6
次の日、上総くんと約束をしてしまったのでバスケ部を応援しに行くことになった私はもちろん美織ちゃんを連れて体育館へと向かった。
その途中、渡り廊下から桜の木が見えたのでぼんやりとそれを眺める。午後から降り出した雨のせいで一気に散ってしまった。そういえばもう入学してから結構経つんだなぁとなんとなく春雨が振る様子を眺める。
「(春が過ぎたらゴールデンウィークでしょ、そのあと梅雨が来て・・・そのあとは海だ!)」
夏は夏で高校生は楽しいことが待っているからね。それを楽しみにしていれば憂鬱な気分など吹っ飛んでいく。漫画では夏、広報委員の皆で海に行くことになっている。その時上総くんが美織ちゃんの水着を見て照れるんだよな。ああ、楽しみ。早く夏にならないかな。
なんて思っていると、美織ちゃんが私のカーディガンの袖を摘む。やだ可愛い。思わず美織ちゃんをじっと見つめると、にっこり微笑まれた。ああ主人公最高です。
だけど美織ちゃんはすぐに私から視線を外すと、前を向いた。私も釣られてそちらを見れば、なんと体育館のドアの前に女子がわんさか集まっていた。
「すごいね・・・入れるかな・・・」
「(まさかあれ全部上総くん目当てですか・・・・?)」
さすがは主人公クラスの上総くん。一年生だけでなく先輩たちをも魅了するようで、きゃっきゃと女子が体育館の中を眺めて騒いでいた。
淡白だけどそれがいいんだよね、うんうんみんなよく分かってる。無表情だけど他の男子とじゃれあう時はきらきらの笑顔を見せたりするし、基本女子や子どもには優しい。ただ女子が何を言ってもきっぱり言葉少なく断るから近寄りがたいところもあるんですよね。
まさに、少女漫画の上総くん。と胸の前で手を握って感心していると美織ちゃんがちょいちょい、と私のカーディガンを掴む。ああ可愛い。
「なんだい?美織ちゃん」
「あれどうやって入ろうか」
「あ、忘れてた」
「(はじめちゃんって本当に上総くんのこと好きなのかな・・・)」
そう美織ちゃんが考えているとも知らず、私はすっかり上総くんのモテ度ばかり考えて目的を見失っていたことに気づく。応援すると言ってなんとかバスケ部に入ってもらった手前、このまま帰るのは申し訳ない。だけどあの女子をかき分けて体育館に入るのは怖い。
だってあの人たち全員上総くん狙いでしょ。
そんな中、美織ちゃんの手を引いて体育館に入ったら美織ちゃんが悪く言われてしまうかもしれない。一応漫画の中でも群がる女子に美織ちゃんが虐められるシーンがあるけど、それはもっと後の話だ。二人が付き合い出すようになって、手を繋いで登校するところを見た女子たちが鉄槌を下すのだ。
「・・・・・・」
「・・・・はじめちゃん?」
美織ちゃんと上総くんはまだ付き合っていない。広報委員で顔を合わしてもいない。そんな中、無駄に女子から虐められるところなんて私は見たくない。主人公なら何でも恋愛の糧にして仲良くできるのかもしれないけど、無闇に私の友達を傷つけられるのは嫌だ。
でも上総くんのこと応援するって言っちゃったしなぁ。
どうしよう、とぼんやり佇んでいると、ドアの前できゃっきゃと騒いでいた女子がより一層声を張り上げた。私と美織ちゃんはそれに驚いてぎょっとそちらを見る。すると背の高い美少年がドアの前に立っていた。さすがは上総くん、他者を寄せ付けない圧倒的長身ですね。
練習をしていたからか、少し汗をかいている上総くんがパーカーの袖で拭いながら女子を見下ろす。女子はもうメロメロだ。目をハートマークにして上総くんを見上げている。
その視線を鬱陶しそうに一蹴し、上総くんが不意にこちらを向く。
「あ、」
「・・・上総くん、こっち見たね」
「う、うん。美織ちゃん見てたね!」
「(いや、確実にはじめちゃん見たと思う・・・)」
こちらに一度視線を向けた上総くんが乱れた前髪を整え、横の髪を耳にかけながら体育館へと戻って行く。その様子に女子が『まだ行かないで』と騒いでいるがまるで聞いていないらしい。
さすがは氷の王子様である。その王子様を一目見られただけでも、もう応援したことにならないだろうか。そう私が身勝手にも解釈を歪めていると、体育館の裏手にあるドアが開く。ちょうどそこはステージの真裏で、よく放送委員や文化祭とかにゲストを呼んだ時に利用するドアだ。
そこからひょい、と上総くんが顔を見せる。そしてひらひらと手をこちらに振る。私と美織ちゃんもひらひらと振り返すと、上総くんはそういうことではないと少しだけ無表情を崩しふっと笑う。ああ、美織ちゃんを見て笑ったんですね!
