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5

以下の物語と連動しております。


「GLORIA」

http://ncode.syosetu.com/n8100h/


「愛しき者へ…」

http://ncode.syosetu.com/n0724i/


「早春散歩」

http://ncode.syosetu.com/n2768i/

5、

 さして抵抗もしないミナの意思は、その先を続けてもいいと言うことと見なして、ミナのズボンのベルトを緩め、右手を滑り込ませた。俺はミナの中心をゆっくりと弄ぶ。

 微かな抵抗。だけど、ミナは息を止めながらも俺の手を払いのけようとはしない。今までだったら、キスの先は嫌がって逃げていたのに…と、思うと、ミナにもそれなりの覚悟が出来たということだろうか。

 後ろ斜めから見てもわかるミナの必死な様子。

 目をしっかりと閉じ、口元を少し震わせている。紅潮させた顔がなんだかいたいけで、それでもそんなミナを欲しいと願ってしまうのは罪かな…

「ミナ、好きだよ…」

 耳元で囁き、耳殻を舐める。

 ミナの身体がビクッと震え、そして微かに喉の奥から搾り出すような声が聞こえた。

 始めは何かわからなかったが、それがミナの嗚咽だと知った。


 両手で顔を覆いながら「無、理…だ、よ」と、ミナは途切れ途切れに言う。

 驚いた俺がミナから手を離すと、ミナは力なくその場にしゃがみこんだ。

 泣き崩れるミナの姿を見た途端、俺は物凄い罪悪感に苛まれた。


「ミナ…ごめん。そんなに嫌がるなんて…思わなくて…」

 しゃがみ込んで噛み殺すように泣き続けるミナを、俺は必死で慰める。

「もうしないから、泣かないで…」

 こんな風に泣かせようと思ったわけじゃないんだ、ミナ。

 ミナの艶のある髪を撫でていると、ミナは突然立ち上がり、俺の方を振り返らずに温室から走り去ってしまった。


 俺はその後姿が消えるのを見て、大きな溜息を吐く。

 もう少し上手くやれば良かった…

 そんなことを思っても後の祭りだ。


 寮に行って、ミナに謝ろうと思ってはみたものの、傷ついているのは俺の所為だけじゃなく、これはミナの問題でも有るような気がしていた。

 ミナはこうなることを予想していたはずだ。

 だから俺に身を委ねた…だけど自分でもどうしようもなかった…そう考える方が俺には自然に思えた。

 ミナに何か言っても、ミナのプライドを傷つけるようで、今はそっとしておく方がいいのかもしれない。

 それと同時に…

 ミナも傷ついたろうけれど、結構俺も堪えた気がする。

 …めちゃくちゃ多くもないが少なくもない経験を持つ俺は、ミナ相手になら簡単に陥落させる自信はあったのに…

 あれだけ許しておいて、泣くなんて…いくら怖気づいたからって…

 そこまでセックスに抵抗あるっていうのは、過去に何か拙いことでもあったのか?

 考えすぎると複雑になってくる。


 さすがにその夜の独り寝はむなしくなり、ミナを呪ったが、本物の恋に障害は付きものだと悟り、自分を慰めた。

 翌日は学校でもミナの姿を見かけることなく、温室にも来ないミナを責めたくなったが、夜、メールで機嫌を伺うと「リンが好きだ。でも自信がない」と返事が来た。

 …俺の方がよっぽど…

 などと、枯れた笑いで返したが、これはもう暫く膠着状態でいるしかねえな~と、思い、この問題にひとまず目を瞑ることにした。


 そして、俺は慧一の待つシカゴに旅立った。

 オヘア国際空港に着くまでは、ミナのことが胸につっかえていた気がしたが、空港で待っている慧一の姿を見たら、現金なもので、好奇心に沸き踊り、慧一のアパートに着く頃はミナとの一件はすっかり忘れていた。


 慧一のアパートメントは立ち並ぶビル街とは離れた郊外にあり、想像していたものよりずっと閑静な住宅街だった。

 慧一の部屋もひとりものには丁度良い広さで、ダイニングとリビング、そして狭い寝室があるぐらいだ。

 アメリカといえば、やたら広いテラスかなんかを想像していた俺は、こじんまりとしたその部屋に妙に親しみを覚えた。

 案外と狭いベッドにくっ付きあいながら慧一と眠るのもいい。

「昔に戻ったみたいだね」と、甘えて言うと、「これ以上子供返りしてもらっても俺は困るよ、凛」と、眉を顰めながらも慧は俺の背中を最良の優しさで抱いてくれる。

「慧、大好きだ」

 嬉しさのあまりに無意識に出てくる言葉に、慧は苦笑する。

「俺も凛が大好きだよ」

 極度のブラコンとでも何とでも言え。慧は俺のものだ。

 できるならずっとこうしていたいって言っても…いつまでも慧を独り占めには出来ないんだね、きっと。


 休日は慧一が街の至る所を観光がてら案内してくれるが、慧一が大学院へ行っている間、俺は毎日ひとりで街をふらついた。

 片言の英語でもなんとかなるだろうと思い、近づいてくる外国人に適当に愛想良くしていると、親切なお方は美味しいレストランやら穴場の店を教えてくれるが、たまに危ない奴に無理矢理変な場所へ連れ込まれそうになるものだから、一度は思い切り背負い投げをかましてやったら「Oh!サムライ!ニンジャ!」と、回りから大喝采を受けた。

 それを慧に話すと、慧は青ざめて、二度とひとりで街に出るんじゃない!と、頭ごなしに怒鳴りつけ、次の日から一日の大方を俺は慧一の大学構内で過すはめになった。


 慧一が授業に出ている間、キャンパスをうろついていると、何故か学生達が俺の周りに集まる。

 そんなに日本人が珍しいのかと尋ねると、ビューティフルやらグレートやらグッドルッキングボーイやらオーバーアクションで持て囃すから、俺はいい加減うんざりして、図書館の一室に閉じこもり時間をつぶした。


 約束の時間が来ると俺と慧一は合流し、慧は俺の行きたいところへ連れて行ってくれたり、お気に入りの場所へ案内したりする。

 俺は数多くの教会を見たいと言った。慧一が俺に送ってくれるメールの添付写真の教会をこの目で見ておきたかったからだ。

 別に俺自身はクリスチャンでもないし、学校がミッションだから教会で神父の御託を聞きたいというわけではない。まあ、告解でもしろと言われれば、懺悔することは山ほどあるだろうが…


 他でもない話だ。

 あのゴシックの建築形式に興味があるのだ。

 実際に事細かく見てみると、キリストやマリア像より、日本の仏像の彫刻の方が明らかに神秘的であり象徴としては相応しく思える。十字架に貼り付けにされたキリストを見ても、日本人の典型である無宗教な俺には何の感慨もたらさないということだ。

 しかし、その宗教美の至宝と言おうか…ゴシック建築の厳粛なる秩序、その繰り返されるフォルムの計算しつくした人工的な内陣の美しさはどうだ。

 宗教から生まれたとしても、人間の、しかも優秀なる建築家の厳格と深淵の静謐さを極めたと言ってもいい。

 歴史の浅いアメリカ建築でもここまで尊いものなら、西欧の教会はこの美をどこまで極めているのだろう。


 身廊に立ち尽くした俺は、見事なクリアストーリからの光を浴びながら、胸の震えを止める事が出来ないでいた。




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