第98話 浮気じゃないのよ
今日も一日、物資調達にパトロール、死んでしまった感染者の廃棄等で頑張った。
こんな終末生活にも流石に慣れてきていたので以前ほど根を詰めて働いているわけではないのだが、”あの日”以前の仕事なんて隙あればサボろうと考えていた僕にしてみれば、十分に働いたと言える。
労働ってこんなに素晴らしいものだったんだな。
まさか、ある意味窃盗に殺人、死体遺棄なんかで労働的充足感を得る日が来ようとは、”あの日”以前の僕ならば予想だにできなかったであろう。
僕は膝の上の茶々丸を撫でながら、今日一日を振り返っていた。
そして、最近よく遭遇するようになった事象を思い出した時、幸せ……という感情なのかな? それが沸いてきてでれっと表情が緩むのが自分でもわかった。
最近の密かな楽しみ。
いや、別に誰にも秘密にする必要がないと言うか、そもそも誰もいないから秘密もクソもないんだけどさ。
……強いて言えば、茶々丸に、かな?
うん。確かに、何となく後ろめたい気がしないでもないな。
その楽しみとは、町の所々で見かけるようになった、子猫たちの存在である。
暖かくなって繁殖期を迎え、そこ頃に生まれた子猫たちも大きくなり、そこら中でチラホラと顔を出すようになったのだ。
たしかに、僕の活動範囲は猫にとっては子育てするには最良とも言える環境であろう。このあたりには、猫……特に子猫にとって脅威である対象のひとつ、ゾンビは僕が粗方駆除しているのだから。
ああ。
子猫とは、なんとプリティなことなのだろうか。
世界で最も可愛い存在とは、子猫であると断言してもいいくらいだ。
少なくとも、僕の中ではな。
流石に警戒心が強く、僕の姿を確認するなり逃げ去ってしまうのはちょっと残念だが、威嚇して逆立つ尻尾とか、慌てて逃げ去るその背中とか、安全圏まで逃げた後にクルッと振り返ってこちらを見る真ん丸な目とか、とにかく全てが可愛いのだ。
うへへ。いま思い出しただけでも萌え死にしそうである。
……はっ!? いかんいかん。
気が付いたら、茶々丸が眠そうな顔でじーっとこちらを見上げている。
普段と違う僕の雰囲気を訝しく思ったのだろうか。
これは違うんだぞ。
若ければ若い程可愛いとか、それは一般的な話をしているのであってな、僕がいちばん愛してるのは茶々丸、オマエなのだ。
大体においてだな。猫ってのは成猫なら成猫ならではの魅力ってモノがあるのだ。それはそれで良いモノなんだぞ!
僕は気まずさを誤魔化す様に、わしゃわしゃと茶々丸の全身を撫でまわしたのだが……
「……いてっ!」
僕の手のひらに、茶々丸の爪だし猫パンチ一閃。
そして茶々丸は、僕が怯んでいるうちに、膝の上から床へとトンという音を立てて飛び降りた。
何ということだ。拒絶されてしまったぞ。
だから、浮気じゃないって言ってるじゃないか……。
茶々丸はそのまま、エサ入れまで移動するとクルリとこちらに振り向き、気だるそうに「にゃあ」と鳴いた。
「オマエなんか、|元々ATMだ《飯だけ持ってくればいい》って言いたいのか……」
僕は、耐えきれずに膝から崩れ落ちたのだった。




