表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/50

風の精霊と、竜巻と砂嵐

 真っ白なウサギの姿をしたトムの精霊は、震えながら小さな口を開く。


『デ、デイジーじゃん、生きてたの?』

「そう、まあ。こうして話すのは初めてね。あなたのお名前は?」


 トムとは長い付き合いだけど、以前は他人の精霊の姿を見たり、話をしたり出来なかったから、新鮮な気持ちだった。でも向こうからはずっと私が見えていたし、このいたずらウサギにスカートめくられてたんだなと思う。かわいいような、憎らしいようなウサギは長い耳を神経質そうに動かす。


『ていうかさ、精霊の女王になってる! デイジーの精霊が大精霊?! やばい、めっちゃ隠されてた』

「いいから。名前は?」

『ミリカだけど? こわっ、睨まないでよ!』


 ミリカは私の視線を避け、真っ黒な瞳はカンパニュラに向けた。でも、カンパニュラに太い牙を剥き出して睨まれて白い毛並みが膨れ上がった。


『……新しい大精霊の見た目こわ! 雪豹じゃん! でも私は大精霊でも言うことなんて聞かないんだから! トムが大好きなんだから! トムをぜっったい殺さないでよ、殺したら魔獣になってあんたら呪ってやるから!!』


 好き勝手に主張し終えると、ミリカはふっくらしたお尻と丸い尻尾を向けて、跡形も無く消えた。トムのところに戻ったんだろう。


「……トムの精霊による偵察みたいです」


 訳がわからず、黙っていたオスカーとザシャさんに説明をした。ザシャさんはうっすら精霊が見えるけど、オスカーにはちっとも見えてなかったから、私が地面と話しているように見えたかもしれない。


「ふうん。まあ予想はしてたけど、デイジーの生存ばれちゃったじゃん。どうするの?」


 オスカーはやれやれといった感じで首を振る。


「構いませんよ。昨夜心が決まりました。私はトムをボコボコにしてやります」

「おおっ!やっと覚悟を決めれたの?おめでとう」

「いいと思うよ」


 私の暴力的な発言に、オスカーとザシャさんは笑った。冗談だと思っているのかもしれないが、私は本気だ。


『漲ってきた。今までは、トムに手出しするなとデイジーが言うから何もしなかったが、ついに目にもの見せてやれる』


 カンパニュラまで、瞳孔を大きくして興奮した様子を見せている。普段から太い尻尾が、毛が逆立って更に太くなっていた。


 しばらく進むと、森が突然に途切れた。恐らくトムの仕業だ。木々は根こそぎ倒され、どこかへ飛ばされていた。茶色い荒れ果てた大地が続く。


「見晴らしがいい。隠れて近づけないようにされてしまっているね」


 ザシャさんが周囲を警戒をしながらそう言った。


「カンパニュラ、ザシャさんを守ってね」

『わかっている』


 そして急に風が強く吹き付けた。砂嵐で霞んだ遠くに聳え立つ、バランスの悪い山が見えた。あれが、トムが風で山肌を切り取って籠城している崖だろう。


 乾いた土から、絶えることなく砂埃が舞う。不意に何も見えないくらいに砂嵐がひどくなった。私たちは背中合わせになって、口を覆うしかない。


「トム……トムが来てる」


 さっきのミリカの気配が近付き、トムが風に乗ってやって来たのだとわかった。トムだけじゃない、トムの思想に同調した反乱軍大勢も向かって来ているようだ。地面を踏み鳴らす振動と、盾や刀剣の金属音が聞こえた。


 私たちは、砂嵐に乗じて完全に取り囲まれた。砂が落ち着き、見えてきた人数の多さに、僅かに緊張する。


「よお。デイジー。本当に生きてたんだな」


 集団の奥から、トムが口元を覆う布を外しながらゆっくり歩いてきた。

 トムの顔は、最後に見たときより少し痩せていた。でも癖のある茶色の髪や、私を見下す目付きは相変わらずだ。砂がトム自身の目にも入って痛いのか、やけに充血していた。


「もう二度と会わないつもりだったけど、トムがあんまり周りに迷惑かけるから、止めに来たわ。反乱なんてやめて」


「はは、すげえ偉そう。ミリカから聞いた。精霊の女王だ、大精霊だ、と鼻高くしやがって、女王気取りで男を二人も連れてよお!髪もきたねえし、心もきたねえ女になったか?」


 後ろで、ザシャさんとオスカーが呆れたように小さく何かを呟いた。慣れない人からしたらトムの口の悪さに驚くと思う。トムはずっと私の金髪を頭悪そうなどとバカにしてきたけど、栗色に染めている今も罵倒してくる。でももうトムが何て思おうが、どうでもいい。


「……勝ち目のない戦いだって、わかってるんでしょ?戦わずに投降してくれるなら、少しは罪が軽くなるわ」

「お前みたいな嘘つきの言うことなんか信じねえよ、俺との婚約に頷いたのも嘘、遠くの街で死んだふりしたのも嘘、嘘ばっかりだ」


 トムが後ろ手に合図を送り、後方にいる反乱軍の人たちはじりじりと移動する。トムの精霊ミリカは姿を消していて何をするかわからない。トムの血走った目が、まばたきもしないで私を睨み付けた。


「全部お前のせいだ。お前のせいでみんな死ぬ」


 言い返そうとした瞬間、倒れそうなくらい強風が吹き付け、砂で何も見えなくなった。風の渦によって私は上空まで飛ばされる。カンパニュラが慣れない風を操って掬い上げてくれたらしい。くるくると回ってしまう。目を回しながら、私はとても高い空中に浮いた。辺りには竜巻がいくつもあった。


「カンパニュラ!風を!」

『わかった』


 カンパニュラが風の塊を作り出し、竜巻にぶつけて相殺しようとした。風なので、よくは見えないけど当たったんだと思う。でも砂が信じられないくらいに舞って、ひどいことになった。世界は暗い黄土色に染まり、何も見えない。


 ――ちょっと失敗したね。どうしよう


 砂が口に入るので、心の声でカンパニュラに問いかける。


『固めるにも舞ってるとなあ。収まるのを待つしか』


 遠くから微かにオスカーの文句みたいな声が聞こえて、シャワーのような雨が降り注いだ。オスカーが水の精霊、ブローディアに指示を出して、水を細かな粒状にして降らせたのだろう。濡れたことでようやく砂嵐が収まり、騒乱の中に、指示を出すトムの姿を見つける。


 トムの率いる反乱軍は、ザシャさんやオスカーに一斉に襲いかかっているが全く心配なさそうだった。


 ザシャさんは手ぶらで来たものの、相手から槍を奪って次々と敵を薙ぎ倒している。長年、巨大猿の魔獣と戦っていただけあって、ちょっと普通の人間を超えた強さだ。一応、カンパニュラに頼んで常時風の鎧を纏った状態にしてもらっている。


 オスカーは運動なんてしたことなさそうな細めの体型をしているけど、精霊士なので何もしなくても身体強化されている。そしてブローディアとの息の合った連携で、相手の足元を凍りつかせたり、氷の礫を放ったりと、簡単に制圧していた。


「私もやってやるわ」


 私の心を読んだカンパニュラが風を操り、豪速で私をトムの元へと送り出す。ごうごうと、耳の近くで風が唸った。流れ星のように落下して、拳を固く握りしめた。


「トム!勝手に私のせいにしないで!トムがやってることなんだから全部トムの責任でしょ!!」


 落下と追い風で、速度と体重の乗った私の拳が、トムの風の鎧を貫通して、したたかに顎にぶち当たった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