10 太陽の花
ガタンゴトン。
規則的なその音。その振動。
心地いい温度の車内に陽光が降り注ぐ。それを照り返す無月の白いワンピース。
眩しいけど、眩しさ故に目を離せなくて、しばし見つめる。向かいに座る無月の視線が車窓から私に移った。慌てて目をそらす。残像。
ふふ、と笑う無月の声がする。見惚れていたのが知られたみたいで、恥ずかしくてその笑顔を見られない。
今日は夏休み最終日。
私達はあの日の約束通り、ヒマワリを見に行こうと列車に揺られていた。
今日の無月は真っ白なワンピースに身を包んで美しさが一段と際立っているようだった。一挙手一投足に目を奪われて、私はもう滅多に乗らない列車からの景色を楽しむどころではなかった。
無月の姿を見ていたい気持ちより恥ずかしさが勝って俯いたままでいると、無月の手が視界に入り込んできて私の膝を優しくぽんぽんと叩いた。顔を上げれば、無月は窓の向こうを指差している。その指を辿った先には、一面の黄色。目的地のヒマワリ畑だ。
最寄り駅に降り立って、駅員さんに切符を渡してホームを抜ける。茹だるような暑さの中、ヒマワリ畑を目指して歩き出す。炎天下、なびく黒髪、麦わら帽子、白いワンピース、田舎の畦道。見たことはないのに懐かしい、無月のいる夏の原風景を進む。
ヒマワリ畑の入り口に着いて、お金を払ってゲートをくぐる。そこに広がるのは黄色の地平線。空の青とのコントラストが輝かしい。あの日無月と描いた景色が、今目の前に広がっている。実際目の当たりにすると、自然の力に圧倒されるようだった。
順路に沿って歩いていれば、無月がふと足を止めて一際大きく咲いた一輪のヒマワリを見つめ始めた。私も見ようと傍に寄ると、無月が口を開く。
「ヒマワリってね、私の誕生花なの」
「へえ、誕生花……そういえば、無月の誕生日はいつなの?」
「8月31日」
「……今日!?」
「そうだよ」
「どうしよう、私プレゼントとか、考えてない……」
「ふふ、あのね春海、一緒にヒマワリ畑に来てくれた、それが最高のプレゼントなんだよ」
釈然としない。大好きな子の誕生日はちゃんとお祝いしたかったな。けれど無月はいつになくにこにこしていて、なんだかこれでも良かったのかもと思えた。
「8月31日はリンドウとかクローバーとか、他にもいろんな誕生花があるけど、私は一際ヒマワリが好きなんだ」
「どうして?」
「ヒマワリは太陽の方を向いて咲くでしょ。そして花を見る人を元気にさせる。そうやって太陽から照らされて新たな輝きを供給するって、まるで月みたいじゃない?」
そう言って、愛おしそうにヒマワリを見つめる。その優しい視線が眩しくて、返す言葉も出てこない。何も言えず見惚れていると、優しいままの視線をこちらに向けられた。
「ヒマワリの花言葉は知ってる?」
「知らない……」
「『私はあなただけを見つめる』。きっと成長中に太陽の方ばかり向いているから、こんな花言葉なんだね。……まるで私みたい」
「え?」
「なんでもないよ」
最後の方が上手く聞こえなかった。気になるけれど、なんでもないと言うのなら大したことではないのだろう。
私はあなただけを見つめる。私はいつも無月を見ている。今日だって無月ばかり見ていた。ほら、今も。こんなに綺麗な花々が私達を取り囲んでいるのに、私は無月しか見ていない。
無邪気な太陽は無月を燦々と照らし、私の瞼の裏にその輪郭を焼きつけた。




