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以下の物語と連動しております。
「GLORIA」
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「愛しき者へ…」
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「早春散歩」
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7、
別れはいつも辛い。
空港ターミナルで出発を待つ間、俺は慧の傍から一時も離れられなくなってしまう。
慧もそんな俺に動揺してか、やたらと気を使ってあれこれと喋り続けるが、俺が涙ぐむと、堪忍したのか暫く黙り込んで、ポケットから小さな箱を取り出した。
「誕生日に贈ろうか、今日渡そうか悩んだんだけど…凛の顔を見ていたら…中々渡し辛くなってしまう…誕生日プレゼントだよ」と、俺の手の平に乗せた。
開けてみると、ペンダントだった。星の形をいくつも重ねたデザインのペンダントトップ。
ひとつひとつが銀で縁取られた星に、トルコ石やメノウ、琥珀や螺鈿などが埋め込んである。
「綺麗だ…」
俺はそれをじっと見つめた。
「梓がね…」
「え?」
「生きてた頃、言ってたんだ。何故だかわからないけど、凛が17になったら誕生日のプレゼントにアクセサリーを贈りたいって。なんかね、その時落書きで描いてたデザインがこんな感じだった。凛がこちらに来る前だったかな。ふらりと寄った骨董屋に梓が描いた絵と似たようなペンダントを見つけてね。ブランドはよくわからないんだが、きっと梓が導いてくれたと思って買っておいたんだ」
「…」
「梓が誕生日にって言っていたから、本当はそうしてやりたかったんだけどね…梓が傍にいると思ったら少しは寂しさが紛れるだろう」
「酷いよ…」
「どうした?」
「こんなの見たら、益々慧と離れるのが、辛く、なるじゃ、ないか…」
…駄目だ、とても我慢なんて出来ない。俺はペンダントを握り締めて、ボロボロと泣き出した。
慧は驚いて、俺の肩を抱いてハンカチを渡してくれる。
「凛…頼むから泣かないでくれ。俺まで泣けてしまうだろう…」
「慧が悪いよ。こんなの…俺、日本に帰ったらまた独りで毎日暮らさなきゃならないんだ…わかっているけど…いくらペンダントが梓だと言ってもさ…梓が見守ってくれるとしたってさ…俺に話しかけてくれるわけでも抱いてくれるわけでもないんだよ…俺は独りなんだ」
「…凛…ごめん。悪かったよ。夏休みになったら、すぐに帰るから…だから、泣くな」
「うん…わかってる。わかっているけど…俺、昔はこれくらいで泣きはしなかったのにね。年を取るたびに涙もろくなっている気がする。もう年かな?」涙を拭きながら笑うと「バカ…まだ16のガキのくせに。涙が出るのは、それはきっと凛の心が素直になっているんだ。もっと泣いても構わないと言いたいけど…ほら、そろそろゲートインしなきゃ…乗り遅れてしまうから…ね」
さよならは言わなかった。慧にさよならは言わないって誓ったもの。
だから「行ってきます」と、握手をして慧と別れた。
自宅に帰りついたのは次の日の夕刻だった。時差ボケで疲れ果て、明日は始業式だというのに、俺は途中で買った寿司とワインを腹に入れ、いい具合に酔ったらそのままリビングのソファの横になった。
梓と慧がくれたペンダントを握り締めながら、俺はミナのことを思った。
あの一件以来、ミナとは会っていない。
メールで謝ってはいるけれど、このひと月近くもほったらかしにしたままだ。
確か先月の14日がミナの誕生日だった。プレゼントは買ってはいるが、明日は温室で会えるかな…それとも、もう俺のことなんか呆れ果てて、嫌いになってしまったかも…
「ミナ…俺のものにならねえかな…」
望んだものを口にしたら適うって言ったのは梓だった?それとも慧?
俺には…俺の世界には長い事、梓と慧しか存在しなかった。それは幸福なのかもしれない。愛されている。守られていると感じていられるから。
梓が死んで4年が過ぎてしまった。昨日の事のように思えるのに…
梓が生きていたら、こんなに寂しがり屋にならなくても良かったのになあ…
「梓、ペンダントありがとう…でもこんなのより梓に居て欲しかったよ…きっと、慧もそう思っている…」
「今の俺には慧しかいないけど、俺はもっと色んな人を愛したいと思っているよ、梓。それは正しいことなんでしょう?」
何も言わないペンダントは色とりどりの輝きを放ちながら、俺を慰めるみたいに冷たい肌を俺に寄せた。
翌日、目が覚めたら時計は11時を指していた…こりゃ、自主欠席だな~折角の新学期の最初なのに…去年のデジャブか?などと思っても仕方ない話だ。
まだどこか頭がふらつくのを変に思って、テーブルを見ると何故かワインが空になっている…
気が付かないうちに一本空けてた?…と、思ったら急に吐き気が来てトイレへ直行。
なんてザマだ。俺がアル中になる前に、早く帰って来いっ!慧。
風呂に入って、荷物と部屋の片付け、やっと一服して、旅行の写真の整理などをしていたら、インターフォンが鳴る。宅配かなと思い、液晶画面を見て驚いた。
…ミナだ。
ええっ!なんで?…なんで来るの?
俺の頭はパニックだ。
取り合えず適当な返事をして、マンションのエントランスは開けたが…
予想できない事が起こると人間ってのは、立ち上がってウロウロするしかないんだな。ほら、よくTVで見る、奥さんが赤ん坊を産む時に廊下でウロウロする旦那の図。あれだ!…違うか?
はは…
そんなこたぁどうでもいい。何で今日の今、ここに来るんだ~?
この間の怒りがまだ治まらない?
もしかしたら…別れ話か?そうなのか?
あんなことしたから、もうリンとは付き合えない!って泣かれたりするのか?
玄関でドアを睨んでいると、チャイムが鳴った。俺は急いで玄関のドアを開ける。私服のミナがバックを肩にかけ、コンビニの袋を持って、俺を見つめている。
「…あ…」
何か言おうとした途端、ミナの身体が俺の胸に飛び込んできた。
俺は突然のミナの行動を予測出来ずに、その勢いに押され、思わず後ずさった。
「リン、会いたかった。すごく…」
嘘のような言葉がミナの口から聞こえてくる。
俺に…
会いたかった?
本当に?
俺は俺を見つめるミナの瞳を見つめた。
純粋に俺だけを求める揺らぎを見つけた。
ミナは俺を求めてくれる。
それは俺が求めているものと同じなのかな…
そうであればいい。
そうであって欲しい。
そうしたら…俺は…
俺は…