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宝石店

 研究所の敷地出て、歩くことしばし。ある程度人がいるので、そんなに本気で走る訳にもいかず、小一時間くらい歩いて私は宝石店にたどり着いた。宝石を現す絵の入った看板があって、石造りの堅牢な建物だ。鉄製の重い扉を開けて中に入る。


「こんにちは」

「いらっしゃい」


 店員さんは50代くらいの、がっしりした体格の男性だった。顔には黒いアイパッチをしている。


「ペリドットの原石の買い取りをお願いしたいんですがこちらでやってますか?」

「もちろんです。見せて頂けますか?」


 カウンター越しに店員さんは笑んだ。その笑い方はニヤッという感じで、宝石店というより武器屋の方が似合いそうな雰囲気だ。偏見だけど。カウンターの下には武器がいっぱいありそう。


 私はトランクに詰めてきた原石を、カウンターの上にゴトゴト並べた。とりあえず4つ持ってきた。


「おお、こんなに。見事なペリドットですね。どこで採掘されたんですか?」

「フューゼン村の私の畑で、地割れが起きまして。そこで見つけました」


 カンパニュラと事前に相談した、当たり障りのない採掘場所を答えた。精霊のことは家族以外に口外禁止と、製薬研究所でも注意されている。


「幸運な方だ。少しお待ちを」

「はい」


 店員さんは、単眼の拡大鏡を、見えている側の目に当てて鑑定しだした。それから少し削ったり、秤で計量をして、紙に何やら書きつける。


「お待たせしました。10万ディレートでいかがですか」

「……っ、はい」


 思った以上の高額で息を詰まらせつつ、私は何度も頷いた。製薬研究所のお給金2ヶ月分だ。確かにもう働きたくないなと思ってしまった。カンパニュラに怒られそう。


「こんなに大きくて不純物の少ないペリドットは珍しい。それに、最近人気があって高値なんですよ」

「そうなんですね」


 よくわからないけど、ツイてた。私はトランクから、原石をもうひとつ取り出した。私の瞳の色に似ているものだ。


「あの、10万ディレートから引く形で、この原石の加工をお願いできますか? 今は手持ちがないんですけど、自分用にしたくて……」

「おや、あなたの瞳の色ですね。とても綺麗です」


 店員さんは流石に褒め上手だった。でもお世辞とわかってても顔に血が集まる感じがする。


「部屋の飾りと、指輪に加工したいんですが」

「お部屋の飾りですか。豪華ですね……六角柱にカットして、金の台座をつけましょうか。指輪は、デザインのサンプルがあります」


 素早くカウンターの下から、浅い箱が出てきた。武器じゃなくて本当にアクセサリーがあったらしい。様々なデザインの指輪が整列している。


「どういったものがお好みですか?」

「ええと……迷いますね」

「石が黄緑なので、指輪に使う金属はやはり銀より金がいいでしょうね」

「そうですね」


 それには異論がない。少し高くついても、後悔しないものにしたい。店員さんは大きな紙を取り出し、細い木炭でさらさらとデザイン画を描き出した。


「お客様の瞳の色ですから、ペリドット自体は球形が良いでしょう。表面に輝きを増すカットをつけて……固定する爪はエレガントに4つ……まだお若くていらっしゃるので少し自然のモチーフを入れましょう」


 私は何も言っていないのに、どんどんデザイン画が進んでいく。すごい人だ。


「葉……生命……そういった雰囲気がお客様から感じられますね。ですので、ここをこうして……いかがですか」


 この人は占い師なのかな?と不思議に思う。見せられたデザイン画は、ペリドットを取り囲むように葉を思わせる曲線が優美に描かれているものだった。かわいいと思う。


「すてきです。こちらでお願いします」

「ありがとうございます。では、こちらの代金を引いた金額で、支払うお金を用意しますね」


 店員さんはまたニヤッと笑った。





「結局、半分の5万ディレートになっちゃった……まあいいか」


 10万ディレートから加工費用を引いたらそうなった。でも相場が私には全くわからないし、とりあえずこれで生活費には困らない。店員さんに、帰り道には気を付けてと再三言われて宝石店を出た。



「あとは、ベッドを買わないとね」


 新しい生活って大変だなあと人混みの通りを歩く。戦争の影響か、若い男の人は少ないかもしれない。


 別に強制的に徴兵される訳じゃない。あくまで希望者のみが兵士になるのだけど、それでも若い男性の志願者は多い。うまくいけば立身出世のチャンスと思うらしい。それに基本的には高給がもらえる。


 農民なんかは特に、畑なんかより戦争だと行ってしまう。おかげで私の村は人手不足になって大変だった。


 早く戦争なんか終わって欲しい。でも、思い出したくないことを思い出して私は背筋が冷える。戦争が終わってトムが村に帰って、私が居なくなったと知ったらどうするんだろう?


 考えられるのは、怒りに任せて周りに八つ当たりをして、暴れる姿。別に私を本当に好きとは思えないから傷つきはしないだろうけど、馬鹿にされたと怒りそう。勢いで飛び出してきた私は村のみんなにすごく迷惑かけてしまってる。私はトム以上に感情的で自分勝手なのかもしれない。


「うう……」


 吐きそうなくらい具合が悪くなってきて、私は休もうかと裏通りに入った。道幅は狭く、建物の影になって薄暗い。中ごろで足を止め、冷たい壁にもたれた。


『デイジー、ついてきてる奴らがいる』

「なんかそうみたいね」


 私が入ってきたところから男性が3人並んで歩いてきた。小声でカンパニュラに、手を出さないでと注意する。見るからに雑魚だから。それに3人もいるのに、わざわざこんな細い道で近寄ってくるなんて頭が悪い。これじゃあ1対1にしかならない。先頭の男が無言で間近まで迫った。


 10代くらいの、痩せぎすの男だ。兵士に志願出来ない18歳以下かもしれない。睨んでくるだけで何も言ってこないし、手を出して来るでもない。やり過ごそうかなと私は男に背を向けて、路地から出ようと歩きだした。


「いたっ」


 2、3歩進んだところで、乱暴に後ろから髪を引っ張られて声が出る。何こいつ。振り返って睨み付けた。が、男は睨み返してきた。


「何するんですか?」

「痛い思いをしたくなかったら、そのカバンを置いてけ。宝石店から出てくるところを見てたんだよ」

「はあ?嫌です」

「これが見えねえのか?」


 男は片手で持てるくらいの、小さなナイフを見せつけた。そんなので私に勝てると思ってるんだなと口がむずむずした。

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