第52話 にゃー(にゅーいやー)
午前8時半。
僕は目覚める。
それに勘付いた茶々丸が僕の横腹あたりでモゾモゾと動き出し、そして布団の中から顔を出した。
「……明けましておめでとう」
お互い寝ぼけ眼で少しの間見つめ合った後、僕はそう茶々丸に話しかけた。
そう。
ハッピーニューイヤー。
このくそったれな状況の中でも、年は普通に明けたのである。
茶々丸は返事をしようとしたのだろう。口がニャーという形を作るが、寝起きのためか声は出なかったようだ。
久々のサイレントニャーである。
それともこれは、誰もいない年明けと言いたいのだろうか。
「こいつめ、上手い表現をするじゃないか」
「にゃー!」
「うん、あけおめ」
僕は下僕必修のスキルである「妄想補完」を発動させて勝手に会話を成立させたところで、茶々丸の頭をガシガシと乱暴に撫でる。
茶々丸はまんざらでもないらしく、目を細めてゴロゴロ言い出した。
カーテン越しに感じるは、新しい年の始まりに相応しい、晴れの天気。
……はあ。これで今までのことが全部夢だったら最高なのにな。
冬の寝起きの下僕とご主人様との触れ合い。
なんとたわいもなく、それでいて幸せな空間であろうか。
このシーンだけ見るならば、誰もが思うまいだろう。
この部屋を一歩出れば、世界は死体だらけということを。
さて。起きねば。
かなーり気が進まないが、起きて動き出さねばなるまい。
正月と言っても、今年はゆっくりと過ごすわけにはいかない事情がある。
ゾンビの襲来だが、20数人を超えたあたりからパタリと途絶えた。
正確にはおとといの夜に一人やってきたのだが、それ以外は静かなものだった。
心身ともに身が持たないので新しい拠点を探して引っ越すべきかと考えていたのだが、とりあえずはその「やりたくもないイベント」は回避できたし、食料や生活必需品等の調達もそれなりで緊急性もない。
そんな感じで、数日前には元旦くらい正月にかこつけてインスタント雑煮でも食べながら引き籠ってボーッっとしててもいいだろうとか考えていたのだが。
しかしながら、この世界は僕を休ませる気などないらしい。
ここに来て、大きな問題が発生したのだ。
……いや、いつかは起こると分かっていたのだが、考えないようにしていたことが表面化したと言うところか。
とうとう、昏睡状態だった人々が次々と死に始めたのだ。
ハッピーニューイヤー。
もう嫌。
……うむ。僕の駄洒落センスは茶々丸以下らしい。
どうでもいいけど。
こうして、僕の新年は死体運びで幕を開けることになりそうだ。
幸先良いな。。。
作者メモ:1月1日




