14
以下の物語と連動しております。
「GLORIA」
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「愛しき者へ…」
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「早春散歩」
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14、
夏休みに入り、すぐに八月。と、いうことは慧一が帰ってくる。
それは嬉しいが、慧一が自宅にいるということは、ミナをマンションには呼べないという事だ。
ミナに説明すると、あっけ無い程にあっさりと快諾した。
俺としてはもう少し残念がって欲しかったのに。
居心地良さげにしていたのはデフォじゃなかったのかなあ。
まあ、夏休みでもミナは実家には帰らず、補習に明け暮れるというし、俺も一応補習と部活に毎日通学することにはなるから、温室での逢い引きは確保できる。
近頃は温室での情事が激しくなっている。
最後までやらなくてもきわどい段階まではお互い暗黙の了解済みだ。
もしかしたら、誰かに見られるかも知れないっていうスリル感が、ミナの快楽を大いに高める要素となるのか、えらく感度が良くて、俺の背中に爪を立てることもしばしば。
まあ、それはそれで肉欲に溺れるミナはとてつもなく可愛いからいいのだが、時々、恐ろしくなる。
それは、俺がミナをセックスに塗れさせ、ミナの誠実な部分を堕落させている気がしてならないからだ。
一種の罪悪感なのだろうか。
別にセックスが汚いというわけではないが、ミナの素直な感情と身体は、時々俺には尊く思え、触れるのも気が引ける時がある。それとは逆で、俺の愛撫のひとつひとつに感じているミナを見ていると酷く嗜虐的になり、めちゃくちゃにしてしまいたくなる欲求も沸いてくる。
俺はそれをいちいち自分の中で制御しなければならない。
愛しているからこそ大事にしなければ…
「愛」とはこうもジレンマに陥るものなのか…
俺の中で熱いものと冷たいものが断層のように積み重なっていくようだ。
その時々の間に、俺は少しずつ宝物を隠していく。
いつか誰かが発掘するかもしれない輝きを。
慧一が帰り、一年前と同じような生活を始めると、不思議な事に俺はミナへの爆発しそうな熱情をフラットに近づけることが出来た。
家族と過ごすという安心感なのか、ミナへの執着心が薄れる気がして、俺には幸いな気がした。
夜になっても俺は独りではなく、傍には慧一が居てくれる。
どれほど心強いだろう。
「独りでいると時間って長く感じるけど、慧が居てくれるとあっという間に経ってしまうもんだね。この一年で身に染みてしまったよ。慧が居ると居ないとじゃ天国と地獄だ。昔はそうでもなかったのにねえ~不思議だ」
「凛は我慢しすぎたんだよ。俺の所為でもあるけれど…おまえの思春期に独りにさせた責任は、おまえがその寂しさを感じなくなるまで俺が負うべきものだと思っている」
「…そんなことない。慧には慧の事情があったんだから。もうその事を責めたりしないよ。それに、それがあったから今の俺がいるんだろ?確かに寂しかったけれど…今はこうして傍にいてくれるんだから、十分だ。慧は…自分の幸せを考えた方がいい」
「…わかってる」
「でも…まあ、もうちょっとは甘えさせてくれよ。ここに居る時は、慧は俺のもんだ。…いいだろ?」
「…勿論、とことん甘えてくれ。その為に俺はここに居る」
ソファに座る慧一の膝枕で目を閉じ、慧の手で頭を撫でられると、子猫にでもなったみたいにまあるくなる。
「慧は…俺にどうして欲しい?」
「…どうって?」
「幸せって…なに、かな?」
「…」
「自分が幸せになる事と、愛する人を幸せにする事…どっちが大切なのだろう…」
「…どっちも同じじゃないと正しくはない。だが、誰もが正しい選択はできるもんじゃないさ」
慧にはミナのことはあまり話さない。
慧一が留守の間、俺たちがここでどんな事をしているかは、うすうす感じてはいるはずだ。
だけど、慧一は俺の恋人に嫉妬をすると断言した。
俺も慧に恋人が居たとして、そいつの事を聞きたくはないと思っている。
ならば、気分を害する話題は触れないでおこう。
今になってやっと気づき始めている。
俺たちは普通の兄弟ではなかった。
繫がれた手は離せない。
これはミナとは違う手であるべきだ。
二つの手が引き合ったら、俺はどうするのだろう…
俺の手は二本しかない。
どちらか…選ばなければならない日が来るのだろうか…
俺は知っている。
俺が離さなくても、片方の手が、必ず俺の手を放すことを…
それを考える時、ガタガタと、身体が、震えるのだ…
筆者のBLブログ「auqa green noon」はこちら。
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