第144話 はじめてのきょうどうさぎょう
僕は思わず肩をすくめて「やれやれ」のポーズを取る。
はっきり言って、信頼が置けない者同士の同行は勘弁願いたいのだけど。しかも、結果的に先行役になるであろう上に飛び道具を所持していない僕の方が圧倒的に悪い立場だ。気が進まない。
しかしながら、僕の武装は防災斧のみ。おっぱいちゃんは拳銃を持っている。飛び道具ナシの状況は心もとないことは確かだったので、これはこれでアリかも……と無理矢理ポジティブに考えることにする。
「さて、と」
僕は覚悟を決めると、自由の身になって初めて、立った状態でぐるりと周囲を見渡したのだが……。
「……こりゃヤバいな」
それは、初めて見る光景だった。
いるいる。ゾンビさんたちがワラワラと!
今しがたしたばかりの覚悟が萎えていくのを感じた。
ここは国道41号線の真っただ中。片道二車線とは言え中央は自転車置き場になっており、それなりに開けた場所である。それもあるだろうが、すぐそこから何百メートルも向こうまで、続々とゾンビらしき人影がこちらを目指して来ているのが見えたのだ。
その数、ざっと3~40体。
これだけでも、今までに見たことのない数だが、国道の両脇の建物とか側道の陰等、死角の奥からも集まって来てるのは想像に難しくない。時間が経てば経つほどに増えていくに違いない。
これが、手を付けていない街の現実ということだろう。
今まで数えきれないゾンビを退治してきた僕ではあるが、それは散開して存在していたゾンビを、僕の部屋を中心にして計らずも各個撃破してきた結果だ。
一度に相手したことのある数はせいぜい3体程度であり、それも同時にではなく距離をコントロールして一体ずつ潰していった感じである。
いま眼前に広がる光景の様に、何十体ものゾンビに追われる羽目になった経験など、ない。
救いがあるとすれば、最近の映画みたいに飛んだり跳ねたり走ったりするようなハイパーゾンビは、見る限り居ないということくらいか。
ははっ。そりゃ、僕を助けるよね。
この状況から生きて出られる可能性を少しでも上げたいなら、嫌でも味方が欲しいよね!
とりあえず、おっぱいちゃんが僕を助けた理由が気まぐれではないということは分かった。
……悪くない。
気まぐれとかあやふやなモノではなく、ちゃんとした理由があってくれた方が安心できるというものだから。
「……おーけい。じゃあ、行きますか」
「ええ」
僕の独り言におっぱいちゃんが答える形で、二人の脱出劇が始まった。