第92話 札幌コミュニティ定例会議③
事の発端は、とある原発に近いコミュニティにて異常な放射線強度が測定されたことに始まった。
元々そのコミュニティは電力供給の死んでいない地域に自然発生した……と言うより、電源供給が生きていたからこそ何気に人が集まってできたコミュニティであった。
彼らは電源供給が生きている原因は始めから原発のお陰であることは理解しており、故に誰も原発を管理していない現在、近い将来トラブルは起こるであろうことは予測されていた。
にも関わらず現状に流されていたのは、”あの日”以降の大混乱期には先の見えない未来のことよりも現在の利便性を優先したからであった。
その結果、今になって大慌てで他のコミュニティに集団移住を強いられることとなったという経緯が報告されていたのだ。
これを機に各コミュニティを始め、自衛隊によって各地の放射線測定を行ったところ、何ヵ所で同様の結果が発生していることが分かったのだ。幸い札幌コミュニティでは放射線の異常値は測定されていないが、油断はできない。比較的近くには原発は存在しているのも大きいし、そうでなくとも日本中の原発でトラブルが起これば国規模で大問題が発生する可能性も高いのだから。
「まあ、博士には僕から意見を聞いておくよ。医者としても興味あるしね」
山田はミハイル博士の退室についてはそう締めくくった。
「そのことについてだが」
椅子に深く腰掛けて黒之介と戯れていた斎藤であるが、真顔になって右手を上げて発言する。
「臨時政府内でも最近よく問題として挙がってたのもあってな。既に動き始めてはいるんだぜ」
斎藤が語るところによると、臨時政府の指示により、原発問題対策を急務として原発関連の専門家や職員、そのOBの生き残りを全国からかき集めているらしい。その為に、貴重な航空機用の燃料を消費してでも飛行機を飛ばしているとのことだった。
ただ飛行機やヘリを飛ばして迎えに行けばいいという単純なものでもない。航空機の発着できる広い土地や空港までの道のりにはゾンビ等による危険は存在するし、そもそも航空機が発する爆音は周囲のゾンビを引き寄せるからだ。先行して職員を護衛する部隊、航空機の発着時に発着地点を制圧する部隊等も輸送しなければならず、ただでさえ少ない自衛隊員がそれに割かれているのが現状なのだ。
そこまでして原発関係者を集めているのは、ワケがある。
臨時政府は各原発についていくつかランク分けを行い、それに応じた人員を各所に派遣することを検討しているらしい。
S……冷却電源の不安定化等によりメルトダウン等の事故の兆候が出ている原発。早急に運転停止と廃炉処理が必要。
A……コミュニティに近隣にある原発。早急に運転停止と廃炉処理が必要。
B……現状維持が可能で、将来的に電気供給可能地域が都市再開発が可能と思われる場所にある原発。近い将来に送電設備の従事者派遣も必要。
C……コミュニティより離れた場所にある原発。運転停止と廃炉処理が必要。
D……既にメルトダウン等の事故が発生していると確認または考えられている原発。または、事故を起こしても全国レベルの破滅的な被害はないと考えられる場所にある原発。やむを得ずとして放置の方針。近隣のコミュニティには避難勧告済み。
「ちなみに、泊の原発はBだな。既に何人か派遣されてるぜ」
ここ札幌コミュニティより60kmほど離れたところにある原発のことだ。”あの日”以前に福島原発事故のあおりをうけて運転停止状態ではあったが、幸いにも外部電源の供給も生き残っており比較的メンテナンスが再開しやすいからということと、日本最大のコミュニティの直近だということもあるようだ。並行して送電関連施設もメンテナンスが行われる予定とのことである。
「いっそのこと、全部廃炉にしてしまうべきざましょ?」
「いや。それはそれで愚かなことです。確かに文明は壊滅状態と言える現在ですが、みすみす技術を放棄するのは人類にとって良いこととは思えません」
ザマス中年女と鉄の男のメガネーズが火花を散らした。
このような、感情の女と理屈の男の戦いは、終末世界においても健在なようだ。