私が勘違いも甚だしい状況でにこにこと微笑む。だけど状況を先に理解した美織ちゃんが私を他所にカーディガンを引っ張って上総くんへと駆け寄る。ああ、そんなに上総くんに会いたかったんですね!
「上総くん、はじめちゃん連れて来たよ」
「さんきゅ」
「(やだぁ!美織ちゃんに上総くんが「さんきゅ」って言ったぁ・・・・!)」
「・・・・なんで遠山さん喜んでんの」
「さぁ・・・・・」
私がほわほわと微笑んでいる様子を上総くんと美織ちゃんが怪訝な顔で見つめる。そこで我に返った私はすぐに表情を改めると、美織ちゃんの背中を押して上総くんに歩み寄る。
ここは渡り廊下から外れてしまっているので、雨がぱらぱらと美織ちゃんを濡らしてしまう。こんなことで風邪を引いて委員会の顔合わせに参加できないなんてことになったら私は絶望する。
美織ちゃんの頭をカーディガンでぽんぽんと撫でる。だけどカーディガンの繊維じゃ雨を吸い取ってくれない。これは早く体育館に入った方が良さそうだ。そう思い上総くんを見上げると、無表情のまま私の腕を引いてドアの中へと入る。いや、そこは私ではなく美織ちゃんの腕をですね!
私の訴えも虚しく、上総くんがステージの真裏にあった機材を置くための物置のようなところに入る。電気をつけていないのか、その物置には窓からの光しか入らなくて少し暗い。でもとりあえず雨宿りはできたし、急いで美織ちゃんのブレザーについた雫を払ってしまう。そうすると美織ちゃんが嬉しそうにきゃっきゃと笑った。やだ可愛い。
「はじめちゃん、お姉ちゃんみたいやねぇ」
「そうかな?私末っ子だけど」
「私二人姉妹の次女なんやけど、そのお姉ちゃんにはじめちゃん雰囲気似てる」
「そっか、なんか嬉しい」
「はじめちゃんってたまに大人っぽい顔するから同い年に見えないんよねぇ」
「そっ!・・・うかな?私ちゃんと16歳だよ?」
「ぷっ・・・なんやそれ、ちゃんと16歳ってなに」
実は生前弟がいました、とも言えないし実は生きていれば40歳超えていますとも言えないのでにこにこと笑って誤魔化す。そのままぽんぽんとブレザーや頭を撫でていると、その様子をじっと黙って見ていた上総くんがポケットに手を突っ込んだまま長い足を動かして奥へと向かう。
あ、いちゃいちゃしすぎたかな。美織ちゃん取られたと思っちゃったかな。やだヤキモチですか。と思いながらも上総くんの様子を伺っていれば、上総くんがタオルを持って戻ってきた。うそ!紳士!
美織ちゃんが濡れたら上総くんも心配だよねぇ、とでれでれしながら上総くんを見上げる。だけど無表情な王子様は何を思ったか、そのタオルを私の頭にばさっと乗せた。ちっがーう!
