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第74話 退治屋の話⑤

―― 誰が、はぐれゾンビはここに一体しか居ないと決めつけた? ——



不意打ちであった。


騒ぎを聞きつけて現れたのか、元から潜んでいたかは分からない。

彼らはほぼ同時に、勝やんと正を背後から襲い、アッと言う間に二人の肉に齧り付いたのだ。

二人は悲鳴を上げながらも何とかゾンビを引き剥がしたのだが、時は遅し。既に一部の肉を持っていかれた後であった。


「「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」」


二人の絶叫が響く。

正は腕を押さえてうずくまり、勝やんは右足の太ももを押さえて地面を転がり回っていた。


痛い痛い痛い痛い痛い!


二人の脳は「痛い」の一点に支配され、他のことは考えられなくなっていた。

完全なパニック状態である。


唯一救いがあるとすれば、ゾンビは対象に噛みついた後に追撃をしてこないことだ。

人間はゾンビに噛まれると、八割は数分~数時間以内に昏睡状態になる。そして数時間から二日以内に起き上れればおめでとう、ゾンビがそこに誕生する。起き上がれなければそのまま衰弱死してゾンビの餌となるというのが大人たちの分析であり、通説だ。


要するにゾンビが噛みつくという行為は映画同様にお仲間を増やすのが目的だと思われる為、必要以上に追撃は行ってこないのだ。仲間になる前に食い殺してしまっては意味がないからだ。

そのことからも、二人はゾンビを引き剥がすことに成功した、というのは誤りかもしれない。ゾンビはとりあえずの目的を達成したから離れただけなのである。


「正! 正! いやあぁぁっ!」


「どうなってるんでヤンスか! ささささ、三匹もいるでヤンス!」


そう、最悪なことに新手の彼らは単独ではなく、三体も同時に現れたのだった。

突然なことに慌てているキタチューバスターズの面々であるが、三体の新手のはぐれゾンビには、嫌でも目に飛び込んでくる特徴があった。


「自衛隊……か?」


その三体には共通点があった。迷彩服を着ているのだ。

銃やナイフ等は所持していないが、キタチューバスターズのように統一性のない装備ではなく、おそろいのデザインの迷彩服にブーツ、グローブ、ヘルメットまで着用していた。

”あの日”から半年近くが経過した今、大体のゾンビの衣服はボロボロに汚れて破損しているのに比べ、汚れてはいるものの良好な状態を保っている。省吾たちから見ても、レプリカではなく、頑丈な本物の軍用迷彩服かと思われた。


「くそ! くそ!」


将吾、美鈴、中島は、思い出したかの様にゾンビたちの目を狙ってエアガンをフルオートする。

不意打ちを食らったが、コイツらはマヌケでノロマなゾンビなのだ。例え三体同時に相手にしたとしても何とかなるだろうし、一刻も早く正と勝やんを助けて手当しなければならない。

しかし、そんな彼らの即席プランは裏切られることになる。



「なにコイツら! 当たらないし!」


「は、はやいでヤンス!」


見た目に負けず、こいつらは今まで出会ったゾンビとは違う。

三体のゾンビは身を屈めながら、比較的素早く動いていたのだ。

しかも片手を目の位置まで上げて、だ。明らかに、目……そうでなくても頭を防御しながら行動していると思われた。


今までは5人で一体を集中射撃していたのもあって簡単にゾンビの目を潰せていた。

しかしながら今回は1対1の状況である。集弾性も低さ、焦りによるブレ、そして先の通りのゾンビたちの機敏さと防御姿勢から、ほとんど動きを止めることができないでいた。

素早いと言っても所詮は他のゾンビと比較してなので、中学生の体力ならば噛まれた二人を見殺しにして全力で逃げれば余裕で逃げ切れたであろう。

プロであれば、そんな場面を想定した訓練も行っていただろうから対処の判断はできたかもしれない。

しかし彼らは数カ月前までは平和ボケした日本に生まれ生きてきたのだ。そんな選択を突然突きつけられても、選べる訳がなかったのだった。



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