第29話 ホルモン
床に転がる一組の男女。
そう判断したのは、足をこちら側にして仰向けでいる者の脛は毛むくじゃらで筋肉質であるからして男。それにまたがって頭を垂れて蠢いているほうの髪は毛先が地面までつくほどの長髪だから女と思ったからだ。
男の下腹部あたりで一心不乱に頭を動かす女。
ビクンビクンと体を震わす男。
(なんだ? この状況の中、盛ってるのか?)
そう。
これはまさに、俗に言う「69」の態勢と動作である。
鍵も締まっていないどころか半開きの扉、それを開ければ薄暗い部屋のキッチンスペースの固い床で情事中とか、誰が予想できるだろうか。
しかも、この強烈な悪臭の中でだ。
聞いたことあるぞ。
ヤク中のSEXは気持ちよすぎて糞尿垂れ流ししても中断することなく盛り続けるって。
大体、こちらに全く気付かないのもおかしい。
音はなるべく立てないようにしてきたとは言え、この距離なら扉を開けられた時の玄関フロアの蛍光灯の灯りとかでちょっとは気付くだろうに。
やっぱりクスリか何かキメてるんじゃないだろうか。
ちょっと、関わってはいけない人達の領域に来てしまったのかもしれないな。
そう思い至り、心の中で「取りあえず失礼しました~」と言いながら、そっと扉を閉めようとしたときである。
男の下腹部にあった女の頭が、勢いよく持ち上がった。
ずるりっ……
女の口には、男の下腹部から連なる、ぶよぶよとしたホースのようなものが咥えられていた。
そして、更に強くなる悪臭。
そう認識すると同時に、僕と女との目が合う。
(あっ。真っ赤だ)
女の、目も、口回りも、衣服の首回りも、そして床に広がっていく液体も。
な、ん……だ、こ……
「う……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
僕は唐突に認識した。
理解してしまった。
その有り得ない光景にも関わらず一瞬で理解できたのは、この光景は何度も見たことがあるからである。
矛盾しているようだが……以前見たのは現実でではない。
映画やゲームの画面での話だ。
……この女の口にあるのは、床に転がる男の腸だ!
作者メモ:現在20:45頃




