第34話 おっさん、籠城を選ぶの巻
想定外の緊急事態発生において、人が取れる選択肢なんてそうはない。
今日一日で嫌というほど思い知らされた。
人はパニックになった時に一番取り得る最終的な行動は、落ち着ける場所に引き籠ることを本能的に選択するものであろう。
僕も同じである。
自分の部屋に戻り、しっかりと施錠し、いつもはしないチェーンロックまでかけ、そして引き籠ることにしたのだ。
まあ、この想定外の緊急事態の中、アクティブに行動しようなんて思えるヒーロー気質でいられるのは物語の主人公くらいなものであろう。
物語ではその結果、事態は最悪な結果から逃れたりしてる訳だが、それは物語故のご都合主義の連続発生の結果でもあるしな。
積極的にマネしたいとも思わないし、もし今そうすべきである何かしらの兆候があったとしても、僕は部屋に引き籠ることを選択してしまっている気がする。
凡人だからね。
目先の安心の誘惑には敵わないのだ。
扉の施錠後、大事なことに思い至る。
引き籠り……籠城するのはいいとして、食料が心もとない。
何かしら食材やインスタント食品をかき集めれば2、3日は持つだろうけど、これも電気やガスが止まったらアウトだ。
引き籠る前にコンビニで缶詰とか調達するべきだったか、今からでも行くべきかと思ったが、どうも気が向かない。
もうひとつ、大事なことがあった。
武器が無い。
風林火山は上階の女の傍に置いてきてしまったからだ。
この部屋に、それ以上の武器になりそうなモノなど無かった。
強いて言えば、物干し竿とか工具箱のパイプレンチ、そして包丁くらいか。
でもそれらは、リーチ的に部屋の中で振り回せないか、リーチが短すぎてゾンビとの距離を詰めなければならないリスクがあった。
風林火山を取りに行くべきだろうが……、コンビニ行き同様、気が進まない。
あの死体をわざわざ見に行く気力は、とりあえず今は無いしな。
とにかく、今夜はもう非日常と関わり合いたくないってことさ。
明日、夜が明けて状況把握してから考えよう。
疲れた。
寝てしまおう。
この期に及んでも思う。
「これは悪い夢で、寝て起きたら元の世界なんじゃないか」と。
何が起こっているか不明な現在、本来なら警戒して無理にでも起きているべきだろうが、僕はその魅力的で都合の良い思考に乗ることを、いとも簡単に選んだ。
僕はベッドにダイブすると、布団の中に潜り込んだ。
良い夢は、見られそうにない。




