表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/101

15

「ごめん、宿禰。補習が長引いて遅くなった」

息を切らせて胸を押さえる水川を見て、なんだか熱くなった。

「そんなに走ることなかったのに…」

「だって…昼休みも会えなかったから…」

「寂しかった?」

「そんなんじゃないし…」

目線を外して拗ねる風も凄く愛おしくなって、ますますミナに惹きつけられる。本当にこの恋が成就できるなら…俺は何を捨ててもいいのに…とさえ思えてしまうんだから。


「宿禰…なんか元気ないね」

「そうかな…うん、昨日兄貴がアメリカの大学院に戻ったから…それでかな?」

先生達の言葉は俺の中で閉まっておくことにした。

どっちにしろ、ミナに言うことじゃない。

「お兄さん?」

「うん。俺んち、ちょっと変わってて…母親は小さい頃死別してて、親父は長いこと海外赴任だし…あ、今は再婚してて両親揃ってるわけだけど…俺、三人兄弟の末っ子で、真ん中の姉が事故で亡くなって…それで兄貴とふたりで暮らしててさ…一年ほど兄貴とはずっと一緒だったからさ…」

「じゃあ、宿禰はひとりで生活しているの?飯とか家の事とかも?」

「そういうのは、慣れてるんだ。飯も兄貴から結構教わったし…」

「…でもひとりじゃ寂しいだろう」

「ミナが時々俺ん家に来てくれると、寂しくなくなるかも」

「え?宿禰の家に?」

「学校から歩いて15分もかからないよ。今度遊びにおいで、ミナ」

「…う、ん」

どこか戸惑いを見せるミナの態度に、まだまだ道のりが厳しそうだと見せ付けられ、なかなか敵さんも隙を見せないと認識。まあその方が陥落させる気概が大いに上がるっていうもんだろう。

恋愛なんて、戦いに近いのさ。

戦略と時期、それに気合い…だろ?


「怖がらなくてもいいぜ。ミナの了解を得ない限り、俺は何にもしないから」

「…怖がってないし。リンはすぐそういう物の言い方するよね。俺を子供扱いしてさ」

「子供扱いはしていません。純情なミナに敬意を払っているだけです」

「そういう言い方が…もう!リンは勝手なんだよ」

ミナは時折俺の事を「リン」と呼ぶようになった。

俺が「リン」と呼ぶように促しても呼ばなかったクセに。今はそう呼んでくれるという事は…少しは俺に心を許しているのだろう…

そう思うと、暖かい光が胸に射し込んでくる様で、俺は幸せな気分を味わえる。


丁度、夕焼けの赤い陽がミナの身体半身を包んで、彼は尊い者になる。

「ミナ、手を貸して」

俺はミナの手を取って、掌をじっと見た。

赤い光はミナの掌までも赤く、美しく染める。

俺はその掌にそっと口付ける。

「ぎゃっ!」と、声を上げたミナが俺の手にあった掌を身の内に引き戻す。

それにしても…「ぎゃっ」は無かろうぜ。

「な、なにするんだよ!」

「え?キスしただけじゃん」

「き、汚いじゃないか!」

「俺の口唇汚かった?」

「違う!俺の手が…おまえが汚れるだろう?雑菌とか…怖いんだぞ!感染症とか大腸菌とか…」

「…怖くね〜よ、バ〜カ」

「な、なんでバカとか…」

「手にキスしたぐらいでビビるなよ。口同士だったら、雑菌の混じり具合は半端ないぜ。ミナは雑菌が怖くて、俺と一生キスしないつもりか?」

「す、するよ。するけど…今はしないからな!」

「…はいはい、わかりましたよ」

いいムードを作ってやったつもりなのにさ。敵も手強いぜ。

なんでここで意固地になるかさっぱりわからんがな。


苦笑いを浮かべながら、俺はこういう素っ頓狂なミナに惚れているわけだと知る。


「ミナ、今度の日曜、空いてる?」

「え?…うん、予定ないけど」キスした手を擦りながら、ミナは俺を見る。

「じゃあ、デートしようぜ」

「デート?」

「そう俺たち付き合っているんだから、デートしなきゃな。おまえの行きたいとこ連れて行ってやるからさ。どこがいい?映画でも観る?それとも夢の国?水族館?動物園?あ、渋谷で買い物でもいいぜ。奇をてらって温泉って手もある。ミナ、どれがいい?」

「…」

「ん?」

「考えとく…」

「じゃあ、その時は…キスをしよう。勿論口同士でな」

「…そんなもん…予定に入れるな」と、剥れながら目が嬉しそうなんだよ。


楽しいデートにしようぜ、ミナ。

そして素敵なキスを。なっ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