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戦いへ

 王都を出て、私たちはなおも移動を続けた。本来の目的であるトムを止めるためだ。


 これはトムの作戦なのだろうけど、トム率いる反乱軍は、わざと王都から離れていっている。大規模な軍隊から逃れるためだろう。


 ついに宿屋など一切見当たらない、手付かずの森が広がる国境近くまで私たちはたどり着いた。トムには明日、追い付けるはずだ。


「今夜は、ここで休もう」

「了解。ついに僕も野宿だ」


 ザシャさんの発言に、オスカーは笑って答える。オスカーは5年も製薬研究所の地下にこもっていたので、野宿は引きこもり卒業の証と言えるかもしれない。


「よし、じゃあやってみようか、ブローディア」

『わかったわ』


 軽快に馬車を飛び降りたオスカーの後に続き、水の精霊で三毛猫姿のブローディアがぴょんと降りる。


「この辺に……こう、お願い」

『こんな感じ?』


 オスカーが長い腕を広げて半球形を描くと、ブローディアは意思を汲み取り、氷で出来た建物を造り出す。今夜の宿というわけだ。ブローディアが維持しているので、氷点下でもない過ごしやすい気温でも氷は溶けない。


「すごい、これなら足を伸ばして眠れそうだね」


 ザシャさんがパチパチと手を叩いて賞賛する。でも、私とカンパニュラ組だって負けていられない。


「カンパニュラ、お願い」

『うむ』


 めきめきと地面が盛り上がり、四角い土の家が誕生した。でも土はちょっと地味かな、と私は思ってしまった。カンパニュラが私の心を読み、土を超圧縮する。石にしてくれようとしたんだろう。しかし、圧縮をかけすぎたのか赤熱した、溶岩の家みたいにものになった。触ったらどう見ても火傷しそうなので、カンパニュラは水を発生させて冷やす。でも水はあっという間に蒸発するばかりだ。霧と言っていいくらい辺りは水蒸気に包まれる。


 大精霊となったカンパニュラは最早どの属性の力も使えるのだけど、まだ少し扱いに慣れていない。


『うーむ、調整が……』

「ザ、ザシャさん、どうですか?この家、素敵ですよね?!氷の家と違って寒くないしいいですよね?」

「……うん。かっこいいよ。でも、女性と同じ部屋で寝る訳にはいかないからね。俺はオスカーと一緒にあっちで寝るよ」


 ザシャさんに、灼熱の溶岩と怒涛の滝を楽しめる家の宿泊を勧めるも、さらっと笑顔でかわされてしまった。というか部屋かなこれ?


「だよね。男3人、何もなく仲良く寝るよ」


 オスカーは御者さんとザシャさんを氷の家に引き込み、こちらを向いて満面の笑みを浮かべる。勝ったつもりか。


「ふん、いいですよ、ごゆっくり。私にはカンパニュラがいますから!」


 やっと落ち着いた石の家に、私はカンパニュラと入る。まだ余熱でほんのり暖かくていい感じだ。カンパニュラが生やしてくれた、クローバーなどの草の絨毯に、久しぶりに私は寝転がる。草の絨毯で寝るのは故郷のフューゼン村を飛び出した日以来だ。


「ふう」


 すかさず横に来てくれたカンパニュラの長いお腹の毛に私は甘える。カンパニュラの雪豹の毛皮は、いつでも温かい。冷えて固まった溶岩石の天井を見上げる。


「ねえカンパニュラ、前から聞こうと思ってたんだけど、私を何歳から知ってるの?」


 カンパニュラは私の前に現れたのは2年前、16歳のときだけど、現れるまで時間がかかってしまったと以前、話していた。カンパニュラの精霊としての力が足りないと出てこられないらしい。


