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第58話 悪魔→天使→悪魔→天使→ゾンビ→悪魔

”あの日”以降の生活は僕にとってはとても大きな変化であったが、元々部屋飼いであった茶々丸にとっては大したことではないのであろう。

ゾンビや死体の臭いという今までにない臭いを着けて帰ってくるからなのだろうか、はじめのうちはソワソワと落ち着きの無かった茶々丸も、最近では慣れてしまったようで元の様に明るく元気な子に戻っている。


茶々、ただいま(ちゃだいま)


「にゃーん」


今日も外での死体処分を終えて心身ともにクタクタになって帰ってきたワケだが、玄関を開ければ”あの日”以前と変わらない茶々丸が頭に装着するタイプのライトに照らし出され、ごろんとお腹を見せ何かを期待するようなキラキラした瞳で僕を見上げている。

その期待に応えたい衝動と戦う。

今日はかろうじてレジスト成功したが、何日かに一度は失敗することがある。

失敗して彼女のお腹に手が伸びようものなら、結果は火を見るより明らかなのだが。

茶々丸は本当に悪魔のようなヤツである。


こんな僕と茶々丸との終末世界一人と一匹生活も、既に3カ月が経過しようとしている。

こんな狂った世界で僕が正気を保っていられるのは、この部屋での変わらない茶々丸との生活のお陰なのかもしれない。

このあたりも、僕がこの部屋を捨てれない大きな理由だと思う。

茶々丸は本当に天使のようなヤツである。



「なーお、なーお」


寝巻に着替えてベッドに腰かけてしばらくすると、後を着いてきた茶々丸がいつもと違う声で鳴く。


この声は「遊んでくれ要求」だな。

こうなった茶々丸は、遊んでやるまでなかなか引き下がらない。

この後、ゆっくりと睡眠を取りたいのならば、どんなに疲れていようと相手にするしか道はないのだ。あ、連日の留守番で退屈な思いをさせているからな。これもお勤めってヤツか。

僕はやれやれと立ち上がると、ろうそくに火を点けて明かりとする。

そして取り出したりますは、茶々丸最大最強のお気に入りのアイテム……


「わ~り~ば~し~」


僕はドラえもんの声マネをもちろん大山のぶ代バージョンでしながら割り箸を取り出し、茶々丸の眼前に差し出した。

それを見た茶々丸の目が真ん丸となる。期待に心を躍らせていることが見て取れた。


いったい、今まで幾ら茶々丸のおもちゃにお金を使ったことだろうか。

5,000円はする電動のおもちゃとかも与えたが、あまり食いつきは良くなくて速攻でゴミとなったこともある。

その様な時々買う大物よりも、ねこじゃらし等の小物は簡単に壊れる故に買い替えが必要なので、トータルすれば結構なお金が飛んで行ってしまった。


比較的最近気付いたのだが、そんな既製品よりも数段食い付きが良く、しかも全く飽きないアイテムがあった。

それが、割り箸である。


なんてことだろうか。

最初から気付いていれば、いったい何人分の諭吉が助かったのだろうかと悔やまれてならない。

まあこの辺りは猫あるあるなのだ。

よくネットでも「猫ハウス買って与えたのに、本体よりケースの段ボールが気に入った件」的なネタが転がっていたからな。

むしろ、「うちの子かわええやろ?」的なエピソードとして自慢できる。

……今となっては自慢する相手がいないのが難点だが。


そんな茶々丸が特に食い付く対茶々丸式割箸操術の極意は、布団の中から割り箸の頭をランダムな位置で出し入れするというものだ。

それに対し茶々丸はズサーッ、ザッ、ザッ、ズサーッって感じの力強いスライディングを基本とした攻撃を繰り出してくる。

割り箸越しに伝わってくる衝撃は結構なもので、茶々丸が如何に狂喜乱舞しているかが伺える。割り箸とは言え、角に勢いよく手をぶつければ痛いと思うのだが。

痛みに鈍感とか、まるでゾンビみたいなヤツだな。

まあ、オマエが楽しいならいいけどさ。



15分程遊んでやると茶々丸は満足したようで、ベッドの端で丸まって眠り始めた。

頭をそっと撫でると、「ん? 何?」みたいな感じで目を開け、そして僕の手をペロペロと数回舐めた。

これは猫なりの親愛の表現らしい。犬に舐められると汚いと感じるのに、なぜ猫だと萌えるのだろうか。

ふふ、可愛いヤツめ。本当に天使だなオマエは。


僕はろうそくを消すと、ベッドに横になり布団を被る。

……ああ、今日も疲れた。

でも、悪くない。肉体労働はキツいものがあるが、反面、疲れた体を休め眠りに落ちていくこの瞬間は心身ともに至福の時なのである。

おやすみ、茶々丸……



「なーお、なーお!!」


……オマエは悪魔か。

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