊術式が刻まれている。」

そう、ユーゴさんは本名ユーゴリー・バルシリカン。バルシリカン辺境伯の当主で、領民の生活を日々ひっそりと見守っている。これを知っている人は辺境伯家の関係者くらいしか居ないだろう。

「あの娘は真っ直ぐ育ってよかったですな。」

「そうだね。私は彼女に救ってもらったからね。」

「あの時は探したのですぞ?ハウウェル殿が恐ろしく顔を白くして国中探したものだ。」

「へへ。さてと、他にも作業進めないと明日行けなくなっちゃう。」

赤いメガネをそっと机の上に置く。

これはアイリスに貰った最初のプレゼント。

私はこの瞳のせいでよくいじめられていた。

そんな私を見兼ねて、アイリスは私の瞳を誤魔化すためにくれたプレゼント。今でもこのプレゼントは大切なものだ。

胸の内をホット温め、私は次の作業に取り掛かった。



くー!やっと終わったぁ。

行った作業はアイリスの指輪を含め5件。

残り4件の物は郵便で贈ることにする。

「主、準備できてますぞ。」

「ありがとうロウ。」

作業が終わったのは今日の夕方。つまり、昨日の次の日の夕方。ロウは終わらなそうな私の作業を見て、準備の方をしてくれた。

あとは、しばらく留守にする旨を店の外に出して、注文も取り継がないことも魔法で送る。

月が大きくかけている今夜、私は魔物研究のため、我が家を留守にした。








―――――――――――

とある騎士隊長の視点


これは不味い。

先程まで殺伐とした空気は切羽詰まった空気にまで変わってしまった。

目の前にするのはうじゃうじゃと発生し続ける魔物たち。切っても切っても増え続けるこの状況は、上からくだった情報の遥かに異なることを告げている。

部下たちの体力ももう限界にきており、負傷者が増える一方だ。

ここで引いてしまえば、シャングリラの街が魔物共に飲み込まれ、潰れてしまう。

しかも、ここは王都から北部にかけて離れており、しかもシャングリラの領も国で一番広いがためにさらに北部にある。王都から応援を呼ぼうにも着くのは魔法を使っても3時間はかかる。

「隊長!前衛隊はもう限界です!副隊長が持ちこたえていますが、いつまでもつか!!!」

「わかった!すまぬ、この山をこやつらに越えられてしまえば、終わってしまう!どうにかもちこたえてくれ!!!」


部下たちの指揮も下がりつつある。




もう、だめか。














そんなことを思った。













けれど















目の前に広がるのは魔物達が苦しむ姿。

「なんだこれは!?」

「一体何が起こったのだ?!」

「まさかさらに強い個体がいるのか?!!!」

部下達が慌て出す。

しかし、彼らの予想は外れ、魔物は黒い塵となって消え、その代わりのようにぽとりと落ちてきたのは、、、石?

