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水川にも会えず、電話をするも呼び出し音ばかりが鳴り続ける。仕方ないからメールで簡単に事の次第を説明する。

こんな事で終わりにするわけにはいかなくなっているのは、俺の方だけなんだろうか。


マンションに帰ってみると玄関の鍵はかかっていない。慧一が帰って来ているのだろう。

入ってリビングに向かうが姿は見えない。慧一の部屋にも…居ない。

どこに行ったんだろうと自分の部屋に入ると、慧一は俺のベッドを背に床に座り込んでいる。

「慧…」

「お帰り、凛」

「どうしたのさ。こんなところで、昼寝でもしてたのか?」

「寝れないよ。おまえをあんな気持ちにさせたままにして…すまなかったよ」

「もういいよ」

慧一の隣に同じように座り込んで、そのまま慧の肩に凭れ掛かると、慧は俺の頭を撫で、引き寄せた。

「凛を寂しい目に合わせないって誓ったのにな…ゴメン、黙っていて…」

「慧は俺のことを思って秘密にしていたんだろ?もういいって。それに、あんまり傷ついてないよ、俺」

「本当か?」

「うん…兄貴の恋人が藤宮ってのは驚いたけどね。慧の趣味はもっとかわいい子だと思ってたもん」

「あいつはあれで結構かわいいんだよ…もう終わったんだけどね」

温室で藤宮と手を結んだことは黙っていよう。お相子だよ、慧。

「…本当に…もう好きじゃないの?藤宮の事」

「…好きだよ。でももう付き合えない。恋人としても友人としても…俺の勝手な我儘で別れたんだ。今更あいつに償えない…昔には戻れないよ」

「別れた原因って…俺にもあるよね」

「おまえにあったとしても、それを選んだのは俺だし、自分の為にあいつと別れたんだよ。凛が責任を負うものは何も無い」

「…ひとりは寂しいよ。藤宮だって…」

「凛一、もう言うなよ。俺たちは大人で…だから一人で寂しくても我慢はできるんだよ。だけどおまえはまだ子供なんだから、我慢しなくていいんだ」

「姉貴は俺にいっつも早く大人になれって言ってたんだぜ。俺、結構大人なつもりなんだけどな」

「…だから寂しい思いさせてしまったんじゃないか。俺は凛に対して後悔ばっかりだよ。もう二年して大学院を修了したら、おまえの傍から離れないからな」

「その時は俺も大人になるから、心配しなくていいって…」

「俺はいらなくなる?」

「違う、俺に責任を感じなくていいって事だよ。慧はもう充分償ったよ…」

「そうかな」

「でも…明後日行っちゃうから…正直寂しいね…」

「うん」

「ねえ、慧。添い寝は頼まないからさ、ハグさせてよ」

「いいよ…」

慧一の膝に乗っかり、俺は慧の背中を抱きしめる。又ひとりになるかと思うと寂しさが募って胸が詰まる。

「キスしていい?」お互いの額をくっ付けながら、慧の瞳を見る。

「この間みたいに舌入れるなよ。おまえ、寂しくなるとすぐ入れるクセがある」

「今更なんだよ。昔からやってたじゃん」

「大人になったらやらないもんだよ」

「慧、優しいからさ…慧とすると安心するんだよ」

「だから子供なんだよ、凛は…」言葉が終わる前に俺は慧に口づける。歯列をなぞりそのまま舌を入れて絡み合わせ、慧を味わった。

「…んん…」

小さい頃から慧一と梓は俺のものだと思って生きてきた。

だからこんな風に抱きしめたりキスするのは親愛を分かち合う触れ合いっていうのかな、確認みたいなもんだ。

性的なもんは一切ない。だってこんなに舌を絡めても全然勃たないもの。


長いキスの後、慧一はなんだか寂しげに微笑んだ。

「暫く会えなくなるけど、俺のキスが欲しくなったら学校辞めていつでもシカゴに来るんだよ、凛」

「うん、そうならないように恋人を作るよ」

「例の頭が良くてかわいい子か?」

「まあね、巧くいったら慧にも見せてあげる」

「楽しみにしてる」


夕食を食べて風呂から上がったら、携帯の着信の光が点滅していた。見ると水川からだった。俺は急いで電話を掛ける。

『…もしもし』

「ミナ?」

『うん』

「電話くれたんだね。ありがとう。今日は悪かったよ。せっかく昼飯用意してくれてたのに…キスの事は…」

『根本先輩から聞いたよ。あの人はいつもああなんだ』

…判ってるなら逃げなくてもいいだろうよ。

「ミナ、明日会えない?話があるんだ」

『…うん』

「放課後、温室で待ってるよ。いい?」

『わかった。俺も……行くよ、絶対』


翌日の放課後、温室に行くと、水川はもう来ていた。

俺を見ると初めて会った時の驚いた顔で迎えてくれた。

「すっかり忘れて、遅くなったけど…これ、ありがとう」

俺は出会った時に貸してもらったハンドタオルを返した。

「…おれも忘れてた」ミナはクスリと笑って受け取った。

「話があるんだ」

「…なに?」

「前に…言ったこと。友達としておまえと付き合うみたいなこと言ったけど、そんな嘘をつくのは止めにするよ。俺はミナを友達として見れない」

「…」

「ミナに触れたいと思う。キスしたい、抱きしめたいと思う。セックスしたいと思う。勿論強引にせまったりしない。一方的な想いを押し付けるなんて迷惑なだけだからな。でも俺がこういう気持ちでいる限り、ミナがその気持ちを受け入れられないなら…こんな風に会ったりするのは止めようと思う」

「…」

「勝手な言い分でごめんな。このままおまえの傍にいると、俺、本気でおまえの事を好きになってしまいそうなんだ。だから…自分が傷つく前に白黒はっきり決めようって…おまえもその方が傷つかなくて済むかなって…」

「宿禰って…本当に勝手なんだね」

「え?」

「おれの気持ちとか考えないで、勝手に決めて…おれだって迷ったり悩んだりしてるよ…傷つかないとか…もう遅いよ」

「ご、めん」

「宿禰のことを他の友達のように思ったりできないんだ。だからっておまえとキスしたり…抱き合ったり…そんな事、今のおれは考えられない」

「わかるよ」

「だから…だから結論はすぐには出せない」

「…」

「でも、おまえを知らないままの自分には戻りたくない。もう戻れないと思う」

「ミナ…」

「だから…待っててよ。おれが…リンを…好きになるまで…」

「…わかった」

「…いいの?」

「断られなくてほっとしてる」

「リン…」俺の目を見つめるミナの瞳に翳りはない。


ミナの右手を手に取って、その甲を見つめた。

俺の書いた何時ぞやの友達としてのアドレスは勿論消えてしまっている。

白く細い骨の突き出た手に青い血管が浮き出ている。

俺はミナの中に光を見つけている。

俺の「好き」の想いは正しい光を持って輝いているだろうか…

ミナの輝きを妨げたりしないだろうか…


「ミナ、好きだよ」

俺の告白にミナは少しだけ笑った。

ミナは輝いている。まだ何も混ざっていない無垢なる輝きだ。

俺はこの光を汚さずに導けるのだろうか。

導きたい…手を取り、光を目指して導いてゆきたい。



…花咲き 鳥が舞い 光溢れる空の下で 笑う君を見つめる僕は 

ちっぽけなただの愛する者になる…


それが僕の願い…




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