書きかけ小説冒頭 その1 三人目は女装メイド
「こんにちはー」
よくある中世風の異世界の街並み。
ごちゃごちゃとした露天が並ぶ通りの突き当たりに、その食料品店があった。
店員が振り返ると、緑色の短髪が似合う少年が目に入る。
いつもの半袖の上着と短パンは、パッと見で着古されているのがわかる。
「はい、いらっしゃい」
ぶっきらぼうに返す店員に次いで、店の奥にある倉庫から店長の威勢の良い声が届く。
「ミントちゃん、今日もおつかい、えらいねわぇ」
「店長さん。こんにちは!」
おつかいとは言っても買い物はしない。注文書を渡すだけである。
十歳そこそこの子供が大量の食料を持ち運んでいたら、不届き者の格好の的となってしまう。
注文書は数枚まとめられていた。
何件かをはしごするため、店を回る順番に揃えてあるのだ。
そこから一枚を抜き取り、店員に渡す。
「はい、今日はこれお願いします」
「うん……。確かに」
暖簾をかき分け、店長が店奥から現れる。
その目は、店員がメモを受け取るのを追っていた。
「ミントちゃん毎日来てるけど、院長先生は……、孤児院の子を順番におつかいさせるって言ってたわよ」
ミントは笑顔を向ける。
「そうだけど、なんかみんなに頼まれちゃって」
「そう、……人気者なのねぇ」
「そうなのかな? えへへ。じゃぁ次は雑貨屋さんなので、行ってきます」
「ああ、行っておいで」
店長が手をふって見送る横で、店員はつぶやく。
「いいように使われてるけど、気付いてないって感じですかね」
「そうだね。――でも素直でいい子じゃないか。それに働き者は嫌いじゃ無いよ」
◇
昼間から飲んだくれが机に突っ伏しているような、場末のギルド。
そこに一人の少女が現れる。
水色の魔道士向けチュニックに、フード付きのローブをはおっている。
「受け付けはこちらかしら?」
薄汚れた店内に受け付けらしき物は無く、バーカウンターがあるのみであった。
その向こうでは、やせた男が酒棚の瓶を磨いていた。
彼はちらりと少女に目を向けたが、すぐ手元の瓶に戻す。
「依頼ならもっと立派なギルドに行ってくれ」
「少しお尋ねしたい事が」
男は左眉をしかめる。
「タダじゃ教えられねぇな」
「これで足りる?」
カウンターに置かれたのは大銀貨一枚。
気の利いた宿屋なら程々の部屋に、酒付きで晩飯が付く。
「それだけありゃ、Eランクのクエストぐらいは発注できるぜ」
「いいの。情報が得られれば」
「……よかろう。俺はココでギルマスを貼っているゴーシュってモンだ。ただし、答えられるかどうかは質問によるな」
「私はミモザ。そうね……、こちらに非合法の依頼が申し込まれたり、してないですよね?」
「それが、質問かぁ? あいにくそういうのは扱って無くてな。むしろ持ち込むな。調べたかったら他へ行くんだな」
「そう」
「こいつは返すぜ」
「いいわ。お代として取っておいて。……お邪魔したわね」
収穫が無かったと言わんばかりに、ミモザは気だるく振り返り、立ち去ろうとした。
「ちょいと待ちな」
足が止まったミモザの後方で、ギルマスが声量を上げた。
「おい! スミレ!」
彼が指で大銀貨をはじいた先に、机につっぷしていた大柄の女性がいた。
ミモザが目をやると、赤い髪が目に入る。
(スミレ色と言うと紫色に近かったはずだけど、これはモロ赤ね)
女は腕だけ上げて大銀貨をキャッチした。
そして片目で手の中を見てから、がばっと起き上がる。
「こ、こりゃ……。一週間は遊んで暮らせる額じゃねぇか!」
筋肉の塊のようなスミレがゴーシュに目を向けると、その目線の先にいる小柄なミモザも目に入った。
(なんだ、こいつ……フードなんかかぶりやがって。気取ってんのか?)