「あ、あの上総くん、私ではなく美織ちゃんに・・・・」
「遠山さんだって濡れてるけど」
「いや私は頑丈なので問題ないんです。なので美織ちゃんに」
「・・・・・」
「わわっ」
なかなかタオルで頭を拭かない私に上総くんがため息をつきながら手を伸ばし、タオルをくしゃくしゃと揺らす。大きな手が頭の上で動いている。一応朝セットしてきたんだけどなぁと思いながらも、せっかくなので王子様のご厚意に甘えてみる。もちろんこのあと上総くんの貴重なタオルは美織ちゃんに献上するけど!
手持ち無沙汰になり、意味もなく両手を体の横に上げて待機する。上総くんが手を離したらすぐにタオルを奪ってそのまま美織ちゃんに渡すんだ。そのためにわきわきと指を動かしていると、何を思ったのか私の両手を掴んだ。
えっ、と顔を上げるがタオルで前が見えない。そのまま両手を掴まれたままぼんやりと佇んでいると、上総くんが近くで息を漏らしたのが分かった。
「・・・・遠山さん」
「は、はい」
「俺は遠山さんに風邪引かれると困るんだけど」
「え、あ、・・・・え?」
「応援してくれるんでしょ、休まれたら困る」
「あ・・・あぁ!そうでした!ははは、すみません!」
や、やだぁ上総くんってば誰にでもこうやって優しい言葉をかけるんだから。とアラサーの心が少し動揺する。顔が赤くなりそうなのでバッと上総くんの手から離れ、タオルを掴み必死に俯く。
だめだめ、そうやって誰にでも優しくしてると美織ちゃんが困る。
未来のお嫁さんを困らせるなんて相方はしちゃだめだ。頼むからこのままタオル私にください。そして美織ちゃんに献上させてください、と思っていると私のタオルを掴む手に上総くんが触れる。ぎょっとして肩を跳ねさせ、思わず顔を上げる。だけど上げるんじゃなかった。
目の前に上総くんの綺麗な顔がある。美織ちゃんほどではないけど、くっきりと二重な瞳がこちらをじっと見ている。その強い眼差しにアラサーの心がぴき、とひび割れたような気がした。
「・・・遠山さん」
「は、はい・・・・」
「ちゃんと拭いてよ」
「あ、う、うん。上総くんが手離してくれたら拭く」
「・・・やっぱ俺が拭こうか」
「だっ、大丈夫!ははは、大丈夫!」
「・・・・・・」
「あの、なのでもう大丈夫です。だからその・・・そんな近いと・・・困る」
美織ちゃんに申し訳なくて困る。という意味で伝える。だけどそこまで読み取れるはずもないので、顔を赤くしたまま視線をずらす私に上総くんと美織ちゃんが目を見張る。
上総くんがすぐにパッと手を離す。そして口元を手で隠すと、どこか遠くを眺めた。その間に私はわさわさと頭をブレザーを拭くと、すぐに美織ちゃんの頭にタオルを被せてわしゃわしゃ拭いていく。
「わっ、はじめちゃん、痛いよ」
「あ、ご、ごめん。ちゃんと拭ける?」
「うん・・・・・」
「い、いやぁ上総くん紳士だねぇっ。よかったね美織ちゃん!」
「(はじめちゃんにタオル渡したのに怒られそう・・・)」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
じとっとした目を向けられる美織ちゃんが気まずそうにタオルを外して私にそれを返してくる。いや、もうそのタオルは美織ちゃんのものだからぜひ洗って上総くんに返したらいいと思うよ。その柔らかい香りに上総くんがほのぼのするんです。素敵じゃないか!
