4
以下の物語と連動しております。
「GLORIA」
http://ncode.syosetu.com/n8100h/
「愛しき者へ…」
http://ncode.syosetu.com/n0724i/
「早春散歩」
http://ncode.syosetu.com/n2768i/
4、
三月一日は卒業式で、俺も「詩人の会」の代表として、式に出席した。
美間坂さんは、成績優秀者の権威である県知事賞を贈られ、卒業生代表として答辞を述べた。
卒業式後、部活の先輩である桐生さん達に、代表の後輩達はお祝いの詩を贈り、前途を祝った。
桐生さんは美間坂さんが京都の国立大に行かずに、東京に残った事を嬉しそうに話してくれた。
「正直、美間坂が京都に行ったら、俺は別れようと決めていたんだ。遠距離恋愛の頼りなさを俺は知っているからね。美間坂がこちらに残ってくれて一番ほっとしているのは俺だ。この先美間坂以上の奴にめぐり合うとは思えない」
「心から祝福しますよ。美間坂さんは桐生さんのことを本当に愛しているんだって証明したかったんじゃないのかな。で、一緒に暮らすんでしょ?」
「一応ね。それはそれでまた色々と嫌なところが目に付くだろうけど、それはお互い様だ。家族ではないからね。所詮は他人同士。意思の疎通を図りながら、上手くやっていくつもりだよ」
「美間坂さんは元よりアレだが、桐生さんなら大丈夫でしょう。うらやましいなあ」
「宿禰も水川と上手くやっているのだろう?根本から聞いている。水川が君を選ぶとは思わなかったけど、彼は心が強そうだから、宿禰には丁度いいかもしれない」
「なにそれ?俺が頼りないみたいな言い方じゃないですか」
「頼りないんだよ、宿禰は。もし…なにかあったら…まあ、何もないだろうけれど、頼ってくれ。俺は君が俺を知る以上に、君をずっと見てきた。出来れば、君の頼れる先輩でいたいんだ」
桐生さんの誠意の眼差しに少なからず心打たれた俺は、胸が熱くなるのを止められなかった。
卒業の記念にとキスをしていたら、美間坂さんが飛んできて俺たちを引き離した。怒る美間坂さんを無視して、俺と桐生さんはお互いのメルアドを交換した。
ついでにと桐生さんは美間坂さんと俺の携帯を捥ぎとって、勝手に赤外線通信で情報をやり取りしている。
…別に美間坂さんのメルアドは必要なかったのだが…
春休みにはシカゴに居る慧一とひと月ほど一緒に過す約束をしていて、俺はそれを楽しみにしていた。
今まで海外への旅行は何度かあったが、短期間であっても外国暮らしを体験できるわけだ。
出発は春休み前日に決め、終業式を休むことを伝える為に、藤宮のいる部屋へ向かう。
担任の神代先生は相変わらず、当てにならない。定年も目の前だから仕方がない、と、藤宮は笑った。
春休みにシカゴに行くと伝えると、「俺もそのうち遊びに行くから、慧一によろしく言っておいてくれ」と、言う。
「まだ兄貴の事、諦めてないの?」
俺は少々呆れ気味に言う。
「クサレ縁って奴だ。おまえがこの学校に来なきゃ、縁も切れていただろうけどねえ~折角繋がった縁をそう易々と手放すわけにはいかまいて」
「…」
「何だ?言いたいことある?」
「…諦めたほうがいいんじゃないのかなあ~」
「…どうしてだ?」
「兄貴は決まった人はいないって口では言ってるけど、俺は向こうに恋人かなにかいるんじゃないかと思っている」
「…どうしてそう思う?」
藤宮は興味深そうに口端をあげながら、俺を覗き込んだ。
「あれだけ、向こうに居たがるのだって、変じゃないか。日本にだって大学は沢山あるのにさあ。俺と離れたくないって言ってても、結局向こうに帰ってしまうんだから、俺より大事な人が居るって勘ぐっても変じゃないだろ?」
「…凛一は慧一に恋人が居ても平気なのか?」
「平気…じゃないけど、慧が幸せになるのならしかたないよ。本当は知らない人より、知ってる奴の方を応援したくなるけどね、例えばあんたとかさ」
「弟に応援してもらえるのは嬉しいけどなあ。慧一と本気で付き合うとなると覚悟がいる」
「え?なんの?」
「もれなく五月蝿い弟が付いてくる」
「…」
俺は憮然とする。慧一の恋の邪魔になろうとは一度だって思ったりしていない。
「別に…俺は慧の邪魔なんかしない。慧が幸せなら、俺はこれから先ずっとひとりでも耐える覚悟はあるよ」
「…トンだ兄弟だな」
「なにが…」
紫乃の投げ遣りな言葉を問い詰めようとしたが、紫乃は突然眼鏡を外し、そして俯いた額に手を置いた。
「藤宮…」
「欠席の事はわかったよ。たぶん…二年になっても俺が担任になると思うから…何かあったら俺を頼ってくれていい」
「う、ん…わかった」
俺は頭を抱える藤宮を置いて部屋を出た。
放課後、ミナの待つ温室へ向かう。
藤宮との会話がどうも胸のわだかまりになってしまって、消え去らない。慧一のことになると、昔からこうだ。
慧は大人で、恋人がいたっておかしい話じゃないはずだ。なのになんでこんなに苛立つのだろう。
嫉妬には違いない。大事な兄を誰にも渡したくない。それは弟として普通の感情だろう…
だけど、俺は…
「リン、何の本を読んでいるの?」
ミナの声に現実に引き戻された俺は、ミナの姿を目に映した。
俺の大事な恋人。俺にはミナがいる。だから慧の事をああだこうだ言う権利なんてなにひとつない。
慧一にミナのような相手がいたって不思議じゃない。だってそうだろう。あれだけのイイ男を回りがほっとくわけはない。
俺はミナとの会話を続けながら、慧一の事を思った。
ミナが俺の隣に座り、くっ付いてくる。案外甘えたがりだ。キスをするのも慣れて、嫌がらないどころか欲しがる素振りを見せる。
慧ならこんなミナをどうするのだろう…
俺はミナの腰を抱き寄せ、深く口付けた。ミナは戸惑いながらも懸命に応えようとしている。
…このままやってしまおうか。
待て、ここは温室だろう。
初めてやるには精神的余裕のないミナには可哀相だ。
いや、だからこそ燃えるんじゃないか。
待てって、ミナの気持ちが固まるのを待つって約束したじゃないか…
でもミナは…嫌がってない。
欲しがっている?
そうなのか?
…ミナ。