ポリポリと頭をかきながらゴーシュは眉をしかめる。
「一体どういう生活してんだ。せいぜい二晩だろ。そこのねーちゃん、ちょいと危なっかしいから、そいつで一晩護衛してやんな」
「そういうのいいから」
ミモザは二人に顔を向けさえしない。
「おいおい、その手の調査してるなら護衛ぐらい付けた方がいいぞ。それにそいつならガイドだってできらぁ。第一それだけの金額を、情報もくれてやらないでもらうわけには行かねえ」
「付いてこられると、むしろ迷惑」
ミモザはそのまま立ち去ろうとした。
「……まさかおめぇ、自分を囮にしてヤバいヤツをおびき寄せようって魂胆か?」
場末のギルドとは言え責任者なだけあり、ゴーシュはミモザの意図に気付いた。
しかしスミレは空気を読めなかった。
「ちょっと待てよ、オレが迷惑とかどういう事だ」
「あ、いかん」
ゴーシュは慌ててミモザに説明する。
「そいつ腕はいいんだがな、頭がちょいとついてこれないのよ」
「ギルマスまでそんな事を……!」
「なおさら不要」
その言葉にカッとなったスミレは、大銀貨をミモザに投げつけた。
「だったらこんなもんいらねーや!」
「バカっ」
ギルマスはあせった。
スミレはここいらでは怪力で通っているのだ。一般人に当たったらただでは済まない。
投げた直後にスミレも気付く。
「あ…… (強く投げすぎたか?)」
しかしコインはミモザの魔術障壁ではじかれ、スミレの額にぴたりとキレイに張り付いた。
「いてーっ! てめぇっ!」
「そんなのも避けられないで、護衛が勤まるのかしら」
「い、今のは、お前を心配してっ」
ふぅ……と、初めてスミレを見たミモザは動揺した。
(えっ、ちょっとこの人何、かっこいい。でも女性……? ならなおさら巻き込むわけにはいかないわね)
正面からミモザを見たスミレは別の意味で動揺していた。
(うっ、なんだこの柔らかそうな可愛い生き物……人間か? こりゃ放っておけないぞ)
「とりあえずお前ら外に出て話せ。ここであばれるな」
二人は追い出された。
◇
お使いの帰り、ミントの耳にわぁっという歓声が耳に入った。
露天通りの向こう、大通りの方に人だかりができていた。
「何だろう」
店を出たミントは人ごみの中に入ると、小柄な身体を活かして先に進む。
やじ馬の隙間を抜けると、二人の冒険者が相対していた。
「オレのどこが気にくわねぇっつーんだ!」
風格のある大柄な女性が長剣を、赤い鞘が付いたまま片手で振り回している。
防具はライトアーマー。
要所をガードしているが、それなりに露出があった。
メタルグレーの隙間から見える地肌は、健康的な褐色だ。
腰にはもう一振りの剣が、青い鞘に収まっていた。
それらの装備は赤いポニーテールと、精悍な顔立ちによく似合っている。
「どこがと言う事も無いけど……。そうねぇ、第一印象?」
もう一方の女性は、ふんわりした物腰であったが、魔法使いが使う長い杖を凛と構えていた。
水色の魔道士向けのチュニックに、フード付きローブをはおっている。
厚めのローブは淡い水色の布地の上を青い刺繍が走っており、そこにかかる黒髪がつややかに輝く。
やわらかにほほ笑む姿は神々しくもあり、見た者をおだやかな気分にするだろう。……このような状態でなければ。
敬けんなたたずまいから繰り出される挑発は、スミレのいらだちを呼んだ。
「……どんな第一印象だよ」
「うーん、雰囲気がデクノボウ?」
ミントの周りではやじ馬が情報を交換している。
「あの赤い方がスミレって剣士だ。Aランク冒険者だな」
ミントは聞き耳を立てながらも、二人の女性冒険者を交互に眺める。
「黒い方はこの辺の者じゃ無いな。あの姿だと聖魔道士ってところだが、殴りもイケるのかねぇ」
一般的に魔道士の類いは後衛職であり、戦闘能力は低い。
「そうだな、だが荒ごとに慣れてそうに見えるな」
「どっちが勝つと思う?」
「普通に考えりゃ剣士に分があるんだが……。獲物が封印されてるから場合によっては――」
街に入る時、刀剣の類いは鞘に収めた状態で呪符が貼られる。これが必要も無く破られると罰が下されるのだ。魔法に使う杖にも封印が施されるが、単に攻撃魔法を使えなくするだけであり、元々鞘は無い。
「そうだな……ただ、見た感じスミレは蛮族の血が混じってる。おそらく人族の魔道士にはキツいんじゃないかな」
