第76話 退治屋の話⑦
「これはいよいよマズイでヤンすねえ、逃げるしかないでヤンスよ!」
警棒を振り回しながら中島が大声を張り上げた。
「ダメよ、正を置いていけない!」
美鈴が悲痛な叫びを上げる。
「勝やんもな!」
将吾は苦虫を噛み潰したような顔で歯ぎしりをした。
彼らはとっくにエアガンを放棄し、近接武器に持ち替えて対応していた。
だが、攻撃は当たらない。
いや、時々当たっているからこそ未だに生き残れているのだが、素人丸出しの大振りの攻撃に対し、自衛隊ゾンビは腕や手のひらで武器をいなし、巧みに急所をかわしながら対応してきてるのだ。とてもゾンビとは思えない。
「どうせ二人は噛まれてるんでヤンスよ!」
「だからって、何もせずに逃げれるか!」
「そうでないでヤンス! ゾンビは噛んだ人間には死ぬまで手を出さないって聞いてるでヤンスから、コミュに戻って大人たちを呼んだほうがいいんじゃないでヤンスか!?」
おそらく、中島のこの案がこの場合の最適解であろう。だが……
「……いや、ダメだ」
将吾は、血だまりに倒れる勝やんに顔を向けてそう言った。
いったいどれくらいの量の失血で人間は失血死するのかはわかっていなかったのだが、急いで大人を呼んでここに戻ってきたとしても2時間はかかる。美鈴によって応急手当を受けた正はまだしも、勝やんはとてもそれまでもつとは思えなかったからだ。
なんとかして早めにゾンビを始末して勝やんの止血をするしか、全員でコミュニティに帰る方法はないと、将吾は思えた。
「で、ヤンスけど……」
中島は「どうせ八割がたはゾンビになるか死ぬんだから」と言いかけて、口をつぐんだ。なんのかんの言っても、”あの日”までは平和ボケした日本で生活していたただの中学生だ。この期に及んでもまだ自分は死なないという勘違いもあり、見捨てて逃げた場合に受けるであろう批判を想像してしまったからであった。
「クソっ、こうなったら一か八かだっ!」
「将吾クン!?」
「まず、ひとり潰す!」
埒が明かない。
将吾は逃げ腰で防御優先の行動から、攻めに転じることにした。
オレが、オレがなんとかしなくては。みんなをゾンビ退治に引き込んだのはオレだ。そしてもちろん、今のこの事態に陥っていることも。
将吾という男はただのヤンチャないじめっ子ではない。情に厚く、責任感があるからこそ子供たちのリーダーであり、少々のおイタがあったとしても皆は着いてきていたのだから。
だが、それは平和な時代でしか通用しない価値観なのかもしれない。今回の将吾の判断は、三人だけは確実に助かった命を危険に晒すという選択であるのだから。
今の時代に、それは美徳と言えるのだろうか。だが、まだ若すぎる将吾たちにその判断は酷であるのかもしれない。
「うらあっ!」
上段に振りかぶった金属バットを渾身の力を込め、ゾンビの頭へと振り下ろす。
ヘルメット越しとは言え、当たれば無事ではすまないであろう。頭部は守れるとは言え、首が衝撃に耐えられないからだ。そんな一撃であった。
……はずなのだが。
「ああっ!」
美鈴が思わず悲痛な声をあげた。
なんと自衛隊ゾンビは、将吾の渾身の一撃をいなして勢いを殺し、しかも金属バットを将吾の手から奪い、そして投げ捨てたのだ。
「……まだまだ!」
それでも将吾は諦めることなく、胸に固定されていたサバイバルナイフを逆手に引き抜くとゾンビの顔面目掛けて振り下ろした。これはただの雰囲気作りの為に装備していただけのものであったが、将吾にしてはなかなか機転の利いた良い判断であった。
「くたばりやがれぇーっ!」