『恥ずかしいから言いたくない』

「なにそれ!私の心は覗き放題なのにずるい!」

『そう言うな。とにかく、小さい頃からデイジーをずっと見ていたんだ。大きくなったな』

「小さい頃からねえ……」


 子供時代はとことん恵まれなかったけど、一緒に胸を痛めてくれたのかなと、カンパニュラのふかふかの胸毛を撫でる。


『そうだ。デイジーには私がいてやらないとダメなんだと頑張ったよ』

「精霊って、そういうちょっとダメな人間が好みなんでしょ」

『言われてみたら、そうかもな。デイジーに対して、自分が何か、どうにかしてやりたい、というのが全ての始まりだった』


 あくまで冗談で言ったけど、カンパニュラは否定しなかった。太い尻尾を、物思いに草の絨毯に打ち付ける音がした。


「きっかけなんて、深く考えること……ないかもね」


 尻尾のリズミカルな音を聞きながら、私は眠気を催した。


『そうだ、デイジー。勝手に生きていいんだ。皆それぞれ意思を持つのだから。神はそれをお許しになっている』


 何だかカンパニュラが難しいことを言うのを、私は夢うつつに聞いた。うん、私は好きなように、後悔ないように、トムを殴ろう。それが一番いいなって初めてわかった。


 ◆



 翌朝、軽い朝食を食べて私たちは出発した。森の中の道なき道ではあるが、カンパニュラが道を整備してくれるので馬車は滑らかに車輪を走らせる。


「おぉーい」


 男の声が聞こえて馬車の窓から身を乗り出すと、ベルストク帝国の旗を掲げる軍服の一団を発見した。御者さんが速度を緩め、停止する。ザシャさんから聞いていた、ベルストク帝国の斥候組だ。トム率いる反乱軍の偵察をしてくれている。


「遠路ご苦労様です、私は第7師団隊長、ローマン・フリックであります!!」


 代表してフリック隊長が、歯切れよく太い声で自己紹介した。30代くらい、目が大きな人だ。ただ顔の全貌は潜伏用にか、茶色く塗られているのでよくわからない。その後ろに同じような格好で4人ほどいるが、隊全体ではもっといるのかもしれない。今もどこかに潜んでいるのかも。


「そちらこそ、長い任務ご苦労様。こんな何もないところでは不便も多いだろう」

「いえ、任務でありますから!!」


 ザシャさんは慣れた様子でねぎらいの言葉をかける。ベルストク帝国は何度も戦争をやっているので、ザシャさんも魔獣に呪われる以前の戦争には、司令官として参加していたらしい。


 フリック隊長は、ザシャさんの後ろに立つ私とオスカーをちらちらと見てくる。

 精霊士二人を以て、トムを捕縛すると彼らには伝えてあるが、私たちはどう見ても戦闘向きじゃない。オスカーなんて色白で、絵画から飛び出てきたみたいに顔が整いすぎているし、私は私で、何でもない娘に見えると思う。


 トムの位置情報について、フリック隊長はザシャさんに報告をする。現在トムは別動隊と抗戦した結果、切り立った崖の上にいるらしい。風で山を切り崩し、誰も登れないような険しい崖になっているという。


「そうか。馬車に、新鮮な果物が積んであるから隊の皆で食べてくれ。ここからは、3人で向かう」

「はっ!ありがたく頂きます!ご武運を!」


 果物は朝に、差し入れ用にとカンパニュラに生やしてもらった。フリック隊長はビシッと敬礼をした。こういうとき、何と言ったらいいのかわからない私とオスカーは、ザシャさんの後に続いて、ただ黙ってついていく。



「……崖の上だって。面倒だからさ、トム含めて全員氷で閉じ込めちゃおうか?凍らすのが短い時間なら、多分蘇生すると思うよ。前、魚でやったことある。その後、おいしく食べたけど」


 フリック隊長らと十分離れてから、オスカーが変な作戦を提案した。


「またオスカーはそんなことを……崖なんて、カンパニュラがじわじわ崩せば大丈夫です」

「その間に、トムの風の刃が飛んでくるから」

「それも風で対抗します」

「うーん、微妙だな。大量の水で流すのは?」

「周りの人が溺れたら可哀想じゃないですか……」


 オスカーと言い合っていると、道の脇からウサギが飛び出してきた。真っ白な毛並みで、震えている。


『トムの精霊だ』


 カンパニュラが落ち着き払った声で言った。

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