スミレは振り回していた長剣をミモザに向けて止め、両手で握る。
「なぁ、デクノボウってのはどういう意味だ?」
「意味も知らずに怒ってるのかしら」
「悪口だってのはわかる!」
「そう、わかっちゃうのね」
ミモザはにこやかに笑ってみせる。
「てめェッ!」
スミレは一瞬で間を詰め、そのまま長剣をまっすぐに突く。
ミモザは紙一重でかわすと、そのままスミレの腹に蹴りを入れた。
正確には蹴りのポーズなだけで、体技としての威力は無い。
その代わり、身体硬化と立地固定の魔法により、置き物のような状態になっている。
蹴り自体の威力はほぼ無いのだが、スミレの突進の勢いがそのまま当たった場所にのしかかる。
その足技で一瞬制止したかに見えたが、スミレは止まらなかった。
「うるぁぁぁっ!」
強引に力を込めたスミレにより立地固定がひきはがされ、ミモザは後方に飛ばされ、体勢をくずす。
しかしスミレの追撃はなかった。片手で腹を押さえていた。それなりに効いていたのだ。
「やるじゃ、ないの!」
ミモザの身体が一瞬、白く輝く。それを見た観客から声がもれた。
「回復魔法……無詠唱だと?」
「蛮族の剣士相手に、魔法使いが体術で挑むとか無謀過ぎる」
「回復しながら、相手を少しずつ削ろうってことか」
「しかし蛮族は少々の傷なら自動回復するぞ」
「じゃぁ互角ってことか?」
競り合いは続く。
スミレの攻撃は、きまった型が存在しておらず、変幻自在。
ミモザはそれら全てに反応する。かわし、受け流し、そして返し技。
だが、反撃を受けても距離が開かない限りスミレは止まらない。
剛と柔の攻防は、まるで互いに互いを知りしつくしているかのようであった。
「これじゃ、らちがあかないね! ……こいつで決めさせてもらうよ!」
スミレは距離を取ると赤い鞘の長剣から左手を放し、青い鞘の剣をつかんで構える。
「決め技だ!」
「大技来るぞ」
「俺見たこと無いんだ」
「避けろ!」
「見せろ!」
見物する側は大喜びで、騒ぎはいっそう大きくなる。
巻き込まれないように距離を取ろうとする者と、もっと近くで見ようとする者がひしめき合う。
「あらあら、スキル技なら返されないとでも思っているのかしら?」
無詠唱の魔法で強化されているのか、ミモザの杖や身体にいくつもの光が舞う。
その状態から、杖の正面に金色の魔方陣が浮かび上がった。
「こっちも来たぞ」
「魔法でカウンターだと?」
「何をする気だ?」
「見えないって!」
「危ないって!」
観客の盛り上がりもさらに高まって行く。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
スミレが地面を蹴った。
「!」
タイミングを合わせてミモザも前に出る。
それとほぼ同時に、ぎゅうぎゅうに詰まった群衆からミントが押し出された。
「えっ?」
スミレとミモザの丁度中間でひざを突いたミントは、自分の状況を理解し、そのまま地面に倒れ込むと両腕で頭を抱え込み小さくなった。
争っていた二人にとって、ミントが目前に現れたことは予想外であった。
「なっ?」
「あっ!」
スミレは勢いを殺せず、よろめく。
ミモザの視線は、相手とミントを行き来するが、止まれない。
結果、鈍い音と共に三人が折り重なるのだった。
◇
「悪かったな」
スミレは下を向いて頭をかいている。
「ごめんね。 もう痛い所は無い?」
回復魔法をかけ終わったミモザが、優しく声をかける。
「うん、だいじょうぶ……です。お姉さん、ありがとう」
にっこりとほほ笑むミント。
「あーその、なんだ。オレのことはスミレって呼んでくれ」
「そうね、私はミモザ。あなたは?」
「ぼくは、ミントです」
思い切ったように顔を上げ、スミレが提案する。
「で、その……。孤児院のお使いだっけ? 手伝ってやろうか?」
「え? その……。いいですよ、悪いのはぼく……ですし」
「ああ、確かに危ない所で見てたのは良くないが、観客に気を配れなかったのはオレの落ち度だ」
ミモザも乗ってくる。
「そうね、何かさせてもらえないと、私も気が済まないわ」
「うーん、そうですか。お使いはもう終わってるので……。じゃぁ、孤児院にもどったら、まきひろいに行くので、てつだって……もらますか?」
「おう、そんなんでいいのか」
「うん、任せて」
