第3話 バカ舌
魔剣。
それは生命を宿した不思議な剣のことだ。
魔剣には不思議な力があり、普通の武器とは一線を画す力を秘めている。当然魔剣は珍しいものであり所持している者は羨望の眼差しを向けられる。
魔剣の中でも珍しい物は売るだけで一生遊んで暮らせるほどの値がつくので、それらを集めて売るのを生業にしている者も数多くこの世界にはいるのだ。
少年カノンも魔剣の存在は知っていたが、実物を見るのは初めてだった。
「へえ……君、魔剣だったんだ」
『む、君とはなんだ少年。私は人生の大先輩だぞ。もっと敬えっ』
「ふうん、見た目は普通の剣なんだね。面白いなあ」
魔剣の言うことなどお構いなしにカノンはジロジロと魔剣を眺め回しながらペタペタと触る。
『お、おいお前っ! ど、どどどどこ触ってんだ! この変態がっ!』
「え? 変なとこ触ってるの!? ご、ごめんなさい」
カノンは怒られてしゅんとしてしまう。
すると魔剣は罪悪感を覚えたのか慌てた様子で彼を慰める。
『ま、まあしょうがないな! お前は子どもだから分からなくても無理ないか。……なあ、ところでそろそろアレを飲ませてくれないか?』
「あれ? なんですかそれ」
『とぼけやがって……ほら、そこの扉の近くに置いてある樽に入ってる液体だよ』
カノンが扉のほうに目を向けると、確かに彼の腰の高さほどの大きさの樽が置いてあった。
しかしそこに入っているのは彼特製の『超高栄養価トマトジュース』だ。魔剣がこれを欲しがる理由がさっぱり分からない。
「なんでアレが欲しいの?」
『あの樽からは豊潤な魔力を感じる……ふふ、私には分かるぞ。あの樽の中には私たち魔剣の一番の好物「神の血」が入ってるだろ! 隠そうったってそうはいかないぞ』
エリクサーとは、ポーションなど世界に数多く存在する回復薬の中でも最高クラスの効果を持つ伝説の薬だ。
飲めば万病が治り、寿命が十年伸びるとまで言われるまさに『神の血』の異名に相応しい効能を持つ。しかしその製造方法は謎に包まれており、ダンジョンなどで偶然見つけたものが市場に極稀に流れるだけだ。当然それらは目が飛び出るような高額で取引される。
その正体が野菜ジュースであるはずがない……はず。
「いやこれただのトマトジュースなんだけど……」
『謙遜しなくてもいいんだぜ。なあに、どこでアレを手に入れたのかは聞かないから安心しな』
「いやだからこれは血ですらないんだって!」
カノンはそう言って魔剣を説き伏せようとするのだが、魔剣はいくら言ってもあの樽の中身を飲ませろと言って聞かなかった。
五分ほどその押し問答は続いたが、結局はカノンが折れるという形で決着がついた。
「分かったよ……樽の中に鞘ごと突っ込めばいいの?」
『思いっきり頼むぞ! 我が刀身が血を欲してるぜ!』
ええいままよ、とカノンは魔剣を樽の中に並々入ったトマトジュースの中に入れる。すると魔剣は『ゴクゴクゴクゴクッ!』と音を立てながら樽の中身をぐんぐん吸い取っていき、ものの十秒で飲み干してしまった。
なぜこの魔剣が勘違いしたのかは知らないが、このトマトジュースは百%トマト果汁で出来ている。
「神」要素もなければ、「血」も一滴も入っていない。
きっとこれはエリクサーじゃない! と怒るだろうなあ……と少年は憂鬱になるが、魔剣の反応は意外なものだった。
『う、うまいッッ!! 豊潤な魔力に爽やかな喉越しと鼻からぬける清涼感ッッ!! こんな血、飲んだことがないッ!!!!』
「えぇ……」
なんと魔剣はトマトジュースを美味しそうに飲んだ。しかもそれが野菜から出来たものだと全く気づかなかったのだ。
この瞬間、少年は気づいた。
「この魔剣、馬鹿舌だ……」
『なあ、もう神の血はないのか? 匂いがするからまだあるだろ?』
「はいはい、少し待ってね」
こうして少年と馬鹿舌魔剣の奇妙なコンビが達成したのだった。
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