だけど美織ちゃんは私にタオルを渡すとそのままカーディガンのポケットに両手を入れてしまう。や、やだ上総くんと同じポーズ!と震える。その様子をパーカーのポケットに手を入れている上総くんが見下ろし、よく分からないがため息をついた。
それから寄りかかっていた体を持ち上げ、階段を上がってステージへと向かう。
「・・・・行くよ」
「あ、う、うん。美織ちゃんも行こう?」
「うん」
私と美織ちゃんも上総くんに続いてステージに上がる。ステージは暗幕があって、そこからひょいと体育館を覗き込むとバスケ部の面々が休憩中なのかステージの縁に座ってスポーツドリンクを飲んでいた。
その中に相田くんの姿を見つける。あ、そっか、相田くんもバスケ部だよね。と彼を見ていれば上総くんが戻って来たことに気付き、こちらを振り返る。そして私と美織ちゃんを見つけると「あーっ」と言いながら指差した。こら、人を指差したらいけないんですよ。
「はじめちゃんじゃん!それとその子は?」
「あ、私は上浜美織です」
「美織ちゃんね!俺は相田辰臣。たっつんって呼んでねっ」
「・・・・よろしく、相田くん」
「やだ美織ちゃん素っ気ない・・・たっつん悲しい・・・」
そう言いながら立ち上がった相田くんがこちらへと歩み寄る。ステージの上はライトをつけていないので暗幕の横にいる私たちの前まで来ると相田くんの顔が少し暗くなった。だけど元気な相田くんがにこっと笑うとライトもついていないのにそこが明るくなったような気がした。さすがはサブキャラである。
相田くんがこちらを見る。そして顎に手を置くとにやにやと笑う。なんだろうか、まさかブラでも透けているのだろうか、と自分のカーディガンとシャツを見るが今日は白のブラをつけてきているので透けるはずもないかと思い直す。
もちろんそういう意味でにやにやしているわけではない相田くんは、私の次に上総くんへと顔を向ける。上総くんはその間片手をポケットに突っ込んでスマホを操作していた。さすが現代っ子。
「上総ぁ、お前毎日はじめちゃんのこと送りすぎ。俺全然誘えねぇじゃん」
「・・・・・・」
「はじめちゃんからも言ってやってよぉ、俺だってはじめちゃんと帰りたい!」
「相田うるさい」
「お前はいくらでも女子が寄ってくるんだからたまにはいいだろ」
「・・・・・」
そうですね、上総くんならいくらでも女子を吸い寄せ放題です。だけど上総くんにはもう運命の人がいるから必要ないんですよ。当て馬のように私や他の女子なんてしてくれたらいいんです。美織ちゃんだけに微笑んだらいいんです。
これは私も便乗して相田くんの応援をした方が良いかもしれない。そう思い上総くんを見上げると、先ほどまでスマホを見ていた上総くんもこちらを見ていた。
「・・・・・・・」
「・・・・あ、あの上総くん?」
「遠山さんは俺から寄っていかないと来ないから」
「・・・・上総くん?」
「相田は一生帰れないんじゃない?」
ニッと笑って相田くんを見る。その横顔はとても楽しそうだ。
相田くんが悔しそうに顔を歪める。美織ちゃんもなぜか顔を歪ませていて『私も帰れないってことやん』と言っていたけどそんなことないよ!美織ちゃんなら上総くんといくらでも帰り放題だよ!
おろおろと美織ちゃんに手を伸ばすが、美織ちゃんは上総くんを見上げるのに必死でこちらなどまるで見てくれない。いやそれでいいんだけど!いいんだけどどうせ見上げるならもっと可愛い顔で見上げたらいいとお姉さん思うよ!
一人だけおろおろとしている私に上総くんが視線を向ける。そして長い腕を伸ばし、私の手首を掴む。その掴む力はとてつもなく弱い。掴むというより、触れるという表現の方が合っているかもしれない。
「遠山さん」
「は、はい」
「今日一緒に帰ろ」
「あ、あれ〜?でも上総くん部活あるし、一人で待ってるのは辛いから美織ちゃんも一緒に。ねっほら、相田くんも一緒に帰りたいみたいだからみんなで帰ろう!」
「俺と帰るのいや?」
「いーいえ!いいえ!いいえ!そんなことはありません!」
首を傾げて言うのとか反則。なにこの可愛い男の子は。
そういうのはもっと美織ちゃんにしてほしいけど、漫画のオフショットを見せてもらえたような気がしてお姉さんとても嬉しいです。何度もこくこくと頷いて「一緒に帰りましょう」と言うと、上総くんが無表情を崩してふわりと笑う。うわぁ綺麗!