◇
この街は防壁に囲まれてはいたが、北側に山間部があり、北東の端である孤児院の近辺では、壁もそれ程高くは無い。
山に近い壁の外側は荒野となっており、他国から攻め入るルートにはなりえない。
そのため、害獣を入り込ませない程度の意味しか無かった。
町外れの曲がりくねった道を抜けると、壁の手前にある教会と孤児院が見えてきた。
それらの建物は、古くいたる所に傷みが確認できる。
「本当に街のはずれなのね」
「街にはしばらく住んでたけど、こっちはオレも初めて来たぜ」
「じゃあ、背負子を取ってくるので、待ってて……ください」
「おう」
「行ってらっしゃい」
ミントは孤児院に向かって駆けながら、彼女らの戦いを思い出していた。
(スミレさんに、ミモザさん……)
その顔には笑みが浮かんでいた。
「ただいま……」
扉を開けると、きしんだ音がする。
建物の中には机や椅子が並び、その向こうの床で遊んでいた少年少女がミントに目を向けた。
「やっと帰ってきたか」
ミントと同じぐらいの少年が不満げな顔で腕組みをして立ち上がる。
「やぁ、アドニス」
ミントは苦笑いだ。
アドニスはあごを振るように指示を出す。
「次は薪拾いだぞ、もたもたするなよ」
「そうだね。……やくそくは守ってくれているんだよね?」
ミントは部屋の片隅にぽつんと座る少女を見た。
彼女の目は焦点が合っておらず、どことも言えない空中をさまよっている。
「ああ、お前が俺たちの分まで働いている間は、シャンディに手を出さない」
「ならいいけど」
「にしても、あんなののために俺らの仕事まで引き受けるとか、どこがいいんだ」
「そうじゃ無いよ、シャンディが来てからみんなおかしいよ」
「おかしいのはお前の方だ。あいつを見てると、なんかイライラしてくるだろ。みんなそう言ってるのに、何でお前は平気なんだ?」
「わかんないけど、だからって殴ったりは良くない」
「うるせぇ、今はがまんしてやってんだろ。やめたくなったのか? 早く行けよ」
「そうじゃない。……うん。行ってくる」
部屋の片隅には、乾燥した細い枝が積み上げられている。そう、彼らが集めているのは、薪と言っても木材を加工したものではなく、地面に落ちている枝だった。
その上に背負子は置かれていた。子どもに合わせたサイズではあったが、しっかりした作りになっていたそれを背負い、ミントは再び外に出る。
スミレ達と合流すると孤児院の北側に向かう。
その先には裏山へと続く、魔物の出ない林があるのだ。
「なあ、ミント。あの馬車は教会の物か?」
孤児院の裏手に二台の馬車が留められていた。
「うーん、いつもは見ないかな? 何かはこんできたのかも……です」
「そんなにかしこまらないでいいって。冒険者なんて、偉くもなんとも無いんだからよ」
「そうですよー、無理して丁寧に話さなくても、普段通りで大丈夫です」
「うん、はい」
三人で話ながら、林の中を進んだ。
手ごろな小枝は奥の方によく落ちている。
孤児院では、伐採した木材を切断して乾燥させた薪は、注文により届けてもらっている。
子供たちは小枝を拾い、それを焚き付けに使ったり、薪を節約するのに使っていた。
「ねぇ、あの……。冒険者ってどうやったらなれるんですか?」
「お、興味があるのか?」
スミレは立ったまま、まわりを見回して落ちている枝を探していた。
薪として使う物は、落ちてから時間が経ち、乾燥している物が好ましい。
「うん、スミレさんやミモザさんみたいな、つよい冒険者になりたい」
「そうかそうか」
スミレはニカっと歯を見せながら、見つけた枯れた枝をつまむ。
「ぼく、あと二年で孤児院を出るんだ。そしたら、冒険者になるから、色々教えてくれる?」
「いいぜ。鍛えてやらぁ」
「私も、まだ街に居たらお手伝いしますわ」
ミモザはしゃがんで木の葉をかきわけていた。
時間が経った枝は、そういう所にもある。
ただし時化た物もあるので、別の枝で叩いて乾き具合を確認する。
「ミモザさん、どこかに行っちゃうの?」
「そうね。探し物があるから」
「そっかぁ。いっしょに冒険したかったなぁ」
残念そうに言うミントを、ミモザがフォローする。
「どこかの街で会えるかもよ?」
一方スミレは空気を読むことができない。
「一緒に冒険ってのはいいけど、このオンナと一緒はゴメンだぜ」