「消えた、のか?」

「カイル!」

すると、どこからか副隊長であるウィークの声が聞こえた。

良かった。生きてたか。

目の前に起こった出来事を棚に上げて仲間の安否を確認してしまうほどに、俺は混乱していた。

「やったー!!!」

「魔物は皆倒れたぞー!!!」

「神は俺たちを見捨てなかった!!!」

同時に兵たちが騒ぎ出す。

「ウィーク。無事だったか。」

「そっちこそ。突然魔物が消えるものだからお前が何かやったのかと思ったんだが。」

「いや、俺は何もしていない。」

これは王都騎士団第一大隊の手柄にはなるが、きちんと報告せねばならない。

だが、どう報告いたそうか。

「とりあえず、討伐成功ってことだよな?」

「まあ、そうなる、な。」

「女神様は俺たちを見捨てなかった。これでいいんじゃないか?」

「バカを言うな、とは、言えんな。」

とにかく、一大事を助けてくれた神に感謝せねばならない。


俺達は一度、魔物達が溢れんばかりにいた場所を目に焼き付け、その場を後にした。





―――――――――――――――――


とある四天人の視点




とりあえず、危機一髪って感じ。

「主。」

「・・・」

いや、よかったよ。ほんとよかった。

「あるじ。」

「・・・」

誰もね、死人が出なかっただけいいよほんと。

「あーるーじー!!!」

「・・・やっちまった?」


騎士団がいるとは思わず、研究成果がでて喜びすぎて周りを確認していなかった。

いや、でも待てよ。そーゆー事は私の管轄外か。

「主、もしや「ま、いっか。」


ほぅ。

ため息のように鳴く我が使い魔殿。

「この残りの掃除は()()人にしわ寄せが来るのでは?」

「大丈夫。()()人も暇じゃないけど優しい人だし。」

でも般若のようなあの顔は凄いよね。

「主。」

まるでどこかの国の絵のように歪んで。

「あるじ。」

そうだ、こんど東の方から画家さん呼ぶのもいいかもね。

「あーるーじー!!!」

「ん?どうしたのロウ。」

見れば、呆れた顔をしてホゥとため息?鳴き声?を出していた。

(あぁ、なるほど。)

理解したのは感じた空気に混じった魔力と、冷気のような怒気。ここ一応北の大地なのにもっと寒くなったように感じたのは気のせいじゃないかもしれない。

仕方なく、振り向いてちゃんと挨拶しようと思った。

「こんにちは。セラフィさん。」

彼、セラフィさんは私と同じく四天人の一人で、攻撃魔法、防御魔法共に優秀で、戦闘に向いている四天人だ。

そんな彼はシャングリラの針葉樹のてっぺんに器用に直立不動で私を見下ろして佇んでいた。

「どうも、こんにちはレイさん。」

セラフィさんは美貌の美青年とよく周りが言っているが、私にはどう見てもいつも顔に青筋をつけている姑さんにしか見えない。

でもまあ、基本的に優しい人だ。

だから、私はいつも通りに同じ言葉を投げかける。

「どうしてこんな所にいるんですか?」

「陛下から直接命令が来たのですよ。シャングリラの北部の魔物退治のね。そんなことより、僕の方があなたにその質問を言いたいのですがね。どうしてこんな所に?」

「研究してたんですよ、魔物の。そしたらたまたま騎士団の方々を助けた形になっちゃったんですよ。」

私はホントの事をちゃんと言った。嘘偽りなく。けれど、彼は青筋を深めるばかりだった。

木から降りてきて黒いオーラを背後に宿しながら綺麗な笑顔で(青筋付きで)言葉を発する。

「これ、誤魔化すのにどれだけ手間を省けばいいと思ってるんですかあなたは。」

「でも、セラフィさん優しいから。どうにかしてくれるんじゃないかなと思って。」

「あなたはそう言う人ですよねほんとに。メアリーさんを見習ってはいかがでしょうか。」

地味に惚気けているのは無視しておこう。

「メアリーは優しいから、ちゃんと全部やってくれるからね。」

「あなたはほんとにどれだけ僕のストレスの原因になれば気が済むのですかね。え?」

まあ、これは謝っておこう。

「申し訳ないです。」

「はあ。全く。でも、今回ばかりは僕もあまり攻めだてられません。こちらも少しめんどくさいのに捕まっていたものでね。」

(言い訳。)