「そういうことだから相田」
「えぇ〜お前が本気出すとか正直びっくりだからもっと見たいんですけどぉ」
「・・・・・・」
「んな睨むなよ。分かったよ!もういいもんっ美織ちゃん慰めて!」
「無理です」
「やーん!美織ちゃんきっぱり言うねぇ!ツンツンした子俺タイプなんだけど!」
「やめてください」
「・・・あれ?なんか怒ってる?」
「・・・・私だってはじめちゃんと帰りたいんや・・・・」
ぼそっと呟いた美織ちゃんの声は誰にも聞こえなかった。聞き返したけど美織ちゃんはふるふると顔を横に振って俯いてしまう。ああ、ごめんなさいあなたの上総くんと話していたからヤキモチを焼いているんですね。ごめんなさいもう話しません。
慌てて上総くんから離れてにこにこと美織ちゃんを見る。それから暗幕の横に移動すると、上総くんと相田くんを見上げた。
「上総くん、相田くん。どうぞ部活頑張ってください」
「え?はじめちゃんそっから見るの?」
「ドアの前に上総くんのファンがいるので、美織ちゃんを守ります」
「(いや、多分美織ちゃんよりはじめちゃん自身を守ったほうが良いかと・・・)」
確実にやっかみ受けるのはじめちゃんでしょ、と相田くんが頭を掻きながらぼそっと言うが聞こえない。なんなの、最近の若い子ってみんな小声すぎて聞こえないのですが。伝えたいならしっかり言ってくれないと聞こえません。
ぼんやりと相田くんを見上げていると、上総くんがその視界に入る。上総くんはポケットに手を入れたままこちらをじっと見る。なんだろう、無表情すぎて分からない。これが漫画なら上総くんの心情が説明されるのだろうけど、現実なので分からない。
「・・・・上総くん?」
「そこから見えんの?」
「ん?部活?見えるよ」
「ちゃんと応援できんの」
「できるよ、できますとも!ここからがんばれ〜って全力で応援します!」
「・・・・本当?」
「うん!任せてっ、そのために来たんだし!ねっ美織ちゃん!」
「う、うん・・・・・」
鼻息荒くぐっと拳を握り締めて上総くんを見上げる。そうするとくすくす上総くんが笑いながら少し背中を曲げた。や、やだぁ無表情からのくすくすなんて可愛いんですけど!もっと美織ちゃんの前で見せてください!
きらきらとした目を上総くんに贈る。そうすると上総くんが鼻の下に指を添えながらニッと笑った。
「分かった。もっと前でもいいけど、そこがいいなら遠山さんに任せる」
「おう!任せて!」
「期待してる」
ぽん、と頭を撫でて上総くんは相田くんと一緒に体育館へと戻って行く。やっと現れた王子様に女子がきゃっきゃと騒ぎ出す。うんうん、美織ちゃんの未来の彼氏は格好いいですよぉ。もっと見てあげてください。
黒幕からひょい、と美織ちゃんと顔を出す。するとちょうど振り返った上総くんと目が合う。
「ちゃんと見てて」
それだけ言った上総くんだったけど、その時はにかんだからドアの前で待機をしている女子が猛烈な歓声を上げた。
再び無表情に戻り、相田くんとパスを始めた上総くんを私と美織ちゃんが「おぉ」と眺める。美織ちゃんも初めてバスケをしている上総くんを見たからか、感心しているようだった。うんうんもっと感心して愛を育めばいいと思うよぉ!
「美織ちゃん、上総くん格好いいね!」
「そうだね」
「ちゃんと見ててだって!美織ちゃん私と場所変わろ!こっちの方がよく見えるから」
「ううん、ここでいいよ」
「なんで・・・・!?」
「(上総くん見てるよりはじめちゃんが喜んでる顔見てる方がいいんよ)」
そっちの方が暇つぶしになる。と考え、あまり上総くんに興味がなさそうな美織ちゃんにショックを受ける。ついにはスマホを取り出してしまうから私は悲しみのあまりそのスマホを引ったくる。未来の彼氏の勇姿を見ないでどうするんですか!
そうすると渋々美織ちゃんがひょいと顔を出して上総くんを見た。
それから何度か上総くんが華麗にシュートを決めたけど、美織ちゃんは全く興味がないようで歓声一つ上げることはなかった。どうして!!
.