「私だって……、いえ、私はいいわよ。あなたと一緒でも」
あん? 声には出ていないがスミレの顔はそう言っている。
「テメェは何考えてるかわからねぇな」
「ふふっ! あなただけに任せられないって言ってるだけよ」
「なにぃっ?」
ミントは慌てて間に入る。
せっかく三人でまき拾いをしているのに。
「ねえっ、ケンカはやめてよ。なかくしよう?」
「はぁ、しょうがないなぁ」
「ですわね」
会話をしながら一ヶ所に小枝を集めていたが、腰ほどの高さまで集まったところで作業は終了となった。
スミレとミモザが見守る中、ミントはなるべく大きさを揃えて、いくつかの薪束を作る。
そしてそれを背負子に隙間の出ないよう積んで行った。
「ほう、あの山がこんなにコンパクトにまとまるのか」
「すごいわね。まるで特殊技みたい。もう使えるのかしら?」
「ううん、まだ十歳だから、あと二つだよ」
この世界では十二歳になると儀式を受けるのだが、その時にスキルを授かることがある。
「そう、スキルでなくても十分、採集のクエストに役立つと思うわよ」
「まいにちやってるから……かな?」
毎日、数人分を持ち運ぶ必要があった。
何度も繰り返す内にまとめる作業に慣れ、始めた頃から比べると倍以上の薪を、一度に運べるようになっていたのだ。
◇
ミントと別れたスミレとミモザは、再び連れ立ってギルドの方角に向かう。
「なぁ、ひとつ聞いてもいいか?」
手持ちぶさたなのか、スミレは質問を投げ掛ける。
「どうしたの? あらたまって」
「アンタこの街のヤツじゃ無いだろ。どうして、この街に?」
「あら、あなただって流れ者じゃなくて?」
「そりゃま、そーだが」
少しほほ笑んだミモザは、あらたまったように返答した。
「私はね、あるアイテムの行方を追っているの」
「アイテム……?」
「ええ、『魔人の血』と言われる宝石よ。遺跡からみつかる事のあるアイテムなのだけど、盗難が多発してるの」
「それを持ってるヤツを探して、ここに来たってわけか。そんなのわかるのかい?」
「一般には好ましくない物だからから、持っていても秘密にされることが多いわ。ただ、新たに見つかった場合や、オークションにかけられる場合は別。情報が私の所に届くようにしてあるの」
「それがここにあるってわけか」
「……多分」
「それがどうして、人捜しのまね事みたいな事してたんだ?」
「正確にはソレを狙っている盗賊団を追っているの。これまでの傾向から、どうも現地でもスカウトして人数を増やしているみたいなのよ。だからその手がかりを探しているのだけれど……」
小道を抜けて街の通りに入った時、遠くの方で爆発音があった。
「「!?」」
その方角を見ると、煙が上がっている。
「あれは……」
「領主の館の方よ! 悪いけど、私に関係あるみたい。行かせてもらうわ」
走り出すミモザ。
だがスミレは彼女を追い越し、ジャンプして屋根を使う。
「荒事なら、任せとけって。ひと足先に見て来てやらぁ!」
置いていかれたミモザが、逆にスミレを追う形となった。
「もうっ」
◇
ミントが孤児院に戻った時、違和感を覚えた。
普段なら、扉の向こうから騒がしい声が漏れ聞こえてくるのだが、それが無い。
先ほど院に入った時も聞こえていた喧騒が、今は建物から感じられないのだ。
しかし浮かれていたため、深く考えずに扉を開けた。
「ただい……ま?」
全てを言いきる前に異変に気付く。
院の子供たちは席に座っている。席についている。――いや、席につかされている。みんなの顔はひきつっていた。声を上げずに泣いている子どもの姿も見えた。
奥の方で、うす汚い革鎧を身に着けた男が椅子に座り、ミントをにらんでいるのに気付く。
そちらに気を取られた途端に、後頭部に衝撃があった。
「これで全部かぁ?」
そう耳にしながら倒れ込む。
扉の横に居た者に殴られたのだ。
「くそっ。どうして気付かなかったんだ。助けを呼ぶチャンスだったのに」
床の冷たさを感じながら、アドニスの声が聞こえる。
「ヒヒっ、そりゃ無理さぁ。この建物には結界が張られているからなぁ。音も聞こえない。のぞいても見えないしぃ? 住んでるヤツ以外入る気にならない……」
奥の男の自慢げな解説に注意が入る。
「ジャクタ」
「へい。……じゃあ全員揃ったところで始めますかねぇ」
ミントは意識を失った。
◇