第37話 ねこになりたい^2
僕はベランダへの出入り口となるガラスの引き戸に近付き、カーテンをそっと捲って外の様子を伺った。
「……?」
結果は、拍子抜けであった。
雲ひとつない快晴の空の下、街にはゾンビどころか、昨日同様人っ子一人見当たらないのだ。
5分程注意深く様子を伺ったが、結果は同じ。
ちょっとここからではこれ以上の情報を得れなさそうだ。
僕は思い切ってベランダに出てみることにした。
ベランダにそろそろと注意深く出たところで、昨日と決定的に違うことに気付いた。
街に”音“があるのだ。
それは聞きなれた朝の音。
スズメの囀りや、カラスの声。
実際に、遠くの電線にカラスが一羽止まってキョロキョロと首を動かしているのを確認できる。
直線で100m程先にある弁当屋の駐車場には、時々見かける茶トラの野良猫が背中を丸めて歩いていた。
人だけがいないというワケだ。
故にもちろん、車やバイクも走っていないからそれらの音はしないのだが、それでも限りなく日常に近い感覚にホッとする。
しかし、すぐに気持ちは沈んでしまう。
何たって、上の階には2つの死体が転がっている事実があるのだ。
そして、結局街に人を確認できていない。
爽やかな朝日と透き通る冷たい空気の清々しさとは真逆の現実に、思わずため息が出た。
「こりゃ、今日も大変な日になりそうだな」
まあ、映画の様に、街はゾンビだらけでしたってパターンよりはマシかもしれないが。
そうだとしても、待ち受けている死体の片付けを思うと、ポジティブな気分にはとてもなれなかった。
でも、やるしかない。
真冬なので腐敗するスピードは遅いだろうが、いつまでも上階に死体があるのは精神衛生上良くない。
いつかはやらなければならないしな。
散々現実逃避した挙句、ドロドロに腐った死体を片付けることになることだけは避けたい。
僕はそんなことを考えながら部屋の中に引っ込んだ。
茶々丸は呑気に陽だまりで毛繕いをしている。
……はあ、猫になりたい。
今まで何百回と思ったことであるが、今日ほど真剣に思えた日は無かったよ。
やはり数時間程度では山田さんからの返信は無かったので、とりあえず食料とかの買い出しに行ってきた。
死体の処理の前に買い物と食事をしておきたかったのだ。
気分的な問題でね。わかるでしょ?




