表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/101

14

以下の物語と連動しております。


「GLORIA」

http://ncode.syosetu.com/n8100h/


「愛しき者へ…」

http://ncode.syosetu.com/n0724i/


「早春散歩」

http://ncode.syosetu.com/n2768i

挿絵(By みてみん)

14、

 その夜嶌谷さん宅に泊まった。

 嶌谷さんは俺にとことん甘い。誰よりも俺に居心地のいい場所を提供してくれる。

 グラスを傾けながら、俺の話を美味い酒の肴代わりだとばかりに楽しそうに聞いてくれる。

 相談をすれば客観的視点での的確な指摘や、それでいて俺の心に寄り添う暖かな救いのある道を指し示してくれる。

 慧一とは違った意味で、頼れる指導者だ。


 やわらかいソファにふたり並んで座るのは毎度のことだ。

 嶌谷さんの肩に凭れて俺が甘えるのもデフォ。こうするのを案外嶌谷さんも喜んでいる。

 先日からの行事を嶌谷さんに促されるままに一通り話し続けていた。

 ウイスキーを嗜む嶌谷さんの横で、お酒を飲めない俺は軽いカクテルでマグロのカルパッチョや生ハムをつまんでいる。

「凛ひとりで法事の用意を整えたのか?そりゃご苦労だったなあ。でもお母さんもお姉さんも嬉しかっただろうよ。何より凛の事が一番の心残りだったろうからね…それで、那須のペンションはどうだった?慧一くんと楽しんだのか?」

「…嶌谷さんは俺と慧のことになると声が弾むよね。俺たちがどんなプレイをしたのか聞きたいの?」

「え?…いや、そんなことは…まあそうかもな。何と言っても綺麗に整った男が睦みあう姿は見ていて楽しいだろ?」

「…ヘンタイ…やだね~45も過ぎると恥じらいがなくなって猥雑になる」

「無心になると言えよ。それに慧一くんの苦悩を知っているから、凛を得た彼がどんなに嬉しかろうと考えると、こっちまで顔が綻んでくるんだよ」

「なんだよ、それ。今まで俺が気づかなかったのがアホってゆっている気がするじゃん。それに俺にじゃなくて、慧一寄りってとこも気に入らない。嶌谷さんはいつから慧一贔屓になったんだよ」

「凛の幸せを考えりゃ慧一くんが凛の騎士ナイトになってくれるのが、一番安心なんだよ。凛一は気が多いからね。いいじゃないか。収まるところへ収まったんだから。そりゃ色々隠さなきゃならないことも多いし、腕を組んで公然とはいかないが…」

「嶌谷さん、俺ね、慧一と兄弟っていうリスクや世間のタブーはあるかも知れないけど、俺は宿禰慧一という人間を心から愛しているから、こうなったことを後悔なんかしてない。愛する人と結ばれただけでも幸運だと思っているよ。これから先どうなろうと、俺と慧は離れないって誓いあったんだからね…でもなんだかね…法事で色んな親戚や関わった人達を見て改めて思ったよ。俺達兄弟が愛し合っているというタブーに関して世間的に言えば、この人たちに迷惑をかけないように、色んなものを欺いて、一般的な普通の兄弟としてカムフラージュして暮らしていかなきゃならないんだろうなあって…だって、ふたりきりで生きてゆくわけじゃないもの」

「凛がそれだけ考えていりゃ、大丈夫だ。後は慧一くんの建築家としてのスタンスを確固たるものにすりゃ、あまり問題にならない。宗二朗を見てみろ。家族持ちのクセに男も女も見境なく遊んで、気に入った若い子と仲良く高級ホテルの入ったところをゴシップ誌にスクープされたんだが、反省するどころか、逆に盗撮の軽犯罪行為として訴訟を起こしている。モラルのないあいつの方こそ訴えられるんじゃないかとこちらはハラハラしてしまうがね。別に仕事上ではなんの問題もないらしい。敏腕な弁護士も付いているからな。奥方も心配しているって聞いたが…なんというか…あの人も肝が据わっている」

「その奥さんは宗二朗さんを愛しているのかな?」

「さあ…綺麗で聡明な人だよ。昔の公家の出だっていうから、そういうことに関しては寛容なのかもな…所詮女の気持ちは男にはわからんよ」

「…嶌谷さんも苦労の多い人生だね。もっと楽な人を愛せば良かったのに」

「引き寄せる魂がそうであるなら、逆らえんのさ。宗二朗が…凛が誰のものであっても、俺は跪いて哀れを請うだけさ」

「嶌谷さんの親愛に報える為に…俺、頑張るから」


 翌日、帰り際に体育祭のことを話した。

 前学長から剣舞を習うと言ったら、嶌谷さんは驚いていた。

「そうか…鳴海さん…だったよな。久しぶりに思い出した」

「会ったことあるの?」

「いや、会ったことはないが、ちょっとね。そうか、変な縁があるものだな。おまえが聖ヨハネに入学する時に慧一くんから聞かされて不思議に思ったもんだが…今年の体育祭も楽しみにしているよ。慧一くんが来られないなら尚更だ。みんなを引き連れて行くからな」