「なんですかその顔は。」

「いや別に。」

「今回だけですよ。あなたに救われたのは確かです。で、す、が!くれぐれも他言無用によろしくお願いしますね。ランドール殿には報告せねばなりませんがね。」

「セラフィさんのお好きな様にしてくださいな。私はもう行かないと行けないんで。」

研究が実を結ぶまではや3日。私にしては上出来の結果である。

「僕もとりあえず、騎士団の隊長さんに説明に行かねばなりませんので。では。」

セラフィさんは呪文を唱えて消えてしまった。


さて、魔物が消えた後に残った石たちを採取しますか。






―――――――――――――


とあるご令嬢の視点




レイに指輪を直すのを頼んで五日後、私は両親と弟のルキと共にレイのお店に向かっていた。

「こうやって3人でレイちゃんのお店へ行くのは久しぶりね。」

「そうだな。レイちゃんは元気かい?アイリス。」

「5日前は元気だったわよ!寝不足のようだったけどねっ。」

「レイ姉様が元気で良かったです!」

私たち家族4人でお出かけのも久しぶりだ。今母のお腹にはいずれ弟となる赤ちゃんがいる。

父は昼のお店と辺境伯の仕事と忙しく、あまり夕食にさえ顔を出さないし、ルキは学園で魔法の研究を進めていて、休みなのにも関わらず家に帰ってきたのは昨日だ。

けれど、レイはいつも家族がばらばらなときはこうやって揃えたりしてくれるし、どんなときも私たちを助けてくれる。



ヴランディーク商店街にある、ひっそりと細く高く建つ建物に、一見バーのような外見の木製の扉を開けばそこは、カランカランと鳴る音と共にきらきらと輝く宝石の世界へと誘われる。

「どもども、いらっしゃーい。あ、皆さんいらしたんですね。」

そこにいるのは18歳の少女。青みがかった銀髪は肩の上まで揃えてあるのにボサボサで、綺麗な翡翠の瞳は赤い眼鏡に守られている。

「レイちゃん久しぶり。」

「あらまぁ、元気そうで何よりだわぁ。あら、新作もうできたの?」

「レイ姉様!僕今魔法の研究してるんでレポート見てください!」

「みんな!レイは1人しか居ないのよ!皆してレイに迷惑かけないでちょうだい!それに今回は私がメインのはずよ!」

皆してレイの取り合いをしているが、これは私たち家族がレイを大切にしている一番といってもいいほどの証拠である。

「ふふ。ユーゴさんお久しぶりです。アリスさんがいらっしゃると思って張り切って作ったんですよ。よかったら一つ一つアイリスと見てってください。ルキ坊っちゃんお久しぶりです。ぜひレポートは見させてください。」

「・・・レイ。」

私はジト目でレイを見る。

どわっと店の中は笑い声が響く。

父も母ももルキも笑うものだから、私も釣られて笑ってしまった。

みんなが笑ってる間、すみっこにいつもいるフクロウのロウはホゥと何だか呆れたようにもとれる表情で鳴いていた。


「お客様、どうぞ。ご注文の品です。」

すると、レイは小さな白い箱を出して父に渡す。

「さあ、アイリス。これはお前のだろう?」

そう言って、父様は箱をゆっくりと開けた。


「うわぁ!ステキ!前よりも綺麗になってるわ!ありがとうレイ!」

私はとっても心の底から嬉しくってレイに飛びつく。




思えば、指輪は切れてしまった方がよかったのかもしれない。

私は学園での生活があまり上手くいかなくなっていた。


私には、憧れていた人がいた。恋愛的な意味で好きではなかったけど、応援したいと思っている人がいた。でも、私のような人間は沢山いて、私は取り巻きのようなうちの一人となっていった。

学園はほとんど社交界と変わらない生活で、伯爵家で過ごすよりもとても窮屈に感じていた。

そんな生活でも、活力となっていたのは紛れもなく憧れの人のおかげ。

ただ、遠い所から眺めるだけの存在だった。少し、レイを思い出してしまったけど。


そんな時だった。ある日、憧れの人と話す機会ができた。彼はなかなか自分から女性と話さない性格だけど、心根はとてもかっこいいことを知っているし、何より顔も綺麗。憧れない人なんて、いないと思ってる。

そんな彼と話せてる。最初に話してから、次第に挨拶するようになって、世間話も時々するようになった。

とてもいい日々を過ごしていたんだと思う。けれど、この時の私は馬鹿だったんじゃないかと思う。別に、彼は私に好意を寄せてる訳ではないのに、勘違いしてしまった。間違いだったと思った。私は自惚れすぎていたのだ。


たまたま、その人の教室の近くの廊下を歩いていた時、ほかの友人たちと話している彼の声が聞こえたのだ。

『お前最近仲良くしているご令嬢いるだろ?』

『あぁ。』

『もしかしなくても、彼女お前に好意を寄せてるのかもよ?』

『なわけないだろう。それに俺は彼女の他にも話してる令嬢なんて沢山いる。彼女のことは、普通だよ。というか、俺好きな人いるし。彼女に好きだと言われても、俺は困るし、断る。』


