第32話 やっぱりぞんび
深夜3時。
僕はパソコンの前に座りディスプレイと睨めっこをしていた。
今日は……いや、もう「昨日は」か。
とにかく、いろんなことがありすぎた。
とりあえず寝てしまって、後のことは明日考えようとベッドに身を投げ出してみたものの、とうとう寝付くことができなかったのだ。
目を閉じれば、山田さんとの会話内容とか、腸を引きずり出し喰らう女の姿とか、またその女を正当防衛だった(と思いたい)とは言え殺してしまったこととか、割れた頭から流れ出す血や、無感情に見開いたままの真っ赤な目とか、様々なことがグルグルと思考を支配して眠らせてくれかったのだ。
もうひとつ、眠れない原因もあるのだが。
あの4階での惨劇の後に自分の部屋に戻ったのだが、この血と汚物にまみれた姿のまま部屋に入るのは気が咎めるものがあったため、衣類は靴も含めパンツを残して玄関外で脱ぎ棄ててきた。
そしてそのままシャワーを浴びて念入りに体を洗った。
ここで「サッパリしたことにより、少しは心が落ち着いた」とか言いたいところではあるが、どれだけ体を擦っても不快感を拭うことなどできなかった。
想像してみてくれ。例えばウンコを手で触ってしまったとして、念入りに手を洗ったからと言って、次の瞬間に手づかみでおにぎりとか食べることができるかい?
間違いなく、その手はウンコを触る前より清潔になっていることだろう。
要するに、徹底的な洗浄という行為も、精神的な問題を即解決する手段にはならないのだ。
……まあ、洗わないよりはマシなんだけど。
シャワー後、疲れていたこともありすぐにベッドに横になりたいところではあったが、片付けなければならない件が残っているのでそうはいかない。
この部屋の、Bカップ簀巻きの存在である。
この娘、今までの行動や特徴からして、もはや疑う余地もなく「目覚めた感染者」であることは間違いない。
同様の特徴から、階上で物言わぬ躯と化したあの女もそうなのだろう。
特に後者のインパクトもあり、僕の中では既に「目覚めた感染者」なんて生っちょろい認識ではなく、既に「ゾンビ」と定義付けてしまっていた。
だってさ、映画やゲームに出てくるゾンビそのものなんだもの。
こんな危険極まりない存在、いくら簀巻きにしてあると言っても同じ部屋で寝るなんてことは考えられなかった僕は、Bカップ簀巻きを彼女の部屋のベッドの上に投げ置いてきた。
流石に殺すとかは無理だしね。
先程の女だって、殺意があって殺した訳ではないからな。
そうそう、余談だが、Bカップ簀巻きの部屋、入った瞬間、何て言うか女の子の部屋にしては何か違うなーと思ったのだが、その違和感の正体はすぐに分かった。
部屋の奥の暗がりで、大柄な男が倒れていた。
それを見た時、心臓が飛び出るかと思うくらいビビったよ。
まったく予想外だったからな。
僕はBカップ簀巻きをベッドに投げ置いた後に部屋に置いてあった小物を男に投げつけてみたのだが、全く反応が無い。
部屋の電気を点け、遠巻き(と言っても1m程度しか離れてないが)に恐る恐る注意深く観察してみたのだが、この男、どうやら死んでる訳ではなさそうだった。
「目覚めてない感染者」ってヤツなのだろう。
僕は部屋の中からタオル等を探し出し、男の手足を拘束しておくことにした。
コイツも目覚めて「ゾンビ」になり、襲われたりしたらたまったものではないからな。




