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夏休みも中盤に入る。

月村さんの身体の痛みは日増しに酷くなるばかりだ。

特に左腕の肘の関節が痛むらしい。しきりに腕を切ってしまいたいと叫ぶ。

いっそのこと医者に診て貰った方が、本人が楽なんじゃないかと勧めるが、月村さんは頑として聞く耳は持たない。

そのくせ俺に救いを求める。

「凛一、救ってくれ。頼むから…」と、俺の足元で懇願する。

俺に何が出来る?

…こっちが聞きたいぐらいだ。


俺はその晩、月村さんに絞め殺される夢を見た。


明くる日、月村さんは気分がいいからとひとりで買い物に出かけた。

夕刻に戻ると「凛一、今日は気分がいいからステーキだ。ワインも買ってきたし、豪勢なディナーにしよう」と、鼻歌交りでキッチンに立つ。

その割に折角の高い肉には手を付けないで、ワインばかりを口にする月村さんに文句を言いつつも、機嫌のいい月村さんは久しぶりだから、こちらもつい飲み過ぎて酔いが回って、いらぬことを口にする。


「まるで最後の晩餐のごとく…だね、月村さん」

「今日は安息日でもないだろうがね」

「月村さんはキリスト役でもするといいよ。受難が似合いそうだ」

「俺に似合いなのは裏切り者のユダだろう。凛一こそ、すべての罪を担う救世主になれるぞ」

「ユダは…キリストを愛しすぎた。他の弟子よりも遥かに人間らしい愛でキリストを縛りつけたかった…確かに月村さんらしい。嫉妬と独占欲は人間の根源でもあるよね」

「…君は何を教わってきたんだ?よくそんな捻じ曲がった理屈を考えるなあ」

「ちょいと育った環境が人様とは違うんですよ…それにしても…飲み過ぎたのかなあ…俺、眠い…」

さっきから欠伸が止まらないでいる俺を見かねて、月村さんは何故か不安そうに見守っている。

「…先にベッドで休みなさい。後片付けはしておくから」

「いいの?…じゃあ、お先に…」

「おやすみ、凛一」

まぶたが重くて仕方が無いまま、俺は寝室に向かった。

手を振る月村さんの笑顔に見送られながら。


いつものように裸になって、ベッドの毛布に潜り込んだ。

まどろんだ中、遠くから月村さんのピアノが幻想のように聞こえてきた。

「Alone again」…月村さんはよくこの曲を弾いてくれる。

梓から教えてもらった曲は、今や俺と月村さんのものになったんだね。


Who if He really does exist

Why did He desert me?

In my hour of need

I truly am indeed

Alone again, naturally…




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