 帰る途中、世田谷のミナの実家に寄ってみた。

 突然の思いつきで来た為、案の定、あんぐり口を開けたミナが頬を赤らめて迎えてくれた。

 二階のミナの部屋でうな重を奢ってもらった。

 ミナの部屋は思い描いてたとおりの質素な色で統一され、目障りなインテリアなどはない。ロハス主義ではないだろうが、ミナのセンスの良さが感じられる空間だ。

 それを褒めるとミナは「え?そんなの思ってもみなかった」と、目をパチクリとさせた。

 昼飯を頂いたお礼をと、キッチンに立つミナのお母さんにひとりで声を掛けた。

 すると、彼女は息子がどんな高校生活を送っているのかを聞きたがった。

「あの子はあまり学校のことを話さないから、上手く皆さんと生活しているのかわからないんですよ」

 離れて暮らす子供を心配するのは親としては最もだろう。

 簡単に差し障り無く話してやり、安心させた。

「そうですか。中学の頃よりなんだか明るくなったような気がしてたので、いいお友達ができたのかとは思ってたんですよ。宿禰さんのようなお友達なら母親としても安心です。これからもあの子をよろしくお願いしますね」

 丁重なお願いをされてしまうのも気が引けるが…いやいや、嘘は言ってない。俺とミナがデキてる事以外は。

 まあ、なんにしろ、この親を裏切りたくないミナの気持ちはわかった。

 「親思う心にまさる親心…」ってわけだ。

 口では見縊っているミナの本心は下の句にあるのかもな。


 鎌倉に帰ろうとミナと一緒に駅へ歩いてたら、中学の同級生という女の子がミナに声を掛けてきた。

 ひと目でミナが付き合っていた女子とわかった。

 気が強くて華やかな女だ。こういう女は相手を自分の好みに仕立てないと気がすまないタイプだ。

 俺は後ろに控える彼氏と思われる男子に少し同情した。

 ミナの様子を伺えば、全く動揺する風もなく、心残りも微塵も感じなかったから、正直ほっとした。

 別れた後、ミナを見つめた。

 恋する喜びに輝くまなこが愛おしい。

 指を絡ませた部分から、お互いの愛情を隅々まで巡らせた。


 品川から総武線に乗り換えて、やっと並んで座席に座った。

「二週間も連絡くれないから、リンは俺のことなんてどうでもよくなったのかなって…少し心配した」

 前に誰も居ないけれどミナは小声で俺に言う。

「寂しかったならミナから連絡をくれれば良かったのに…」

 わざとミナの耳元へ息を吹きかけて囁く。

「だって…さ。電話って相手の状況を考えるじゃん。メールは返事が来ないと恨めしくなるし…待ってた方が気が楽だ」

「控えめな上品さはミナのポイントかもしれないが、本当に欲しがるのなら自分から手を伸ばさないと、掴めないよ」

「それはリンにも当てはまるのか?」

「時と場合によるけどね。いつだってミナの手を掴む気満々でいるから、俺に遠慮はするなよ」

「わかった」

 そう言って、俺の手を強く握り締めるミナをどうしたら悲しませずに済むのか…そればかりが胸を締め付ける。



 二学期が始まると三年生はいよいよ受験の臨戦態勢にはいるものだが、その勢いをつける為か、体育祭までは三年生も必死に行事に参加する。

 応援合戦は俺が出るのは他のクラスとの差が出るという事で、特別にひとりで剣舞をすることになった。

 生徒会命令だが、面白そうだからすぐに承諾した。

 幼い頃から古武術はやっていたから、それなりに自信もあったし、滅多にお目にかかれない前学長から指導を受けられるというのも好奇心をそそられる。

 指導の前に挨拶をと、時間通りに校長室に出向いた。

 ソファに座った学長の隣りに前学長の鳴海譲総長が居た。

 遠目には見たことがあるが、こんなに近くで見るのは初めてだ。

 見た目は剣舞なんかしそうにもない優しい上品なおじいさんだ。

 立ち上がってにこりと笑いかけられ握手を求められた。

 なんだか妙に懐かしくて、ひと目で好きになった。




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