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第1話 契約破棄

「お前の作った野菜は高すぎる。よってお前との契約は打ち切らせてもらう」


「えぇっ!? そんなの急すぎますよ!」


 農家の少年、カノン・ポマドールは突然取引先の大臣にそう告げられ大声で抗議する。

 彼は今まで高品質の野菜を納期に遅れること無く、王都に卸してきた。自分で言うことではないが値段も良心的に、だ。

 それだと言うのにある日いつものように野菜を卸しに王都まで来ると、契約の打ち切りを言い渡されてしまったのだ。


「僕の作った野菜はかなり手間がかかってるんです。なのでこの値段でも安いくらいなんです、どうか考え直して下さい!」


「ふん。お前の作るトマト、一個三百R$(ラジアドル)もするではないか。確かに味は悪くなかったが……つい先日来た商人がもっと安価で美味い野菜を持ってきてくれたのだ」


 そう言って大臣は一つのトマトを農家の少年カノンに見せつける。強い赤みに張りのある見た目、確かにちゃんとしてそうだ。


「その商人はこのトマトを一個八十R$(ラジアドル)で売ってくれると言った。味もお前のとそう変わらんしこれ以上お前と取引する意味がなくなってしまった」


「一個八十R$(ラジアドル)ですって……? そんな安く作れるわけがありません!」


 ちなみに平均的なトマトの値段は一個百五十R$(ラジアドル)が相場だ。その半額というのは明らかにおかしい。カノンはその大臣が持っているトマトに疑いを持つ。しかし愚かな大臣はコストカット出来ることに執心しそんな単純なことにも気づかなかった。


「うるさいっ! とにかく金輪際貴様は王城に入ってくるな! この金の亡者め!」


 大臣はそう言うと護衛の騎士に命令を出し、無理やりカノンを王城から追い出す。カノンは武術の類など身に覚えのないただの少年、屈強な二人の騎士に捕まれば逃げ出すことなど出来ようもない。


「ちょっと大臣さん! 話を聞い――――」


「ふん。二度と顔を見せるでないぞ」


 必死の呼びかけも届かず閉じられる扉。

 こうしてカノン少年の取引は打ち切られたのだった。


 ◇


「ほら、さっさと持って帰れ」


 王城の保管倉庫。

 様々な物品が保管されているその建物にカノンは通された。

 この倉庫にはカノンが卸した野菜が保管されていた。大臣は契約を打ち切るだけじゃなく既に卸したそれらの野菜を返品すると言い出したのだ。


「うう、あんまりだ……」


 カノンは涙目になりながら自分が丹精込めて育てた野菜を運び荷馬車に乗せていく。

 そして最後に自信作である超高栄養トマトジュースが入った樽を持ち上げようとした時、彼はあることに気づいた。


「げ、中身漏れちゃってるじゃん」


 経年劣化のせいか樽には小さな穴が開いていて、中身が半分ぐらい漏れ出てしまっていた。

 カノンは近くに置いてあったテープでその穴を塞いで「うんしょ」と持ち上げる。

 するとその瞬間、ガシャン! と音を立ててカノンの足元に長い棒の様な物が倒れてくる。埃が被っていてそれが何なのか一瞬分からなかったが、よく見るとそれは真っ黒い剣だった。長さは一メートルくらいだろうか、幅広の標準的なブロードソードだ。

 特に装飾の類はなくてシンプルな見た目をしている、あえて特徴を挙げるとすれば何故か鞘に六本……いや五本の鎖が巻きついていることくらいだろうか。元々は六本あったようだが倒れた衝撃で一本砕けてしまったようでその残骸が床に散らばっている。

 カノンはその剣がなぜか妙に気になり手に取ってよく眺める。


「ん? なんだお前その剣が気になるのか?」


 物音に気づいた騎士が近寄ってきてカノンにそう尋ねる。


「え、いや急に倒れて……」


「そんなに気に入ったなら持ってってもいいぜ。この倉庫には大した物はないからな。その剣も確か鞘から抜けない欠陥品だ。ここにあっても倉庫を圧迫するだけだからな」


「えと……じゃあお言葉に甘えて」


 カノンは職を失ったばかりだ。

 なので貰える物は貰っておくことにする。いくら欠陥品といえど何か使い道があるかもしれない、最悪どうしても抜けなかったら漬物石にでもしてしまえばいい。

 そんな軽い気持ちでカノンはその剣を持ち帰ることにするのだった。


「あーあ。これからどうしよ」


 そうぼやくカノンは大臣が見せた安いトマトを思い浮かべる。

 確かに見た目は良かった……しかし、野菜の素人の大臣は騙せても野菜のプロフェッショナルである少年は騙せていなかった。


「あの野菜、見た目だけだったなあ。ほんと酷い商売をするよ」


 ◇


 カノンがベニジール王国の王都、アラカスを去って一週間が経った頃。

 王都の市場には大臣が新たに契約した農家の野菜が出回っていた。


「いやあ美味いし安いし最高だな!」


 街の人たちはその新しい野菜にすっかりのめり込んでいった。

 安くて美味しい。この二大条件が揃えば民衆が熱を上げるのも無理はない。


 しかし異常は少しずつ街の人を蝕んでいた。


「なんか最近お腹の調子が良くないのよね……」

「うちの息子も風邪が中々治らなくて……」


 新しく流通した野菜を食べた人たちは次第に体調を崩すようになり、病気に罹る者も多く出てきてしまう。

 そしてその影響が出てのは国民だけではなかった。


「ごほっごほっ!」


 そう体調が悪そうに咳き込むのはベニジール王国の国王ニジル十二世だ。

 カノンが去るまでは六十歳とは思えないほど元気で毎日散歩を欠かすことはなかったが、ここ数日は部屋にこもり一日のほとんどを寝て過ごしていた。


「おかしいのう、なんで急に体調悪くなってしまったのじゃろうか」


 普段の行いに変わりはないはずなのに、日々痩せ細っていく身体に王は首を傾げていた。

 そんな風に王都に住む人々、全員が謎の不調に悩まされる中、一人頭を抱える男がいた。


「ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!」


 そう何度もヤバいを連呼してるのはカノンとの契約を打ち切った大臣、ビーリッヒだ。

 彼の野菜を入荷しなくなってすぐにこんな事態になれば、いくら愚か者といえどその因果関係に気づく。

 大臣は急いで新しく入荷した野菜を魔法解析班に調べさせると、その野菜は魔法の力で無理やり大きくした粗悪品であり、食べると逆に体調が悪くなるとの解析結果が出た。

 この事実は昨日魔法解析班に伝えられたものだ。なので大臣は急遽カノン少年の元に騎士団を派遣し助けを乞うことにした。

 しかし帰ってきた騎士団から告げられたのは驚きの言葉だった。


「あの農家の少年ですが……家におりませんでした」


「なに!? だったら探せばよいではないか! 何おめおめと帰ってきているんだ!」


「いえその……家自体が木っ端微塵に無くなっていたのです。少なくとも一週間は人が暮らした形跡は無く、少年は生きていたとしても遠くに行ってしまわれているでしょう」


「そ、そんな……」


 唯一の希望を失った大臣はその場に膝を突き、絶望に打ちひしがれるのだった。


《読者の方へのお願い》


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[一言] 馬鹿な奴だぜ……話を聞かずに……。
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