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8

以下の物語と連動しております。


「GLORIA」

http://ncode.syosetu.com/n8100h/


「愛しき者へ…」

http://ncode.syosetu.com/n0724i/


「早春散歩」

http://ncode.syosetu.com/n2768i/



8、

 帰り道、車中での20分もかからない距離が長く感じた。

 お小言をもらう覚悟はできていたけど、宗二朗さんへの辛辣な中傷は黙っているわけにもいかなかったから、俺なりの反論はした。したつもりだが、慧の心配の元は俺の行動に他ならない限り、俺としてはどんなに正論を述べようと、結果が伴っていないことはわかりきっていた。


 アパートに着いて食事の支度をする慧を手伝ったりとするのだけれど、慧の機嫌は良くならない。

 すべてを正直に話すべきではなかったのかも知れない。けれど、話さなきゃ話さないで心残る種が出来る。

 挑発したいからではなく、ただまっさらでいたかった。

 俺は慧との間に隠し事を貯めてはならない。俺が何もかも委ねられるのは慧だけなんだから…


 向かい合って夕食時になって、慧がやっと口を開いた。

 慧は俺が傷心しているのを気遣ってか、宗二朗さんとのことは自分が俺をほおっていたからだと自戒する。


 …そうじゃない。慧はひとつも悪くない。彼は俺を心から心配してくれているのだから。

 俺が宗二朗さんに付いていったのも、宗二朗さんがああいう事をしたのも悪くない。

 だけど俺の存在や行動で慧が傷つくのなら、俺は慧一の傍にいない方がいいのかもしれない。

 だから、

「俺、できるだけ早く日本に帰るね。ここに居ても慧に心配かけるばかりだし、仕事の邪魔にもなるだろうから…」

「凛…」

 俺の言葉を聞いた慧一は思いもよらぬほどに酷く狼狽した顔をした。

 それだけでいい…それだけ俺を思ってくれるのなら、充分すぎるよ、兄貴…


 風呂から上がり、リビングを覗いても慧一の姿は見えない。

 やっぱり許しは早々にもらえそうもない。仕方がない。これ以上俺が傍にいたら、慧一は俺の心配と仕事に追われて、本当にストレスで寝込んでしまうかもしれない。

 俺としてはできれば、慧の誓いではなく、俺への『誓い』を欲しかったんだけどな…


 浴室で濡れるといけないからと外したペンダントを、首につけた。

「大丈夫だ。これくらいでへこたれるくらいなら、初めから慧一を選んだりしない」

 自分に言い聞かせて、携帯を取る。

 嶌谷さんと宗二朗さんへ、心配しないようにメールをした。ついでにと携帯で帰国の飛行機のチケットを予約しても空きがないと言う。

 キャンセル待ちを狙うか。


 することのなくなった俺は仕方なしにベッドに寝転び、灯りを消して窓の外を眺めた。

 窓の向こう、銀河のようにきらめく摩天楼を眺めた。ひときわ高く聳えるエンパイアーステートビルのイルミネーションが見事だ。

 もう暫く居たかったのだけれど…この景色も見納めかもしれない。

 

 ミナはどうしているだろうか…

 もう寮に帰っているんだろうか。

 新学期が始まったら受験一辺倒になってしまうんだろうなあ…

 俺も留学の為に勉強することは沢山あるけれど…

 どの道を選んで良いのか、どれが正解なのか…   

 俺にはわからない。

 ただ慧一の傍にいたい。

 それだけが揺るがない。

 揺るがないクセに俺はどこかでこれを選んだことを、痛みに感じている。

 ミナの所為だ

 俺は…ミナを泣かせてしまう。

 それが…とても怖いんだ…

 だから、慧に抱きとめて欲しい。揺るがない俺の誓いをもっと強固にする為に…


 微かにドアの開ける音がした。そちらに目を向けると慧一が立って俺を見つめていた。

「慧?」

「…ごめん、寝ているのかと思ってノックもしなかった」

「いいよ…ね、こっちにおいでよ。ここから見る景色は日本じゃどこもお目にかかれないほどに美しいよ」

 俺は慧を呼んで俺の隣に座らせた。自然と腕と腕が触れ合うようになる。俺は慧一の肩に凭れ窓の外を見るように指差した。

 

 ふたりで夜景を眺めながら俺は明日帰ることを慧に伝えた。すると、慧は「待ってくれ」と言う。

 俺は顔を上げて慧一を見つめた。

「傍に居て欲しいんだ」と、言う慧が、俺には少しはにかんでいる気がした。


 …不思議な夜だった。

 慧が俺を抱いてくれると言う。

 そんな夢みたいなことがあるのだろうか。

 執拗に俺たちがセックスをすることを恐れ、拘っていた慧一だった。

「凛…しよう」と、彼は言った。


 裸になった俺に重なる慧に「一度きりじゃないよね?これが最初で最後だなんて言わないでよ」と、俺は念を押す。

 慧は笑って、「そんなの、俺の方が持たないさ。おまえへの情欲は飽くこともなく、ただ溺れるだけだよ…」

 そう言って俺の口唇を貪るように口づける慧一は、今までの渇きを俺のすべてで満たすように激しく求愛する。






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