第81話 自衛隊員の話⑥
「左胸、でアリマスか!?」
成瀬はその意図がイマイチわからずに聞き返す。
「そうだ! 崩せるかもしれんぞ!」
佐々木の返答に、成瀬は心で首を傾げる。
特戦ゾンビの防御は完璧である。先ほどから好機と見たら顔面や喉等の急所を狙って攻撃を行っているのだが、最小限の動作で気持ちが良いくらい躱され続けている。
まるで精密機械でアリマス!……と、成瀬は舌を巻いていた。
それは「読まれている」を通り越して「そこに攻撃させられている」と感じさせる程であり、人の反応限界を超えたそれから、きっとそうなのであろうと考えられた。
しかし例え本当に攻撃を誘われているのだとしても、このギリギリの死闘の中、「当たる」と直感的に感じた魅力的な部位ではなく、当たらないと思われる部位をあえて攻撃するにはなかなかの思い切りが必要なのだ。
しかも、もったいないのでアリマス!
成瀬はゾンビの左胸をチラリと見ながらそう思った。
そこに輝くは、特殊作戦群の証である特戦記章。自衛官なら誰でも憧れる、レア中のレア物があるのだ。万が一攻撃が当たったとしたら、それごと破壊することになるであろう。自衛官の憧れの証を破壊するということは、自衛官のトップである彼らの誇り……そして同じ自衛官の末端である自分をも汚す様な感覚を覚えてどうしても躊躇してしまうのである。
しかしながら、その思いは同じ自衛官である佐々木も同じはずである。
そして、彼は意味のないことを言わない男であることを、ここ数カ月で成瀬は知っていた。
きっと、何か意味があるのでアリマスな!
「はっ!」
ガチン!という音がした。今まで攻撃を受け流していたゾンビが、左胸の上で両腕をクロスしてブロックした結果、プロテクターと銃剣の刃先が激しく衝突した音であった。
予想外の反応に、成瀬は驚く。
今までゾンビは攻撃をほとんど受け流して対応しており、この様に固く受け止めることなど無かったからだ。
どういうことでアリマスか!?
成瀬は困惑しながらも、もう一度ゾンビの左胸に向かって突きを放つ。
再び、ガッチリとガードを固めて受け止めるゾンビ。
ここまでガードに専念されれば、こちらは逆に攻撃に専念できる。成瀬は剣先を引っ込めると、今度はガラ空きの右腕に向かって突きを放った。
しかしながら、この攻撃については今まで通りヒラリと躱されてしまった。どう考えても、左胸だけ過剰にガードしているように見える。
よくわからないでアリマスが、それならば打つ手はあるでアリマス!!
成瀬は再び左胸を狙って突きを放つ。
思った通りガードを固めるゾンビ。
……かかったでアリマス!
衝突音は無かった。
成瀬は剣先を衝突寸前で止め、ガードで固まり切ったゾンビのガラ空きの左大腿部目掛けて剣先を振り下ろした。
グサリ!
深く突き刺さる剣先。
「……やった! やったのでアリマス!」
左胸狙いは囮とした、フェイントであった。
ゾンビが過剰にガードを固めることが前提の攻撃であった。コンマ1秒の世界の攻防であったが、軍配は成瀬に挙がったということだ。
そこからは一方的な展開だった。
痛みを知らないゾンビ故に、自分の肉体が傷付いたことを理解できないのであろう。また、知能も低い故に自分の動きの脳内イメージに傷付いた肉体が着いて行けていないことに気付いていないのかもしれない。
痛みという感覚は戦闘においてマイナスばかりではないということだ。自分の肉体の異常を脳に知らせるセンサーでもあるのだ。
センサーが壊れている精密機械ほど、エラーを起こしたときには取り返しが付かなくなるものだ。ゾンビのに肉体に次々と銃剣の刃先が突き刺さり、引き裂き、そして……
「終わりでアリマス!」
成瀬の攻撃が、がら空きになったゾンビの右目に深く突き刺さったのだった。
書き溜め分はここまで!
連載ペース落ちるかも。。。