好き?なのかどうかは私は分からないけど振られたのは確かだ。でも、落ち込んでるという自覚がある分、好意はあったんだろう。


そこからだ。変わってきたのは。


彼となかなか廊下ですれ違ったりしないし、学園内で見かけてみてはいつも可愛らしいご令嬢(たぶん、オストワード侯爵家のご令嬢だったと思う。)が彼のそばにいた。

いつもいつも一緒にいるの。まるで私に見せつけてくるように。

私はあんなに綺麗なブロンドの髪と青い瞳はなくて、このとおり黒髪と黒目で目元は少しつり上がっている。

そこで私は思った。

あぁ、私はもう必要ないんだわ。


長い休みに入る前の最後の日、彼女とすれ違った。

ごきげんようと挨拶を交わす。

彼女も可愛らしい笑顔でごきげんようと返してくれた。

のもつかの間。

「ありがとうね。ユリアス様譲ってくれて。」

そう、耳元で囁かれた。

プツンと頭の中で糸が切れた音を聞いた気がする。

我を忘れた私はバッと彼女から私を引き離して、普段のように、ここが学園内であるとも考えずに拳を力強く握った。爪が皮膚にくい込んでいる感覚が感じない。それくらい、頭に血が上っていた。

私は許せなかったのだ。こんな女にあの方をとられたこと。そして何より、自分がとても未熟であること。自分自身に強く腹を立てた。もっとやれることがあったはずなのに、私にも出来ることがあったはずなのに。そのチャンスを逃したのは私。原因は私自身だったのだ。

けれど、この怒りをどうにもできない。どうしよう。理性のうちではそう考えていた。

どうしよう。どうしよう。

令嬢としての私はもうこれで終わりね。

知らぬ間に私たち二人の周りには野次馬が集まる。

そう、冷静になった時だった。


プツン


今度は頭の中ではない、ハッキリと耳に届く音だった。

ゆっくりと、強く握りしめていた両手を開く。


いつもの感じじゃない。何か違う違和感を手に感じてそっと右手をあげ、覗いた。

見れば、指輪が切れていた。


あ。



おかげで、血が上っていた頭は一気に血の気が引いていく。

これは代々我が家に伝わる大切な指輪だ。お父様に誕生日プレゼントとしてもらった家宝の一つを、私はっ、私は。


「切れた。」


ひとまず、この場を去ろう。

幸いにも、彼女に手を出す前だった。

殴りたかったけどもね。


「すみません。少しよろけてしまったものですの。わたくしはとったとられたなんてそんなのどうでも良いことなの。あなたの幸せをお祈り致します。エリーゼ嬢。」

わたくしはこれで。と別れの挨拶をして私は学園を後にした。


馬車に乗って、侍女のカーラはプンスカプンスカと私の代わりに沢山怒ってくれた。

おかげでなんだか、吹っ切れたような気もする。

「ありがとう、カーラ。」

「そんなことありませんよ!お嬢様はもっと怒っていいのですからね!こういうプライベートな場や辺境伯家では普段通りでいていいのですから。」

「ふふっ。私の侍女は頼りになるわね。」

「もっと頼って欲しいくらいですけどね。」

その後はカーラと一緒に馬車の中で他愛のない話をした。


帰ってきたあとは、父に指輪が切れたことを話した。父は怒るでもなく、叱るでもなく、そうかそうかと柔らかい表情でレイに直してもらいなさいと言われた。




―――――――――――

とあるかつて護ることをきめた者の視点



幸せそうな家族を眺めて幸せのお裾分けをしてもらっている私は、頬が緩まずにはいられない。


父が死んでから、本当の家族のように私を育ててくれた彼らには感謝しかない。けれど、私にはこの店を守る義務がある。

たぶん、アイリスの指輪はバルシリカン家の家宝なんだろう。

どうやら指輪は彼女を守ったらしい。

だから私は古くなっていた精霊術式を一つかけ直したのは秘密である。たぶん気付く人はいないと思う。でもそれでいい。

彼らがこうやって笑顔でいてくれたら、私はそれだけで嬉しいのだから。


それが、私が四天人となった理由の一番の裏付けである。











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